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第三次スーパーロボトイ大戦  作者: おれごん未来


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第12話 古(いにしえ)の考える身体

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ロボトイ軍団はヒト知れず、残骸の処理を。異様な大きさを誇る昆蟲は、ジン類にとってはまだ未知の生物。絶対に知られるわけにはいかない。

 もちろん任務の最中倒れた友軍も。超雷神は、漆黒の勇者軍団が残した部品をたずさえ本隊があるという方角へと去っていった。

 他の者もそれぞれ、身を隠しつつ本隊との合流をめざし別れた。


『プラスチックが溶解せず、崩壊した、ですと?』


 詩音に対し質問しているのは部下。


「ああ、アンタらは見逃したか? その通り、粉になって崩れてったな」

『粉に……!』


 それがどれほどの事件なのか、もちろん詩音にもわかっている。どれほどのエネルギーがあの一瞬に込められていたのか。それで見た目にはダメージの認められないマイ。

 あれからただ立って微動だにせず、話しかけねば返答もない。周りが忙しく動くなか、ただ立ち尽くしている。


『それを為したのはあの輝ける手刀だと。腕に入った情報を使って? 腕にまでデータが入っている、などと? そんなはずは』

『兄さん?』


 詩音の連れてきた部下は兄弟機である。より厳密には、同じ日に製造された、同じ作品からの自動人形採用機。

 兄はウァサゴ、弟はアスタロト。弟は兄を兄さんと呼び、兄は弟と呼ぶ。詩音はそれぞれをウァサ、アスタと省略する。


『弟よ、いいか? 考えてもみろ、我らロボトイとは異なり、フィギュアの製造後改修は事実上不可能だ。なぜなら一度全身を溶融させてその中にAIチップを充填しなければならない。ではなんらか労してあの細腕、あるいは脚にチップを封入したとしても駆動軸だってあるんだ、肘や膝はもとより、肩、股関節の処理は繊細に過ぎる』

『脚にも? まさか』

『有り得んことはないだろう、より細い腕に入っているのだ、なれば脚にもと考える方が自然。そうなのだとして、兵はしょせん消耗品だ。いったいどうやって量産する? あれほど手間をかけてはフルスクラッチと変わらん。逆説的に、フルスクラッチなのだ、彼女は』

『はあ!? なんでまたフルスクラッチで? フィギャーなんかを?』

『知らぬさ。だが製造した創造者には必要だったのだろうよ』


 詩音は思案しつつ、ただ兄弟の会話を聞いていた。


(だとして。たかがいちフィギュアを懇切丁寧に作ったとして。それの全身にチップを仕込む意味は? デュアルコアAIを搭載する意図は? マイ。クレアマリスと同じ識別信号をもち、しかし異なる外見をもつ。アイツは? いったい?)


 識別信号はなぜかまた出ていない。なぜ引っ込めたのか。

 もの思いにふける詩音に対しアスタロトが問う。


『少佐、あやつはいったい何者なのですか?』


 ただ突っ立っていた、微動だにしなかったマイがぐらつく。先ほどまで機械的だった彼女に精気が戻る。


「ええッ!? どうして!?」


 スッポンポンである。

 マイはその間素っ裸であった。それを詩音が鼻で笑って。


「ふん、裸を気にするくらいは正気に戻ったらしい」

「ああああああ! ティッシュアーマーがああッ!?」

「それは戦闘中に無くなってたろ。ほれ、またアンタがほしいと言うと思って」

「アアア詩音ちゃん、ありがと? なに? 箱!?」


 詩音が手渡したのはポッキーの箱。それくらいしか見つけられなかったのだ。


「もうここらにはそんなもんしか残ってねえんだ。ぬれてないだけマシだと思ってくれ」

「ううう、なんでこんな目に……」


 そう嘆息しながら、マイは箱の底面に穴をふたつ、面積の小さい側面に穴をひとつずつ開け。

 作業を終えるといそいそと、その中に身体を収めた。

 脚を出し、腕を出し。

 頭は、帽子のように箱を閉じた。

 そこに詩音からツッコミが入る。


「もしかして、今ごろ恥ずかしいのか? さっきまで仁王立ちしてて?」

「言わないでっ」

「やれやれ」


 開封したポッキーの箱は、ジッパー部分が帯状に失われるため完全には閉じない。目線の部分だけ覗くマイであるが、両脚などはしっかりとした面積が外に出ている。

 マイ的には顔さえ隠れればしのげるらしい。


「あのさ、アンタがさっき失ったのはティッシュだけじゃない。そのことは覚えているか?」

「?」


 ポッキーは無言で傾いただけ。


「気づいてないのか、ライオタイガーのウルトラマシンもだ」

「そんな……!」


 マイはようやく思い至り、さっきまで外骨格腕がわずかに干渉していた肩をさわる。

 そこに熱はなく。ほんのひとときだけいっしょだった戦績だけが残った。


「その雰囲気じゃあ覚えてなさそうだから説明すっと、アンタが素手で成形炸薬弾? を放ったあと、残ってた肩や左脚のウルトラマシンが粉微塵に崩壊してな」

「粉!? 崩壊!?」

「ああ、例の貫手の負荷でだ。だからって気にすんな」

「そう……」

「って慰めて楽になれるんなら世話ないよなぁ。でも言わないでいるのもまたなんか違うような気がしてさ。なんでまた、創造主はアタシらにこんなもん植えつけたんだか」


 先のアスタロトの問いに、今ごろ詩音が答える。


「マイの創造者はおそらく、我が社の創業者であるところのダイバン氏、手ずからの作とみて相違ないだろ」

『なッ!!!!』

『なんですって!? では始祖の重合金と——』

「ああ、同時期の作だろうな」

『このフィギュアが? 始祖が遺した作品!?』


 畏怖の念と、畏敬の念、その他感情が幾重にも混ざった視線がマイを向く。急におかしな空気になったのであたふた両手を交差させつつ。


「ええっと? 始祖? わたしそんなおばあちゃんなんかじゃないよう」

「そりゃあ記録が消えちまったからだ。自分で言っといて驚くぜ、本当にクレアマリスが真名ならアフリカ戦終結の立役者、フィギュア解放の旗印でもあるだろ。アタシなんかよりよっぽどの大先輩だ。古りぃ考えかたするバカだとは思っちゃいたがババアもババア、半世紀以上も前のババアだったとは」

「バっ!? ババア!?!?」

「しかしアフリカが片付いたのはまだ48時間ほど前なんじゃあねえのか? なんでそんなやつが日本にいる?」

「アフリカのことなんて知らないよ。サポートさんも忘れてるっぽい」


 サポートさんとは補助AIのこと。名前はまだない。


「変なやつ。そもそもだ、そんなことも覚えちゃいない上、腕一本もの演算領域を失ったのであれば、普通ならアンタかサポートAIのどちらかが稼働限界を下回ってもおかしくないんだが」

「なんの因果か、この通り。……ヒジまでを想定していたのにね。右腕の可動には異常なし、でも右肩までの記憶と連絡がとれないや。ええっと? データは61%残存、あの攻撃による戦闘経験への影響は7%、許容範囲内と考えます、だってさ」


 なにか内々でやりとりをしていた兄弟機が、詩音に対し向き直る。


『では少佐、我々はこれにて』

『まだ火消しが必要な地域があるやもしれません』

「ああ、頼む。それと、博多の部隊が集まっているところがわかったら教えてくれ。アタシはもうちっとここにいるから」

『ハッ!』

『それでは失礼いたします』


 2機そろって北東へと進路をとった。

 兄弟機は本来ビークル形態に変形できるのだが、自動人形への魔改造を施した際にオミットされている。

 ゆえにヒト目を憚り、隠れて移動せねばならない。

 もし変形できたならある程度、非常時ともなれば堂々と移動ができた。走行中をジン類に見つかる最悪の場合でもラジコンと誤認してもらえる可能性の方が高い。

 その利点をオミットしなければならなかったのはやはり、変形機構が自動人形化させる最大の障壁であったため。

 それに匹敵するほどの手間をかけてもらえたらしいフィギュア。

 手間をかけてもらえなかった自身。アスタロトは合点がいかない。


『にしても、腕にデータが入っている、だと? 巨大な1/4フィギュアでもないくせに? 重合金のような太い腕でもあるまいに? チップを埋めるにはあまりに細腕、仮に脚にも入っているんだとして、どうやって?』

『それも不可解ではあるが、疑問なのは、どうやってあの少佐にごく短時間で取り入ったのか、だ』

『たしかに』

『あの少佐だぞ、皆目わからん』

『では洗電脳を!?』

『その兆候は。だがあの者、注意が必要かもしれん』


 兄にはひとつだけ思い当たるデータがある。


『全身で考え、奇跡を起こし、数多あるロボトイを導いたという。……全機失われたとされる、母星製ロボトイ。いにしえの考える身体、サイコフレーム……』

『あの? オングストロームサイズのチップが練りこまれているとかいう? しかも金属でなくプラスチックへの充填!? そんなバカなことが!?』

『自己組織化で鋳込むのではなく、樹脂中への均一分散。どちらの方がより難易度が高いかは言わずもがな。しかし、まさか、な。たとえ始祖の作であっても50年かそこら。年代が数万年は異なる。チキュウには持ちこまれていないと聞くしな。だがそうとしか』

『仮にそうであったとして、ではなぜあの程度の相手に苦戦を』

『確かにな。我らも対拠点制圧装備であったなら容易に撃破できた。その程度の相手に苦戦するなどと』


 兄はそこまで言い、最後は独りごちた。


(この数万年の開きに答えがありそうだ)

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