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戦神(いくさがみ)の真の能力

夜空を裂くように、村の北で光が上がった。

稲妻のような閃光、続いて地鳴り。

桑野は息を呑み、考えるより先に駆け出していた。


村の外れに出ると、そこには黒く焦げた家々の残骸。

土煙の向こうに立つのは――ファー付きのコートに、鈍く光る鎧をまとった男。

その背後で、数人の女たちが怯えながら膝をついている。

中心には、見慣れた黒髪――ユキの姿があった。


「嗅ぎ回ってる奴がいるって聞いたけど……お前か?」


鎧の男が、獰猛な笑みを浮かべて声をかけてくる。

その口調には妙な芝居がかった響きがある。

だが――虚勢が混じっているのは明らかだった。


「……ああ、ゆうた…か?」


男はにやりと笑った。

「そうさ。オレは“戦の神”と契約した、選ばれし転生者だ!」


「……戦神? 見た目は防寒の神っぽいけどな」


ゆうたの顔がひきつる。


「てめぇッ!」


次の瞬間、彼は地を蹴った。

鎧の重みを感じさせない速度で突進し、ぐるぐると腕を振り回す。


――ドゴォッ!


拳が空を切るたび、風圧で地面が裂け、建物が崩れる。

だが、当たっても……痛くない。

まるで子どもの空手ごっこだ。


桑野は片手でその拳を受け止め、静かに言った。


「……戦の神、ねぇ」


周囲のゆうた派の村人たちがどよめく。

「神々の戦いだ……!」

「ゆうた様が怒っておられる!」


「うるせぇッ!」ゆうたが怒鳴り、再び突っ込む。

だが桑野は一歩も動かない。

(なるほどな。戦の神じゃなくて、ただの“異世界人”としてのフィジカル差でイキってただけか)


ゆうたの肩が震える。

焦りが見える。

そして――彼はつぶやいた。


「……本気を出すか」


彼は鎧の下のブーツを脱ぎ始めた。

裸足になった足を地面につけ、低く腰を落とす。


「出た! 戦の神の加護を使う気だ!」

取り巻きたちがざわつく。


ゆうたが地を蹴る――否、地を押す。

その動きはさっきまでより確かに重く、速い。

タックルが飛び込むたびに、地面がめり込み、轟音が響く。


(ああ……そういうことか)


(裸足、低い重心、張り手――)

桑野は無意識に苦笑した。

「……お前、“戦神”じゃなくて“相撲の神”だろ」

桑野は、ようやく確信した。


「はぁ? 何を言ってやがる!」

「いや、動きが完全に相撲。しかも素足だ。

面白い程そのままだ。」


ゆうたがぎくりとする。

桑野の推測に、思わず顔をしかめた。


「……今更気づいても遅い!」


張り手が飛ぶ。

桑野は体をひねり、かわす。


だが次の瞬間――ゆうたが両手を大きく広げた。

「くらえ! 小宇宙爆発ビッグバンッ!!」


バンッ!!!


両手を激しく打ち合わせた瞬間、爆風のような衝撃が前方に走った。

白光が走り、砂塵が舞い上がる。

目が眩むほどの閃光。

桑野は反射的に目を覆う。


(これって…。)


視界が戻ると、ゆうたは鼻息荒く胸を張っていた。

「どうだ。これが俺の“真の戦闘術”だ!

神々の小宇宙コスモを感じただろ?」


「……いや、ただの猫だましだろ、それ…。」


「黙れッ!」

再び張り手が飛ぶ。


(暴力はよくない。でも……試合形式ならセーフだ…。)


桑野は足を広げ、腰を落とした。

相撲の姿勢だ。

相手の土俵に乗るのは少ししゃくだったが、仕方ない。


「……勝負だ」


二人の体がぶつかる。

鉄と肉の音。

桑野は全力で押し、投げようとする――が、びくともしない。


ゆうたが得意げに叫ぶ。

「俺の能力は“足の裏が地面から離れなくなる”能力だッ!付け焼き刃の相撲など効かない!」


ゆうたの足元を見ると文字通りピッタリと張り付いていた。


「……。」


桑野は一瞬考える。

(地面から離れない……。

その限り相撲として有効打を与えることは不可能だ。)


絶望的な状態だ。


その刹那、彼の脳裏に父親の出演していたテレビ番組の記憶が蘇った。

『相撲は神聖な競技だから、土俵は女人禁制なんだなぁ。』


――あ。


桑野は小さく笑い、ユキを呼ぶ。

「ユキ、ちょっとこっちに来てくれ!」


ユキが数歩、土の上に近づいた瞬間――


ゆうたの体がぴたりと止まった。

顔が青ざめ、膝が震える。


「…!お前一体何をした…?」


「たぶん、能力を発動した場所は土俵扱いなんだろ。

神聖な試合に女性が割って入る、相撲の神としては面白くないだろ?」


「ば、バカなっ!」


桑野はその隙を逃さず、相手の腕を取る。

「……のこった」


軽やかに体をひねり、一本背負い。

ゆうたの巨体が宙を舞い、地に叩きつけられた。


「も、もう悪いことはしないな?」


「……ゆ、許してくれ……もう悪いことはしないからさ……」


その言葉を聞いて、桑野は少し息を抜く。

――その瞬間。


音もなく、斬撃が走った。


ゆうたの体が、縦に割れた。

熱とともに血が舞う。


「……甘いなぁ」


煙の向こうから現れたのは、黒い スーツの青年。

剣を肩に担ぎ、笑っている。


「殺し合いなんだから、ちゃんと“殺さなきゃ”」


「…!!」


コイツは一体何者なのか?

なぜゆうたを殺したのか?

疑問が脳裏を巡る。


そのとき、ゆうたの亡骸が燃え上がった。

火の中から、巨躯の外人力士の幻影が現れる。


「あーあ、残念デス……」

炎の中に消える神の残響。


「次はお前の番だ。」

「お前は一体…?」


「俺の名前は鈴木、鈴木すずき 幸政ゆきまさだ。」


夜風が鳴る。

そして、戦いの幕は再び上がった。

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