2つの正義
ゆうたの亡き骸があった場所には命の灯火とも言うような焚き火がひとつあった。
その火を挟んで、桑野と鈴木が対峙していた。
「……なんでだよ、鈴木。ゆうたを……なんで殺した?」
桑野の声は怒りでも、嘆きでもない。
ただ、理解したかった。
鈴木は無言で剣を地面に突き刺した。
そして、目を伏せたまま言う。
「理由なんて単純だ。転生者はみんな、自分のことしか考えてない。
神様に選ばれたとか、与えられた力とか、そんなもんに酔ってるだけだ」
「……だから、殺したのか?」
「そうだ。この狂った争いは犠牲がなきゃ終わらない。
どんな理屈をつけても、誰かが血を流す。
それなら俺がやる。汚れ役は、俺だけでいい」
火の粉がはぜた。
桑野は唇を噛む。
「ゆうただって……変わろうとしてたんだ。
あいつ、俺に謝ってたんだよ。『自分が間違ってた』って」
「……そんなもん、後からなら誰だって言える」
鈴木の声は硬いが、ほんの少し揺れていた。
それに桑野は気づく。
「話せばわかったはずだ。俺たちは“やり直す”ために転生した。
やり直す機会を、殺しあいで終わらせるなんて……神様もがっかりするはずだ。」
「……神様、ね」
鈴木が小さく笑う。
その笑いには、諦めにも似た苦味があった。
「お前も、あの神たちを信じてる口か?」
「信じてなんかいない。でも僕たちの能力は本物だろうね。」
「そうかもしれないな。」
一瞬、沈黙。
夜風が吹き、炎が細く揺れた。
「なあ、桑野」
鈴木はふと、火を見つめながら言った。
「この世界は狂ってる。転生者が増えるたび、何かが壊れていく。
“力”を与えた神は何を考えてる? なぜ、俺たちを選んだ?」
「わからないけど、
争いのためだけに力を与えたとは思いたくないんだ。」
桑野は答えた。
「改心できる奴がいるなら信じたい。
そして神が敵なら…!」
鈴木が桑野を見つめる。
焚き火の光が、二人の瞳に映った。
「……いい目をしてるな。
だが、今のままじゃお前が先に死ぬ」
「それでも構わない。俺は俺の正義を信じる」
鈴木は短く息をつき、剣を拾い上げた。
「なら俺は、俺の正義を貫く。
転生者を全員殺す。
そうすれば、この狂った戦いも終わる。」
背を向ける鈴木の足音が、砂の上に響く。
桑野はその背中に呼びかける。
「今度会う時、敵になっても構わない。
でも――お前が間違ってた時は、俺が止める。」
鈴木は振り返らずに言った。
「……その時、お前がまだ生きてたらな」
そう言って、夜の闇に消えた。
しかし桑野には、その背中に迷いが見えた気がした。
――あいつも多分誰かを救いたかったんだ。
方法が、違うだけで。
ユキがそっと近づく。
「…行っちゃいましたね。
でもあの人が悪い人には見えませんでした…。」
「悪い人じゃないさ。
ただ、正義の形が違うだけだ」
桑野は小さく笑った。
「行こう。俺たちの“やり直し”を探す旅だ」
遠く、風に乗って鈴木の声が聞こえた気がした。
――『転生者も神も許さねぇ。全て叩き斬ってやる』
桑野は無言で夜空を見上げた。
流れ星がひとつ、落ちた。




