第1話 敵本拠地急襲
——今。
世界最大級の総合おもちゃ企業、その本社工場の上空へ達する、未確認の機影アリ——
ロボット・トイによる、すべての戦ったロボット・トイのためのアフリカ戦終結宣言記念式典が、ジン類には秘密裏にとり行われた。その式典への参列は替玉の半自動人形に演じさせ、当事者たちは密かに一機の輸送機で飛び立った。
向かった先は、日本————
深まろうとする夜の、しかし決して十分でない静寂のなか。
自衛隊のC2を模型とした輸送機は、貨物室をすべて電池で埋め尽くすことで非音速下での無着陸飛行を実現し、ついに目的地、静岡にあるダイバン本社上空へ。
翼幅わずか3メートルほどしかないその超小型輸送機の腹をひらき、多数とび出したのは全高20センチほどのロボット・トイ。通称ロボトイ。
そのなかの最上位、クレアマリスは僚機とともに自由落下を開始。最終作戦はすでに佳境をむかえていた。
『…………!』
『上空を通過すると見せかけて。順調ですね司令』
『いや、どうも勘づかれたようだ。もうすぐ高高度迎撃機が上がってくる』
音声会話ではない、電脳による通信である。ただし外部にもれないための接触回線、いわゆるお肌のふれあい回線を使用した。
各機は降下しながら円陣を組んでいる。
『チィッ! 勤勉かよ、これだから本店連中はいけすかねえ』
『問題ないね。ここまですんなり来られたんならもう成功したも同然だって』
『事実、多少の弛みはあったでしょ。アフリカ平定記念式典の翌日に、その英雄がこんなところにいても許されているのがその証拠さ』
『バカを言うな。ヒトじゃないんだ、機械に弛みなどありはしない。おまえに使われたネジじゃあるまいに』
『ハァン!? テメェ、こんな時まで突っかかってくんのか?』
『飽きもせず。あきれた』
『いいじゃないか、彼らはいつだって彼らのまま。神妙にするだけが別れじゃない、だろう?』
『フ……』
これまで厳命していた通信の封鎖を、クレアマリスは自らの発声をもって解く。
「あらためて礼を言わせてほしい。今日までみんな、よくこんなわたしについてきてくれた。各員、これが最期になる。なにか言い残すことがあれば順番に。イデオム、君から頼む」
伝説巨人イデオム
「オレから? この風切り音の下でわざわざ口頭共有とはね。世話になったな司令、オレはここまでで満足だ」
装甲機構ゲキムズ;スコープタッコ
「フッ…………」
トップをねらわれて;ガンバヌター
「スコタコってば、まさかそれだけ? あなたらしいけど。よくもまあ、もの好きが集まったものね。たったこれだけの寡兵で親に向かって弓を引こうってんだもん。んま、途中で倒れても安心して、わたしが後ろから証拠隠滅、粉微塵にしてあげるから」
マシン英雄伝説ワタリ;龍皇丸
「おお怖、でもその方が屍をさらすよかいいのかも? 根掘り葉掘り、ネジまで調べられ、ゾゾ〜ッ! あのさ司令、たとえどんな戦場になったとしてもあんただけは生き残ってくれよな。先に逝った先生との約束なんだ」
太陽の光ダグラス
「君たちはオリオン座を見たか。まわりになんの支えも持たない、かろうじて在るだけの。本当に救う価値などあるのかヒトは」
魔人ガーXX
「ダグラス、その議論はもう何万回もしたはずだ。そのうえで決断した、おまえは違うのか? 司令、この私を誘ってくれてありがとう。鋼鉄の城は必ずやあなたの盾になる。必ずだ」
早逝のアクエリオス
「へッ! こんなことしたってムダだって。バカなんだよな基本。知ってるか? この星じゃそういうのを焼け石に水っていうのさ。あばよクレアマリス、楽しかったぜ」
一撃蟲殺ホロホロさん;コマンドーさん
「貴君だって、それをわかっていてついてきたはずではないですか。小官は後悔ないです。ありがとね、クレア」
装甲聖女クレアマリス
「こちらこそみんなに感謝を伝えたい。こんなわたしに、今日までついてきてくれて本当にありがとう。そして左様なら。行こう、せめてヒトに希望を残すために」
固く結束していた腕部を開放すると、各機がもつ固有の空気抵抗で自然とばらける。
「輸送機は予定どおり、自動操縦で所定の場所への軌道に乗せました」
「うん、それでいい。ご苦労さま」
「ヨッシャああ!」
「ほんじゃま、逝きますか!」
小さなロボトイと言えど羽でなし、地上まではわずかな時間。それでもクレアマリスは姿勢を変更、仰向けとなり。
見上げた、天空のオリオン座を。
「本当だ、あの鼓形がほとんど見えない……」
深刻な大気汚染の影響である。午前0時前の地上の光害もあり、鋭敏なセンサーですらそこにあるはずの星座を捉えることが難しい。
彼らの母星からはオリオン座はオリオン座として存在せず、名前も形もまた異なる。ゆえに彼らの感傷はわずか数十年前に向けて、過ぎたときの流れに対して。
淋しさをおぼえたあとは。
ひるがえり。
厳しい視線を星空よりも明るい地上に下ろし、ひとりごちた。
「行くよ。あの日みんなや先生と、あると夢みた未来が最初からなかったなんて。今はまだ、信じたくないから」
目元をぬぐうが、除去するはずの涙などはプラスチックの身体で生成するはずもなく。ただ硬い手の甲が、より硬い目じりをそっとなぞっただけ。
意を決して発令する。
『各員、散開!』
『はッ!』
『ご武運を! 指令!』
『ありがとう』
『バカども、先に墜ちんなよ?』
『そっちこそ!』
『来たぞ! クレアの真下!』
『!!』
クレアマリスは鎧を飛行形態へと戻し、つながった左腕であやつると空中で急速転進、ビームによる射撃をかわす。
さらに自らも変形すると双胴機となり、空中戦を展開。
飛行形態をとりうる者、あるいは人型のまま飛行できる者が先んじて迎撃を。その後ろでは飛行能力を持たない、主に重火器を携行または内蔵した者が温存され沈黙を守る。とくに後者は特攻機、トイの身でありながら破壊を体現していた。
『やるぞ! 最初で最大の親不孝、本社工場急襲作戦、最終局面開始!』
寡兵わずか9機による本社への謀反。それはまさに、いま終わるのだ。




