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車のエンジン音だけが、

淡い夕暮れの中に溶けていく。


薫がハンドルを自動運転にして

ちらりと助手席を見た。


「……………………お前、顔やばいぞ」


「は?」

思わず振り向く。


「いや、マジで。

 グランプリ取った時でもそんな顔してなかった。


 ……ニヤけてんぞ」


「してない」

「してる。すげぇしてる」


薫は吹き出した。

「苺に恋したパティシエとか、新しいな」


大樹は無言のまま窓の外を見た。


(……香りが、まだ消えない)


指先に残る甘い匂い。

唇の裏にほんのり残った酸味。

それが何度も甦る。


「まさか……だよな?」

薫の声が、少しだけ柔らかくなる。


沈黙。


大樹は小さく息を吐き、

前を向いたまま言った。


「……その“まさか”かもな」


薫の手が止まる。

「マジか」


「仕事で行ったはずなんだけどな…」


車内に笑い声が響く。

けれどその奥で、

大樹の胸の奥は、静かに燃えていた。


紅茶色の瞳。

冬の光を纏う横顔。

ふと漏れた、あの笑顔。


(……惚れたのかもしれない)


そんな言葉を飲み込みながら、

彼は助手席で小さく笑った。


「……仕事って、便利な言葉だな」


薫が片眉を上げる。

「便利?」


「“会いたい”を隠せる」


車はそのまま、

冬の空を切り裂くように走り抜けた。


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