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隣に立つ資格(未所持)

特に何事も無くコルヒスに到着。途中で様子のおかしい残滓が幾つか出たけど速度を上げて捻り潰した。メノンちゃんの悲鳴は掻き消された。

 レイサとメノンちゃんの紐を取り外してエマと門の方へ向かおうとするとメノンちゃんに呼び止められる。

 何でも人に擬態した残滓を門の中に入れないために、九時以降身分証が無いと街に入れないらしい。

 なになに、学校で教えて貰った?メノンちゃんや、それは嘘だよ。流石に中学生の頃は授業三時間くらいしか寝てないし。


 仕方が無いので私達は野宿の準備を始める、エマが何歳か知らないけど流石に置いて行くのは可哀想だ。

 メノンちゃんの保管庫からピクニックシートと毛布をもらって平たい所に置く。

 毛布をレイサとエマに貸す。私は熱を放出して周りを暖かくする、4月だからまだまだ寒い。

 私がそれこれしている間にメノンちゃんはお母さんに連絡してくれた。


「お疲れ様と明日の朝イチダッシュで、だそうです」

「それだけ?」

「それだけです」


 怖い〜!!!絶対怒ってる、普段激しく怒る人が一周回ってめっちゃ静かになってるじゃん!


「まあまあ先輩、取り敢えず今日は寝ましょう。レイサ先輩も今起きてすぐに二度寝しましたよ」

「え?二度寝?本当に?」

「レイサさん?なら「おはよ私〜、あれ夜じゃん、おやすみ私〜」て言って寝たよ」


 究極のマイペースだな、本当に!何があってもレイサは変わらないらしい。


 それから私達は二人分の袋麺を茹でて楽しんだ。

 私が持ってきていたチーズと扇形ソーセージをトッピング、罪深ければ罪深いほど美味しくなる。

 もやしとかキャベツも欲しくなるけど保管庫は冷蔵じゃ無いから持ち運べない、私の保管庫は普通の人より暑いから尚更だ、チョコレートが入れられないのが最近の悩み。

 それから適当に話して丁度いいところで寝た。


 七時、メノンちゃんに起こされて起床。普段より一時間半早い起床だが昨日早く寝付けさせられたから元気いっぱいだ。

 荷物を回収して、レイサとエマも起こして門からコルヒスに入った。


「いてて、首がまだ痛いなぁ」

「ごめんなさい、僕の魔法は骨までは治しきれなくて」

「!ちょまちょま、ごめんね、エマちゃんに文句を言った訳じゃ無いんだよ〜」


 レイサがエマに抱きつく、約20cmの身長差がある二人が抱き合うのは難しそうだ。あっ、レイサがエマを肩車した、と思ったらすぐに下ろした。


「レイサ先輩、首はまだ治ってないって自分で言ってましたよね」

「へへっ...へへ」


 馬鹿すぎる。


 そんなこんなで私の家に到着。やばい、変な汗出てきた。

 そうして私がドアと格闘して十秒、後ろからレイサとメノンちゃんがドアを開けて入っていた。


「よし...よしっ!行こうかエマ」

「......うん」


 私は満を持してドアを開ける。まず洗面台に行き顔洗って、歯を磨く。

 一旦エマをメノンちゃんに預けて別れ、自分の部屋に行きレミントンを片付ける。階段を音を鳴らさないようにゆっくり降り、姿勢を低くしリビングを覗く。

 四人は既に席に着いていた。


「突入作戦じゃないんだから早く入ってこい」

「イッエサマイマム!」


 速やかに私は席に着く。

 レイサはいつも通りニコニコ、メノンちゃんはよく分からない顔をしている。私の背中を嫌な汗が伝う。


「取り敢えず何があったのか聞かせてくれ」


 それから私達は昨日のことを細かく説明した。

 レイサのボーリングが下手ということ、レイサが二回迷子になったこと、レイサが危なかったこと。


「は?レイサが首の骨折れているのに敵に突撃しただって?」

「あの時はマジでやばかったね!首がぐらぐらしているのに『瞬発』を使うし、落ちている時も敵からボコボコに殴られるし、地面に叩きつけられるし、どうして生きているんだろね♪」

「いや本当にどうして生きているんだよ!?」


 お母さんがコーヒーを一口飲む。

 さっきのは?の音圧やばいって!泣きそうだよ、、、


「たくっ、トコナ、私は別にお前達に怒っていない」

「っ!...そうなの?」

「当たり前だ、私を見縊るなよ。これでも母親だ、娘と友達が襲われてその責任の矛先を間違えることはしない」


 ああ、忘れていた、お母さんはこういう人だった。

 人の熱を信じている。真実に敬意を、愛には施しを。

 ここにいるのは私が尊敬した一人の英雄の姿だ。


「私がキレているのはお前らを襲った奴らだ」

「昨日の夜、敵についての情報をフィールカさんに教えておきました」

「調子に乗ってベラベラ喋ってくれてて助かったな」


 そう言えばなんか星の角をどうたらこうたらっていって言っていたっけ。

 星の角...地球は既に丸でしょ、どこを削るんだろ。


「奴らの正体は『ワールズアコード』、目的、行動原理、一切正体不明の危険武装集団。奴らの情報はこれまでほとんど表に出てきていなかった。何故なら、奴らと接敵した人間の多くが蹂躙されているからだ。少数精鋭、だがその強さは私達を遥かに凌駕している。誘拐、強奪、殺人を超えて国落としを行なってきたイカレテロ集団だ」

「私達、その『湧き水アボカド』に勝ったんだ、やっぱり最強だね!」

「『ワールズアコード』な」


 確かに、一国を落とせるような奴らに勝ったということになる、私達結構強いかも、井の中の蛙じゃなければ。


「まあ、そいつらに関して問題じゃない。後は大人に任せろ、昨日第三騎士団に連絡して紅玉の亡骸周りを固めた。したら追っ手を見つけたらしくてな、ミツルが今朝仕留めたと連絡をくれた」


 さすミツ、ヴァストス最強なだけはある。

 ミツルさんとの辛かった訓練を思い出すな〜うっ、吐き気と頭痛が…


(で最後は地球のエネルギーだ、って大気圏外に追放するんだよ)

(はっ、はっ、はっ)

(絶体絶命の時にこそ!得体の知れないパワーが、魂の底から湧いてくるのさ!)

(っ、だからって)

(うん?)

(だからって目隠しと呼吸出来ないマスクと鼻栓して残滓の中に放り込むのは違うでしょー!!!)


 当時は病んでいたとは言え、よくあの扱きに耐えれたものだ。

 同輩が文句の一つも言わなかったから私も意地と殺意で頑張っていた。


「だから私達に残された問題は、この子だ」


 お母さんはエマに視線を向ける。

 エマはこの話し合いの中で一言も発さなかった。


「紅玉の亡骸に今まで表舞台に出で来なかった連中が何か目的を持って訪れた。そのタイミングで現れたこの娘を、お前は何故助けた、憐憫か人道か」


 ...私はエマを幸せになって欲しいから助けた。

 正しく、疑わず、期待する。

 そうでなければならない。だから、そう言おうとすると


「なら問題なんて無いじゃんか」


レイサが何でも無いように言った。


「レイサ、これはノリやテンションで決める様なことじゃ無い」

「分かってるよ、ルカさん、でも私は決めたよ。私はエマの味方になる!それが一番楽しいと思ったからそうするの!」

「私もです、どれだけ不合理で不都合でも、目を逸らしてはいけないものがあると、私は皆さんから教わりました」

「...トコナ、お前はどうなんだ」


 私はどうなのかな?エマを大切に思っているし助けたいとも思っている。

 だがそれは私の意志じゃない、あの人の意志だ。

 そんな私にエマの隣に立つ資格がない。

 そんな私は、エマのためにできる事は…


「もういいんです」


 エマが小さな声でそう言った。

 泣きながら、そう言ったんだ。


「もういいんです、分かっているんです、僕がここにいちゃいけないことくらい。僕はきっと、みんなを傷つける化け物で、最初からここに来ちゃダメだったんだ。そうだよ、僕は一人でも生きていける、だってメノンちゃんよりも大きくなるまで一人で生きてきたんだから。

だから僕のことなんて忘れちゃてよ、何でも無い一日の一コマとしてさ」

「そんなこと出来ません!あなたを連れてきたのは私達、仲良くしたいと思ったのも私達です。仲良くする事がいけないことなはずが無い」

「…恨むよ、僕は」

「っ!」

「こんな感情も知らず、あの暗い中で死ねたなら僕は、こんな苦しい思いもしないで済んだんだ。誰も傷つけず、知らないまま一人で死ねたんだっ!!!」


 私の胸に熱が宿る、苛立ちが湧いてきた。

 全てを投げ出して諦めた子が目の前にいる。

 あのときの私みたい、暗闇の中で座り込んで独りぼっちの世界に自分を縛り付ける。けれど私は英雄に救われてしまった。

 あの人が救ってくれた私が、この子を救わないなんて、そんな最低最悪のゲス以下の物語は誰の手にも選ばれない。

 エマの前まで歩く、にっこりと笑顔を作って私の顔が見える様に。


「エマ、私は英雄になりたいの」

「...そうなんですか」

「英雄は友人を救い、人々を救い、世界を救う」

「だから、僕も助けたいと」

「そう、けれどそれで救われるのはエマじゃなくて私なんだ」

「え...?」


 英雄...この言葉は私に勇気を与えてくれる、そうあれと、私が私の心に命じる。あの人が成そうとしたことを成せば英雄になれる。けれど、私には無理だった、だから手段を選ばない。


「私は私の幸せのために、エマと一緒いたい。エマと笑って、みんなで集まってふざけて、ご飯を食べて、そうする事が私の幸せなの。それを取り上げられると私はストレスが溜まる、そんな身勝手な理由なの。だからお願〜い、私の妹として一緒にいてくないかな」


 エマに手を差し出す。

 必殺泣き落とし作戦、失望されても、嫌われてもこの子を助ける。

 人を助けることでしか、私は私を許せない。

 シオンを裏切った私は何としても、英雄にならないといけない。

 ...失望されたかな、こんなクズの妹になんて...


 ばちーーん!!と、大きな音を立ててエマが私の手を取った。


「もー全く、こんな思ってくれている人を置いて行ったら気になって気になってこっちが迷惑なんだけど。妹にはいいところを見せるものだよ、お姉ちゃん!」


 さっきみたいな世界に絶望した様な顔は、もうしていない。

 私はこの子を救えたのかな。


「そうか、なら歓迎するぞエマ。猫又家にようこそ!あと一人ドルガっていう馬鹿もいるが後に紹介する」

「よっしゃ!私達の思いが勝ったー!」

「これは宴ですね、歓迎会を開きましょう。行きますよフィールカさん、レイサさん」

「私がドドリアさんなの?」

「何だか楽しくなりそうだね、お姉ちゃん」

「なりそうじゃないよ、なるんだよ!」


 未来のことは考えない、私はそういうタイプじゃない。

 いつまでもニヤニヤしながらエマの隣に立ち続ける。


「先輩とエマ、今日からここに住むつもりなら日用品などを買い揃えてきてください。その間に私達は歓迎会の準備をしますので」

「お店に行けるの?やったー!」


 エマの頼れる姉、猫又トコナはここにいる。


「行こうか、エマ」

「道案内は任せるよ、お姉ちゃん!」

「卵片手割り大会〜!!!」パチパチ

「....『』!私はパス」両手割り

「魔法はずるいよ〜!」グシャ

「あはは...」片手で2つ、両手で4つ

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