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プロローグ
唇が触れた。
ほんの一瞬、呼吸の仕方を忘れるほど…
彼女の体温が伝わる。
柔らかくて、脆くて、
まるで壊れそうな苺の果肉みたいに、甘かった。
「……っん…やだ………」
吐息がこぼれた。
名前を呼ぼうとして、
喉の奥で言葉が溶けて消えた。
――わかってる。
彼女の心が、
俺にないことくらい。
それでも抱きしめずにはいられなかった。
この腕の中でしか、
もう彼女を守れない気がしたから。
愛してはいけないと知りながら、
愛してしまった。
あの日、冬のハウスで出会ったときから、
運命なんて信じないと思っていた。
それでも――
紅茶色の瞳が、俺の世界を変えた。
あの瞬間からすべてが始まり、
そして、終わっていたのかもしれない。