第11話 ガラス玉の目
「マイッ!」
『クレアマリス殿!』
一同はマイめがけて急行する。
「無事か!」
超雷神と詩音の部下はここで情報を共有。
『標的の活動は完全停止。どうやら決着のようだ』
『はい、応援は不要と認めます。救援要請は取り下げます』
『頼む』
『他もおよそ片付いたようですね』
ロボトイは事後処理へ。
マイは右腕を深々と、胴に肘まで突き通していた。金属製の銃弾さえはじいてみせたツノ無しの正面装甲を、プラスチックの貫手が容易に浸透せしめ。
敵を絶命させていた。
「んしょ」
腕を残骸から引きぬく。
ひじから先の右腕を何度も表にしたり裏にしたりして確かめる。
「よかったぁ、覚悟したほど変形ないや。ちゃんと冷えるまで抜かなかったのが勝因かな。指もちゃんと動くし」
「まさか!? プラスチックの右腕をあの外殻に突き通せたとでも言うのか!? いったい!? どうやって!?」
「っとと。えへへ、ちゃんと効いたみたい」
拍子抜けである。マイが至ってふつうにはにかむものだから、詩音は拍子抜けするしか術がない。
ただし、はにかみはまぶたと首の可動域による表現に限られる。頬はたとえマイであっても動かせはしない。
役目を終えて。崩れるのは、ウルトラマシンたち。
無傷だった部分も崩れるものだからマイは取り乱す。押しとどめようと手ですくうように、しかし指や腕の間をすり抜けて。
「ええっ!? どうして!?」
『気にしなくていい』
ウルトラマシンたちはそう言うが。
マイはライオタイガーと違い、ヘルオアヘヴンに最適化されてはいない。そのため漏電が発生、マイの体は異常なほどの高熱を宿していた。それはプラスチックが溶融するには十分なほどで。
『貴君が無事でよかった。ヘルオアヘヴンの負荷に耐えられただけで大したものだ』
「詩音ちゃん、ウルトラマシンたちが……」
「うん……」
詩音もとっさに言葉が出ない。
崩れる。はらはらと。
達したのは溶融するほどの温度、だが各部マシンは粉々に砕けて崩れる。実は電流や温度を超越した概念の負荷がかかっていた。
「こいつらはこれでよかったんだ、しゃあねえ。アタシらってさ、生き残ることよりも戦いぬくことのほうが大事、だろ? アタシもかくありてえよ」
「そう……なのかなぁ……」
最後は言葉を発せなくなり、ただ崩れるのを見守った。
あとで埋葬しようと、マイは細かくなったカケラをかき集める。だが思いのほか残骸は細かく軽い、ほんの少しの風でさらわれてゆく。
「あ……。ああ…………」
あとには、わずかに使われていた亜鉛合金パーツだけが残った。
「それで、だ。マイこのバカ! 危うく死ぬところだったろ!」
「ちゃんと計算したよ? 計算して、計算どおりになった」
マイの貫手は一度ツノ無しの体内で瞬時に溶融して奥深くまで浸透、実に腕の長さの3倍にまで達していた。
その後サポートAIによる制御で可能な限り自らの物質を回収。元通り腕の形に戻った。いくらか足りない体積に関しては、鋼鉄のようなツノ無しの体組織を拝借することで補った。
「危なかったけど、この程度で済んで万々歳ってとこ。あともう一回くらいは——」
「おいおいおい、アンタの右腕がオジャンになるところだったんだぞ?」
「まあね。でもみんなが倒れるくらいなら右腕くらいは」
「ふ。呆れたよ、アンタの勝ちだ」
詩音は助けられた側。実のところ、打つ手なしであった場面を救われたに等しい。だから観念して、負けを認めた。
「んで? どうやったんだあの技。データベースにもねえぞあんなもん。自動人形内蔵兵器一覧にゃ載ってなかった」
「あれ? あれはね、原理としてはカンタン、右腕に入ってるデータを暴走させて温度を上げたんだよ」
詩音には意味がわからない。
「右腕に? データが入ってる?」
「? うんそう。データが入ってる」
「イヤイヤイヤ、フィギュアつったら胴にチップが精々なんだって。箱型ズングリ体型のロボトイじゃあるまいに、おっと済まねえアンタら、とにかく腕に回路を仕込むなんて」
詩音は部下に対し愛想をし、部下も気にかけていない旨の返答を手でした。
だが詩音は詩音でロボトイを別個の存在として認識しているし、部下もまた部下で、尊敬しながらもどこかで差別をしている。
「でもそう言うんだ」
「誰が」
「サポートAIさん? 名前はまだない」
「右腕にデータ……。じゃあ何か? 右腕の電子回路の熱暴走を貫手でやったってのか!? しかもあの破裂音、まさか音速を超えた? 貫手のHEAT弾!?」
つまりは、成形炸薬型の戦車砲弾が標的に命中した際に起こる物理現象と同じ。手刀の先端が敵外装に接触したのと同時に高温高圧のメタルジェット、マイの場合は若干異なり、マイを構成する溶融した素材を装甲内に超高速で挿し入れたのだ。
「よく分かんないけどたぶん。それで合ってるって言ってる。右手ではこのさき計算ができないらしいけど、よかった、この程度で済んで」
「オイオイオイオイ! この程度で? 済んだ、だと!? アンタの右腕に内蔵されてるはずの記録野がぜんぶ消えちまったんだぞ!?」
「それで済んだんだからいいじゃない」
「アンタは……! 記録をいったいなんだと思ってんだ!?」
詩音は憤慨した、マイがことの重大さ加減を理解していないことに対して。
ロボトイやフィギュアにとって、データは何にも代え難いもの。身体の一部、こころの一部と言い換えてもいい。それを失ってヘラヘラしているマイを詩音は許せない。
「記録? アクセスもできない記憶に価値なんてあるのかなぁ。それにもう失っている記憶だもの、有効活用しなきゃ」
「バッカ! ちゃんとメンテすりゃあ戻る可能性だってあったんだっての! そこに何が入ってたのかなんて、アンタにだって分かんなかったはずだろ? 運動を司る部分どころか、もし自我が失われるなんてことになってたらどうするつもりだったんだ!」
「うん、まあ、そういうのは身体の中心に近いところに配置してるかなあって。これでもちゃあんと計算したよ。計算して、使った。だから後悔なんてないし、まちがってるなんてこれっぽっちも思ってない」
「なんつー目ぇすんだよおまえ……」
「どんな目って、そりゃあフィギュアのプリントされた画一的な目だよ。あなたたちと同じ、ね。まあ、わたしのはガラス玉が入ってるのかもしんないけど。たとえ触れても、なにも感じないただのボール。嬉しいときも悲しいときも変わんない、乾いた機械の目だよ」
マイはそう言ってころころと、自らのグラスアイを指で回してみせた。




