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嗚呼、素晴らしき哉、異世界転生!

夜が明けた。

鶏の鳴き声で目を覚ましたのは、生まれて初めてだった。


桑野慶喜は、粗末な木のベッドの上で天井を見つめていた。

天井板の隙間から差し込む光が、まるで現実感を欠いた夢のように見える。

昨日の出来事――神、転生、そして風呂の中の悪夢――すべてがまだ頭に残っていた。


「……作り物にしてはリアルすぎるんだよなぁ…。」


起き上がると、農家の夫婦が朝食を用意していた。

香ばしいパンと、具の少ないスープ。

味は薄いが、どこか懐かしい。

香辛料の少ない食卓。

塩味だけでごまかす素朴な味に、なぜか安心してしまう。


現世とほとんど変わらない食文化。

それがかえって心を落ち着かせた。


食後、桑野は礼を言い、

少しでも恩を返そうと畑に出た。


農夫の仕事を手伝うのは初めてだったが、意外と体は動く。

これも転生特典の一環だろうか?


干し草を運び、牛舎の掃除をし、牛の背を撫でる。


「おめぇ、仕事できるでねぇか?」

「いや……こっち来るまでは、パソコンばっかりいじってました…ははは…。」

「ぱそこん? それって新しい鍬か?」

「……まあ、似たようなもんです。」


そう答えながら、桑野は少しだけ笑った。

泥と草の匂いの中で、久しぶりに人間らしい会話をしていた。


昼。

木陰の下で、夫婦とともに昼飯をとる。

農夫がパンをちぎりながら言った。


「そういやぁ、“転生者”ってのがまた暴れとるらしい。」


「転生者……?」


「ほら、神に選ばれて別の世界から来たっつー奴らだべ。

この辺じゃ“神人様かみんさま”とか呼ばれとる。

まぁ、ありがたがる奴もおっけど、ありゃ実際はロクなもんじゃねぇべ。」


農夫の妻が口を挟む。

「別の村じゃ“転生者”が城を乗っ取って、

貢ぎ物を出さねぇ奴を皆殺しにしたって話もあるだよ。」


「でも、王様も兵士も敵わねぇんだ。

なんせ“転生者”は魔法の領域を超えた“チカラ”を持っとる。

普通の剣も魔法も効かねぇ。どうにもならんのよ。」


「ほかにも“転生者”と関係あるかわっかんねぇけど、

村が文字通り「消えた」なんて話も聞いたなぁ。おっかねえで。」


そう言いながら、農夫はスープをすすった。

「ま、オラたち農家には関係ねぇだ。

明日も畑ができりゃ、それでいい。」


桑野は手を止めた。

胸の奥に重いものが沈む。


(転生者が……暴れてる?)


脳裏に、昨日のナ・ロウの言葉が蘇る。

「転生者は互いを殺し合い、神格を高める。」


(……村が一つ消滅したって話、あれも……。)


掌が汗ばむ。

嫌な予感がする。


そして、桑野の中の“正義マン”が顔を出した。

やっぱり僕に悪人なんか性に合わなかったんだ。


「すいません。この辺で、

“転生者”が出た村ってありますか?」


「おめぇ、行く気か?」

「……放っておけません。」

「バカだなぁ、おめえは。」

「僕にも力があります。それは…。」

農夫はため息をついた。

「なら、そこまで送ってってやる。

だけんど“転生者”はつえぇど?」

「わかっているつもりです。」


――


午後。

桑野は荷馬車に揺られていた。

運転しているのは筋骨隆々の大男。

隣には、荷台に座る若い女性。


「“転生者”って、どんな人たちなんですか?」


大男が口を開く。

「炎の神と契約した男がカルトを率いとる。

民に“もっと熱くなれよ!”と叫びながら街を焼いたりしてたなぁ。

“転生者”の考えることはオラにはわからん。」


(僕、多分その神の名前知ってる…。)


「それと水の女神と契約したって言ってる女は、

日照りにしたり洪水にしたりオラたち農家の敵だなぁ。」


(水…神…?一体誰だろうか…?)


「あと“草の神と契約した男”がいてな。

カミサマの草っていう怪しい草を売っとる。

燃やしたら幸せになれる草らしいんだけどよ、王都じゃ取り締まられとるな。」


(草で捕まった神なんていくらでも候補があるぞ…。)


桑野は頭を抱えた。


「まだ村は見えねぇなぁ。」

「見れるといいんですけどねぇ…。」


「あ、あれじゃないですか?」


「? 一体どれだ?」


その瞬間何故か顔に痛みが走る


「ッ…!?」


「…痛った!なんですか急に!」

「す、すいませんっ!虫がいたので…。」


桑野は全くツイてないなと思いながらその女性を見た。


顔立ちは結構な美人だった。

芸能人で言うと誰に似ているとか書くと“サクジョ”されそうだからやめておくが、

一言で言うと「黒髪美人」だ。


「あの、あなたは村にどういった目的で行くんですか?」


「…。観光ですよ…。」

彼女はためらいながら答えた。


風に黒髪が揺れる。

視線は足元に向く。


どちらかというと鈍感な桑野でも観光目的ではないのはわかった。

でもそれ以上追及するのは野暮だと思い引き下がった。


「…ああの、僕は悪いことをしている“転生者”を注意しに行くんです。」


それを聞いていた大男は笑い出した。

「ブハハ!ばっかでぇ!

何の力も魔法もないオラたちが“転生者”なんか敵わないだよ。」


そしてさっきまで落ち込んでいた女性がたまらず吹き出した。


「…ぷっ!」

「そんなに僕がおかしいですか!?」

「おかしいよ…。“転生者”に注意どころか気にくわないと殺されちゃうもの。」

「そうなんだ…。」

僕が“転生者”であることを言うと怖がらせてしまうと思い、

何も言えずに黙り込んだ。


「…でも、ありがと。お兄さん名前はなんていうの?」

「僕の名前は桑野 慶喜。みんなは桑野マンって呼ぶよ。」


「桑野マン!面白い名前だね。」

「君の名前も教えてよ。」

「私の名前はユキ。」

「へぇ…。かわいい名前だね。」


――


しばらくすると馬車は村にたどり着いた。

さっきまでいた集落とはくらべものにならないくらい栄えていた。

そして何よりこれまでたくさん見てきた異世界モノのような、

the異世界という風景が広がっていた。


石畳の地面に木造の建物!

活気のある市場!!

そして亜人(獣人?)が普通に歩き回ってる!!!

ランドマークであろう噴水の前には

琵琶みたいなギターみたいな謎の楽器を持った吟遊詩人!!!!


今自分が異世界にいるんだという実感が

遅れてやってきた。


ここに来るまでずっと最悪な気分だったが、

「異世界転生って実はかなり素晴らしいことなんじゃないか?」

というレベルまでに回復していた。


嗚呼、素晴らしき哉、異世界転生!


「…僕の冒険はこれから始まるんだ!」

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