裏切り者、だ〜れだ?
お、落ち着くのよ私、自分の仕事を果たしなさい!
私が最優先すべきは姉さんとキューブの護衛、手に持っていたたい焼きを口に投げ捨て、宙を蹴り2人を回収。そのまま最安全地帯であるスイミさんの背後に転がり込む。
「困りますお客さん、喧嘩なら他所でやっていただかないと」
「喧嘩で済めばいいけどね」
今のはおそらく、カイリさんが椅子の下に銃を召喚して持ち上げたんだ。
敵の攻撃ではない、メノンさんとカイリさんも無事、そして『共有』が飛んできた。
『雑な回避行動で悪かったな、まっ許せな』
『戦闘に入ります、アル、スイミ、準備を』
『了解!』
『きょひ〜』
「いいさ、お前達の活躍する場面はねぇぜ!」
声を上げてそう宣言すると、周辺の魔力が一気にカイリさんに集まる。
そして9挺の銃がカイリさんの背後に現れる。
「降伏すんなら今だぜ、降伏するってんなら逆立ちしてパスタを食いやがれ!」
私たちが対峙しているのは、マゼンタ色の人型のオーラ。
小型で隙だらけ、武器も持っていない。だが残滓特有の黒い翼がない。
「安心しろ、中身はゴムだから死なないぜ。死ぬほど痛いだけだ」
拳銃、小銃、突撃銃、散弾銃、機関銃を含む9の砲門が一斉に爆発する。
その音に周囲の生徒や観光客も事態に気づいて逃げ出す。
一方で人型のオーラは逃げ出さない、堂々とその場に立ち銃弾を受け止める。
違う、素通りしている。300発以上の弾丸を受けてもその形は崩れない。
「...一回最初からやり直すか」
「相手は幽霊かな?物理は効かないかも」
「な〜ら私は役立たずの五劫の擦り切れポンポコナーだ、スイミ頼んだぜ」
「ひぇー私はただのたい焼き屋さんですー」
ニアさんと屋台の椅子に座りながら、たい焼き片手に答えるスイミさん。
って姉さんとキューブとメノンさんはドリンク片手に観戦しているじゃない!
戦闘では役に立たないとはいえ態度ってもんがあるでしょ!
「そこ3人!あとでスイミさんのたい焼き全種類奢って貰うからね!」
「はっは!落ち着けアル、いつものことだ。さっさとあいつを片付けて混ざろうぜ、『亡霊狩りのアル』さんよぉ!」
「ただ報酬が高いから受けているだけで、専門家というわけじゃないです」
保管庫からkar98kと一つの箱を取り出す。
箱の中身は顔が映るほど磨かれた30発の弾丸、一列に並んでいる。
そして『累進発動』、敵の強さや状況によって自分にバフをかける魔法だ。
「免許申請、成功」
私が亡霊狩りの専門と言われる所以がこの魔法だ。
霊体に干渉する方法はただ一つ、その霊体の魂を知覚すること。
下ネタなのであまり解説したくないが、この魂を知覚する方法はあれか専門の魔法しかない。だがこのハードキャンセルを使えば、状況に最も適した効果を一つ獲得することができる。
「仕留めるには、この一手で充分」
さらに私が使うのは姉さんに作ってもらった銀の弾丸。
魔法はイメージの力でその可能性を無限に広げる。
2015年にもなって80年前の銃を使う理由がそこにある。
ボルトを開き、銀の弾を親指で弾いてマガジンに入れる。
すぐさまハンドルを弾いて薬室を封鎖、準備完了。
イメージ、銀の弾丸✖️単発攻撃で霊体にダメージを通せるのだ!
「喰らいなさい!逃げ場のない天国!」
「アルちゃん待って!」
メノンさんに言われたら止めざるを得ない。
気合いで体を捻り銃口をギリ逸らし、弾丸は出入り口を抉るに済んだ。
「なんですかメノンさん!」
「あれは幽霊じゃない、人間だよ」
「そりゃ幽霊は元々人間ですけど」
「生きている人間って意味だよ。あれは魂だけの存在じゃなくて、肉体の形が歪むほど精神が崩壊していることによって幽霊に見えているだけ」
確かに極めて稀だけどそういう事例はある。
どうするか考えていると横から姉さんのあっ、という短い声が聞こえた。
「その子あれだ、小物系キャラのわふちゃん!」
「小動物系の方が正しいよモエ」
「...なるほど、敵はどうしても『発信』を使わせたいということだ」
「どういうことです?」
「この子を倒したら私たちはやばいってこと」
オーラは動かない、現状で脅威にはなっていない。
オーラに格闘技をかましていたカイリさんも戻ってきた。
「祓えないならどうする、放流なんてありえないぞ」
「...分からない」
メノンさんが分からないと口に出すのは珍しい。
例え1発で答えに導けなくとも、完璧なクッション案を提案して最終的に答えに導いてくれるのがメノンさんだ。犠牲も取り残しもなく。
ならそうではない答えは既に出ているはずだ。
そして、私はそれに気づいている。
「なら解決策が見つかるまで私がこの子を捕まえてスイミさんといる、これがベスト!」
「それじゃあアルちゃんが交流祭を回れなくなる、楽しみにしてたじゃんか」
「いや〜そろそろ姉さんにも飽きたから味変でスイミさんに行こうかなって」
「あえっ?」
「一旦シャラップだ姉貴、ライザップでもしてろ」
「それがベストだよメノン」
溶けたアイスじゃない、姿勢を正してメノンさんを見据えている。
「決して、妥協や仕方がないの結果じゃない」
私には分からない、2人の信頼関係があった。
「分かった、でも必ず他の部分で取り返すから。MVPの席は譲らないよ♪」
「グッド、その調子さ。そしてモエ、一つこれと伝言をエマに渡してくれ」
「ん!任セロリ〜!」
「夢はたい焼きの中にある、とね」
「う〜ん、よくわかんないけどわかった!」
「じゃあ私たちは行くぜ、勝利を祈ってくれよなアル」
時間もないとのことで屋上から降りて競技場まで走っていく4人を見送る。走ってないか、カイリさんの空飛ぶ銃(毯)に座っている。
姿が見えなくなったので切り上げて屋台の椅子に座らせてもらう。
「うーん、信頼が重くて潰れそー」」
「だって動きさえすれば大抵のことを解決してくれるんですもん」
「困るなー、ニアーどう思うー」
「えっと、滑稽です」
怯える対象はスイミさんだけなのか、唐突に口が悪くなるニアさんに少しツボる。口を手で押さえてから、一応理由を聞いておこう。
「なんでよ、スイミさんは凄いのよ」
「だって、あなた達の敵であるワールズアコードの幹部なのに、よく信頼なんてできるなと」
「それってどういう...!」
「For you〜」
お腹と左手が唐突に冷える。息が詰まる。痛い、痛い痛い痛い。
下を向くと背中の方から突き出ている刀が見えた。
手で触ろうとしてもない、左手の感触がない。
「ぅ、る、『累...」
「モエが13の年だっけ、アルが10でキューブが11、そんな長く一緒にいるんだ。アルの魔法も弱点も全てお見通しなんだよ」
背後から首に刀を押し付けられて斬られる。
血の気が引いて椅子に座っていられなくなった私は地面に崩れる。
「やっぱり人生は裏切りの連続、期待するだけ無駄なんですよ」
最後に確認できたのは、ニアの靴と言葉。
「最初から期待しなければ、不幸にはならないのに」
「裏切り者がしてはいけないことが何か分かるかい?」
「裏切りですかね...」
「正解は高笑いと勝利の確信、そして情を残すことだ」




