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ノゾキ、ダメ、ゼッタイ。

朝。

宿の天井がいつもより近く見えた。

――いや、実際に近いのだ。

顔が腫れすぎて枕が沈んでいない。


「……痛ってぇ……。」


頬はリンゴのように真っ赤。目の周りはパンダ。

あの夜の“修行(?)”の成果は、しっかり顔面に刻まれていた。


隣の部屋からはユキが無言で荷物をまとめている音が聞こえる。

何も言わないけれど、怒っているのは見えていた。

それはもう超視力を使わなくても。


「お、おはよう……。」

「おはようございます(棒)」


声が冷たい。冷気属性。

あの爆発より刺さる。


―――


酒場にて


宿の朝食は当然キャンセルだった。

爆発の件を許してくれた女将さんに頭が上がらない思いだ。

代わりに二人で近くの酒場へ。

早朝から飲んでいる酔っぱらいの笑い声が、痛む顔に響く。


「……雑炊が血の味だよ……。」

スプーンを動かしながらつぶやく。

ユキはじっと見ている。

その視線が痛い。


「……で?言い訳は?」


「言い訳じゃなくて説明をさせてくれ。

 あの能力、盗撮の神が言うには実は“覗いた相手が強化される”らしいんだ。」


「……つまり、ノゾかれた私が強くなったってこと?」

「そうなる。」


ユキは呆れたようにため息をついた。

「なんでそんな変な能力なのよ…。」

「俺が決めたわけじゃない……神様が変態なんだ……。」


Mの声が頭の中で明るく響く。

「おーい、誰が変態だい?僕は芸術家だぞぉ?」

「お前が喋ると余計にややこしいんだよ!」


―――


桑野は真剣に言葉を続けた。

「この能力には代償がある。

 覗いた対象が強化される代わりに、俺が“その攻撃の被害者”になる。

 だから防具でダメージを受け止めて、

 ユキがその力で敵もろとも俺を吹き飛ばしてほしい。」


ユキは目を丸くする。

「ちょっと待って、それって完全に自爆じゃないですか。」

「違う!相打ち戦法だ!」

「結果的に同じでは?」


桑野は苦笑いする。

「……それでも戦いを終わらせるためだ。」


その言葉には妙な説得力があった。

ユキは口を閉じ、少しだけ頷いた。



ーー


「というわけで実験だ。」

「やめましょう。」

「いや、やらないと次に進めない。」


桑野は立ち上がり、手を合わせるように言う。

「じゃあ……その……着替えを――」

「ダメです。」


「じゃあ……へそ。」

「へそ?」

「へそくらいならセーフだろ。」


「なんで“くらい”の基準がへそなんですか?」

「いや、なんとなく部位を想像するなへそかなぁ…と」


「ヘソフェチとはまたマニアックな性癖ですなぁ…。」

唐突に話に参加するM

「会話に唐突に入ってくるなよ…それと僕に変な性癖をつくるなよ…。」

「? 何か言いました?」

盗撮の神の声はユキには届かない。

「いや、こっちの話だよ…。」


しばらくして二人はギルドの裏手にある訓練場に立っていた。

ユキは木人を前に構え、桑野はヘルメットと胸当てを装備している。

「よし…ここまでやれば防げるだろう…」


「よし、じゃあいくよ!」


桑野はそっと目を細め、能力を発動した。

超視力サプライズ・マレスターッ!」


桑野の眼前にはユキのヘソが広がる。

普通のヘソだ。

なんの特筆すべきところもない清潔なヘソだ。

「綺麗なんだなぁ…」

思わず声が漏れる。

「…馬鹿…!!」

瞬間、ユキの身体から放たれる閃光。

「今だ!僕を木人に巻き込むんだ!」

SMAAAASH!!

拳の質量が身体にぶつかり破裂する。

「ぐふっ…!」

木人どころか近くの壁に大穴が開く。

周囲の冒険者たちのどよめき。


「姉ちゃん若いのにすごいじゃないか!」

照れるユキ。

「桑野さん!無事ですか〜?」

「…まあなんとか…。」

「…顔、青いですよ…?」

ガクン。

そのまま桑野は崩れ落ちた。


ーー


桑野は目を覚ますと、宿のベッドの上にいた。

ユキが心配そうに見下ろしていた。


話を聞くとあの後近くの冒険者たちに頼んで宿屋に運び込んだらしい。


「…あんなパワーがあるならユキ一人で僕を担ぎ上げられたりしないんですか…?」

「攻撃の後に急に力が抜けてしまって…。」

「なるほど。」


ユキと話し合い、現状この能力のデータを整理するとこうなった。

◯基本的にノゾキをする対象をパワーアップさせる能力。

◯ノゾキを成功させるかわりに能力の発動者が罰としてノゾキの対象からパワーアップ状態で攻撃される。

◯攻撃はパワーアップ状態で1回だけ出せる。

◯攻撃を当てる対象が能力の発動者ならある程度攻撃先をコントロール可能。


「改めて使えない能力ですね…。」

「うん。」

「でも攻撃能力としてはかなり強そうに感じますね。」

「でも桑野さんがボロボロになっちゃいますよ…?」

「でも正義の為だから…。」

「もっと自分を大事にしてください!」


ユキの声は怒っているが、少しだけ優しかった。


「でも……戦いを終わらせるためだ。」

「……バカ。」

その一言が妙に心地よかった。


ーー


訓練も終わり、夕方の市場へ。

新しい防具の素材を探して一人で歩いていた。


そのとき――路地裏で、怪しい男たちが何かを取引しているのが見えた。

布袋の中には、淡く光る草の束。


「……なんだあれ?」


桑野が落ちた一本を拾う。

独特の香がする。

「うわ、変な匂い…。」


頭の中でMが口を開く。

「それは“対魔草”だな。

 僕も前の世界で似た名前の草を使ったことあるけど、それとは似ても似つかないよ。

 まるで中毒性だけを増やしたケミカルな粗悪品だよ。」


「……なんでそんなに詳しいんだお前。」

「僕とドラッグの神は仲良しでね。それと芸術に効果的なんだ。」


まるで父のバンド仲間のMのようだった。

「本当にMとは無関係なのか?」

「まあ似た存在ではあるよね。」

「…。」


取引していた商人たちが去る間際、

会話の中でひとつの名前が聞こえた。


「…“大葉 太陽”様の命令だ…。」


「大葉…?」

Mがすぐ反応した。

「おっと、そいつはちょっと厄介だぞ。

 そいつも転生者だ。植物の神と契約してる。」


桑野は眉をひそめる。

「植物の神……?ドラッグの神じゃなくて…?」

「うん、“草”を操るのさ。

 その退魔草もその能力でつくられたんだろうね。

 僕の大親友のドラッグの神なんかより全然格上だよ。」

「でもこんなものを流通させるのは…。」

「…ただ大葉には巨大な闇ネットワークがあるぞ。

 だからアイツがいる限りここら一体の麻薬の流通は止められないだろうね。」


桑野は拳を握った。

「……放っとけないな。」


Mが笑う。

「ま、行くなら気をつけろよ。

 僕は応援してるよ。」


夕陽が街を赤く染めていた。

桑野の顔の腫れも、まだ赤いままだ。

痛みを抱えながら、それでも彼は笑った。


「…大葉…!絶対倒す…!」

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