戦神(いくさがみ)の使徒「ゆうた」
とりあえず、腹が減っては戦はできぬ。
村に着いて最初に向かったのは、定番の情報収集スポット――酒場だった。
軒先には木製の看板に「酒あり〼」とだけ書かれている。
中に入ると、煮込みの匂いと酒の香りが鼻を突いた。
異世界モノの酒場のイメージそのままだった。
「樽……だ。樽の酒がある……!」
思わず呟く。
呑みたいのはやまやまだったが、未成年飲酒などは許されない。
僕は泣く泣くブドウ酒を諦めた。
「煮込みをください。」
僕は店主に言った。
「はいよ。」
店主は出際よく鍋から煮込み料理を取り出し盛り付けた。
「おお…。」
まさに異世界料理という雰囲気だった。
茶黒い汁の中に肉と人参が入っていた。
肉はプルプルしてゼラチン質のようで例えようがなかった。
「…うまい…!」
感動していると、隣のテーブルの酔っ払いが騒ぎ始めた。
「ゆうた様ってさぁ、性格は悪いけど、女の趣味だけはいいよなぁ!」
「ははっ、ほんとそれな!
一人でも分けくれりゃいいのにな!」
「おいおい、命が惜しけりゃあんまり大声で言うなよ。
ゆうた様に聞かれたら“神罰”だからな!ガハハ!」
笑い声。けれど、その奥に怯えが混じっていた。
聞き耳を立てていると、どうやら“ゆうた”という転生者が、村人に女を“献上”させているらしい。
拒んだ者は“戦の神の力”とやらで殺される。
……くだらない。
神の加護をこんなことに使うのなんて絶対に許されない。
それに神の名を盾に女を貢がせるような奴、どう考えても“クズ”だ。
器を置き、深呼吸をする。
怒りはある。だが、準備もなしに突っ込むのは自殺行為だ。
「……まずは装備を整えるか」
そう呟き、防具屋へ向かった。
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「悪いが、売れるもんはもうないよ」
開口一番、店主が言った。
棚はほぼ空。鉄製の鎧どころか、安物の革ベストすらない。
「在庫切れ?」
「……いや、全部、ゆうた様への献上品さ」
吐き出すように言う。
どうやら防具も武器も、戦神の使徒“ゆうた”に取られてしまったらしい。
「抵抗したらどうなる?」
「“神罰”だよ。昨日も一人、首を……」
店主の手が震えていた。
それ以上聞けず、礼を言って外に出る。
その後も何軒か回ってみたが、どこも同じ答えばかりだった。
薬屋も、仕立て屋も、みんな“ゆうた様に献上済み”。
この村全体が、奴の私物のような状態だ。
太陽が傾き、風が冷たくなってくる。
俺は村の中央の広場にあるベンチに腰を下ろし、空を見上げた。
曇天。重い空。どこか息苦しい。
そのとき、近くの若い男たちの会話が耳に入る。
「新しいハーレムのメンバー知ってるか?
黒髪の美人さんらしいぞ。」
「一度だけ見たけどよ、なかなかたまんない見た目だったぜ。」
「一度でいいから、ゆうた様の女と「イイコト」したいぜ…。」
笑い合う声。
その言葉の一つ一つが、
胸の奥をじりじりと焼く。
黒髪の美人。
心当たりがある。
ユキ――。
まさか彼女は転生者への貢ぎ物としてこの村に来たのか…?
「……ふざけるな」
思わず口から出た。
立ち上がる。
探さなければ。
“戦神の使徒”と呼ばれる男が、どんな奴か――この目で確かめてやる。




