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豪華絢爛

 僕の名前は猫又エマ。約二週間前にこの街にやってきた。

 年齢、身元、使命、なーんにも分からない正体不明の可愛らしい少女、それが僕だ。

 この名前もお姉ちゃんと運命的な出会いを果たした時に貰った、僕をこの世界に引っ張り上げてくれた大切なものだ。


 それでそれで、全てあんのーんなすーぱー美少女がなぜ公園のベンチで春季限定!ストロベリークリームたい焼きを食べているのかだって?

 さあね!自分でも疑問なんだ。


 今日は一人で商店街に来たんだけど、喋らないのに賑やかなピエロのおじさんから黄色い風船をもらって、お部屋に飾る造花を見にお花屋さんに行ったら赤と白のお花のハーバリウムも貰った。

 その後もいろんな人が僕にプレゼントしてくれて、一旦整理しようと思って公園に入った。そうしたら、期間限定ストロベリークリームたい焼きって書いてある旗を見つけてさ。

 僕は戦慄したよ。魚にストロベリークリーム!?なんて罰当たりなっ!確かに鯛はあのコリコリした食感が美味しくない、だからといってこんな辱めを受ける謂れはないよ...っ!


 そして、そんな正義感をもって車でたい焼きを売る店主に会いに行ったんだ。そんなすれ違いが僕たちの出会いになるなんてこの時はお互い知らなかったけどね。

 なんの意味があるのか分からない小さいメガネをかけた店主からとりあえず一口食べてみてと渡されたそれは、レイサさんが作ってくれたパンケーキのようだった。


 僕はそれを頭から齧る。

 カリカリとしっとりの中間の生地、中のクリームは甘さは控えめだがそれが生地の美味しさを引き立てていて、これは、これは...控えめに言うと......はちゃめちゃに美味しい!もっと食べたい!小豆、カスタード、枝豆、抹茶♪

 全種類買った、だがまだまだ発達途中の美少女の体に全てが収納されるはずもなく、かと言ってこんな美味しいものを捨てることなんてできず、僕はこのベンチに拘束されていると言うわけなのだ。


「へへっ...呑気だな〜僕」


 お腹いっぱいになったせいか少し眠くなりながらこの前の事を思い出す。

 僕を助けてくれたお姉ちゃん、猫又トコナ。僕を紅玉の亡骸?ていうところから僕を助けてくれた人。それから成り行きでこの街に連れて来てもらった。

 最初、僕はすぐにこの街から出て行こうとした。

 なぜなら、僕は普通の人間じゃないから、ここにいちゃいけないから。初めて会った時のお姉ちゃんやメノンちゃんの視線、守衛さんの困惑、お母さんの会話。僕はこの世界の異端なんだって嫌でも分かった。


 けど一番の理由は、僕の魂がここにいることを否定していたから。

 誰かといると恐怖や負い目を感じる、早く早く、みんなのためにいなくなれと、そんな思いが僕を支配した。

 なのにお姉ちゃんは、自分のためにここにいて欲しいと言った。論理的な理由も、未来の心配もなく。

 ただ『猫又トコナ』のためだけににいて欲しいって、悲愴な面持ちで言ったんだ。どうしてお姉ちゃんはあんな顔をしてたのかはわからないけど、酷い話だと思った。

 

 お姉ちゃん、メノンさん、レイサさん、少しの間だったけどみんなとの時間はとても楽しかった、手放したくなかった。それでも苦しかったから、さよならしたかったのに。

 僕を助けてくれるだとか、記憶を戻す手伝いをしてくれるなんて言ってくれなかった。それでも、ただお姉ちゃんであることを約束してくれた。

 それがたまらなく嬉しかった......過去を...気にしなくてもいいんだって。

 ただの、猫又エマとして生きていてもいいんだって。

 だから僕はここにいる。

 過去も今も未来も...全部が猫又エマなんだ。


「ねぇ、これ食べてもいい?」

 ...ずいぶん深く考えていたらしい、後ろからきれいな銀髪の女の子が話しかけてきた。この子はどうやら僕のたい焼きが欲しいらしい。良いに決まってる、違う、助けてください〜!


「いいよ、その代わりに君の名前を教えて欲えてよ」


 貰った荷物をどけてこの子を隣に座らせる。


「...ミラです、ただの...ミラ?」

「ミラちゃんの名前なのになんで僕に訊くんだよ〜」


 この子はきっと不思議ちゃんなんだね、レイサさんもたまにこうなっちゃうから知ってる。ミラちゃんは枝豆ペーストのたい焼きを食べ始めた。

 …それにしてもかわいいなこの子、綺麗な銀髪と色素の薄い赤眼、それに雰囲気がいまにも消えちゃいそうな泡や春の木漏れ日の様な雰囲気を纏っている。


「...あまりじろじろ見ないで、恥ずかしいから...」

「...っ!いや〜ごめんね、ミラちゃんが可愛くてつい、ゆっくり食べていいからね。あっ、お茶買ってこようか?ペットボトルのだけど」


 この子かわいい上になんか守ってあげたくなるなるなぁ〜!まるで妹みたい...はっ!まさか僕の妹ポジションの危機到来〜!?


「...ふーん、そうやって私をハムスターみたい扱うのは相変わらずなんだね」


 確かに!ハムスターみたい..だ...ね……今、なんて言った?


「...わかりやすく驚くよね、なんでも顔に出ちゃう、そういうとこも...変わらない...ね」

「ミラちゃん、僕のこと知っているの? 知っているなら教えっ.......」


 理由は分からない、けど酷い顔してる。体を震わせて汗も浮かんでいる、まるでこの前の僕だ。僕のことより今はミラちゃんをどうにかしないと。


「...お姉ちゃん...っはぁはぁ、私、ずっと待っていたんだよ、だからさぁっ!」


 雑念が消える、ミラから目を離せない。

 心が落ち着かない、大事なことを忘れている、忘れちゃいけないことを。

 そうだ、僕はこの子のお姉ちゃんだった。

 例え記憶がなくなろうと運命があろうと僕たちは家族だった。

 そして、妹は姉にこう言った。


「私を殺して」


 そう、涙を我慢した様な顔で、けど満足そうに言った。


「ミラ」


 今、目標ができた。安らかでなくてもいい、この夢に挑むなら僕の全てを賭けろ。魂が震える、全身の血が沸き立つ......あぁお姉ちゃんの気持ちがよくわかるよ。

 死へ進もうとする妹を止めない姉がどこにいる!


「僕を信じてミラ、そして待っていて、すぐにミラの隣に行くから。だって僕はあなたのお姉ちゃんなんだよ!ミラ、必ずあなたを助ける」

「......待ってるから...」


 ミラは僕に背を向けた。すると突如僕たちの周りをマゼンタとラピスラズリ色の光が囲んだ。

 あまりの眩しさに目を閉じ、開けると森の中に突っ立っていた。

 ミラはいない、でも心配はしないよ、ミラは待っているって言ったんだ、僕はミラを信じる。

 そしてミラを取り囲む苦難をともに背負って歩むんだ、僕はミラのお姉ちゃんだから。


「だから、話を聞かせてくれないかな」

「...気づきますか」

「殺意がちょっとね、もう少し隠そうとしたら?」

「あの子の姉を名乗るとはなんてうらやま...傲慢なのでしょうか死んでしまえ死ね、あの顔は私だけに見せるべきものですなんでお前が見ているんだ殺す」


 ミラはかわいいから不審者を寄せ付けてしまうんだね、こんな一方的な重愛を押し付けてくる相手が友達や家族なわけないよね。

 そうだとしたらお姉ちゃんは心配です。


 切り替えろ、相手は臨戦状態、戦いは避けられない。

 …初の実戦だ、訓練ではお姉ちゃんとレイサさんには全敗。

 中距離の撃ち合いでもメノンちゃん含め全敗。

 僕は弱い。そう思っていた、でもなんだか今は勇気が湧いてくる。今ならきっと神だって見下せる...そんな充実感、僕は未来へ向かう!


「スプリングレイン!」


 女の手から激しい光とともに無数の光弾が打ち出された。

 アメジストとエメラルドを嵌め込んだ短剣で弾く。メノンちゃんのお友達が作った宝石らしく僕の魔力をほとんどの無駄なく短剣に送る。

 そのおかげで短剣の能力をここまで引き上げている。

 だがこの光弾の問題は数じゃない。光を発するこの光弾はとにかく眩しくて目を開けられない。

 僕にはお姉ちゃんの様な耳もレイサさんの様な感覚もない。対策しないと戦いにすらならない!

 ...っ!!! やばめな魔力反応、避けないと消し飛ばされる。


「実の姉が死ねば必然的に私があの子の姉になるでしょ、だからごめんなさいなんで謝る必要があるの?消えろっ!『サンライズカンデラ』」


 視界を覆い尽くす白い極光、僕の勇気と決意を影にしたそれに、立ち尽くすことしか出来なかった。

ん?助けに行かないのかって?

無理ですね、私はここから動けないし、あなたは普通に捕まってるし。

ほら!口じゃなくて手を動かしなさい!スプーンで壁を掘って逃げなさい! 

全く、おとっさんの気持ちが今ならよく分かります。

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