この後2人は職質されました
ガシャンガシャン、ガシャンガシャン
「エマ、あそこにたい焼きの屋台あるよ」
「今はいいや、今日はスイミがたい焼き屋さんを開くんだって!」
「あの子は色々と多才だね〜」
ガシャンガシャン、ガシャンガシャン
いつもより黒くてガタイのいいトコナ先輩と初めて見る猫又エマを、交流祭に向かう人混みに紛れメノンと追跡する。
このストーカー行為は私から言い出したことではなく、一先ずエマを一目見ておけてと朝になって急にメノンが言い出した。
「ねぇカイリ、声掛けに行こうよ」
「やだ、あれの隣を歩くのはやだ」
黒ずくめの怪しいフルフェイスの隣を誰が歩きたいんだ。
さらにはエマの顔が良すぎるせいでさらに不審者感が強調されている。
あれじゃどっから見ても誘拐犯、とても姉妹には見えない。
あの『ボルテックスアーマー』は、モエとメノンが合同で真面目にふざけて作った『対沙根金ミツル対抗術式』と名前だけの欠陥品になるはずだったフルフェイスボディーアーマーだ。
魔法術式を組み込むため妙に偏った重心、そしてシンプルに装甲が厚くそのせいで総重量も200kgある。しかし一応歩行支援システムが付いているので、その際には重さが90kgにまで落ちる。
問題は沙根金ミツルの魔法に対抗する術式維持のせいで、そのシステムが1分も保たないということ。そんなものを着ながら戦える人間なんて、それこそ沙根金ミツルしかいないという矛盾があった。
だがトコナ先輩はあろうことか、自分が持つキュートなキャットに合わせた自己発電システムの追加と単純な筋肉だけでその問題を解決してみせた。
その性能は圧倒的、ニ年前に一度戦ったことがあるからよく分かる。
鋼板を貫通する機関銃を正面から受けられる耐久力。
『瞬発』を使いながら戦うレイサ先輩についていく機動力。
戦車を直手で殴り潰し破壊することができる攻撃力。
立てば不審者、歩けば戦車、その中身は猫もどき。
「あの状況にツッコミは無しか」
「え?元々ツッコミなんてカイリちゃんくらいじゃん」
「マジかよ、お前は真面目眼鏡キャラ...のカケラもないな」
ていうかあれの制作者だった。
たくっ、メノンの机上の理論と想像力をモエが気合いで形にしちまうからこう調子に乗るんだ。やっぱりモエが悪いな、後で〆る
とまぁ、あの二人の話は一旦終わりにしよう。
朝からメノンと合流したのはあの2人を見る他にもう一つの理由がある。
『銃人十色』を発動してNo.9を取り出す。
そして薬室に弾が入っていないことを確認して、メノンに手渡しをする。
「メノン、この銃をお前に預ける。俺の、大切な銃だ」
「ツャソタヌ...!」
高級時計会社がこの交流祭のクイズ大会の景品として作った至高の逸品。
値段にしたら多分2000万くらいするぜこれ、よくこんなもん景品にできるなと呆れが止まらない。普通景品にするなら、三種のロケット弾盛り合わせとか桜の木で作ったストックだろ。
まぁしかし、今回はこの銃のカスタムをメノンに依頼されてやってみた訳だが、イジっていてこんなに楽しい銃は久しぶりだった。
まずメノンが握りやすいようにグリップを細くした。握り辛いと握力が掛からず反動制御も難しくなる。そして視界不良の原因になるマズルフラッシュを減らすフラッシュハイダーを装着。この美しい銃の妨げにならないよう私が1から設計した物だ。さらに指が短いメノンのためにサムセーフティも延長。
要望があったからストックは取り外して、代わりに銃身近くにハンドストップをつけた。当然強化スライドだ。フレームとの摺り合わせもしておいた。
しかし他の銃と特に違うのはマウントレールを付けられないこと。
だがそれは必要なかった。何故ならこの銃のサイトシステムが完璧に完成された物だからだ。近距離ではリアサイト、遠距離は折り畳まれたフロントサイトを上げることで600mまでの狙撃を可能とする。
私も早速この設計をパク...オマージュさせてもらった。勿論、私的使用の範囲で使わせてもらうから犯罪には当たらない。
渡した銃を眺めるメノンの歩幅に合わせて歩きながら感想を待つ。
だがこんな人混みで銃を持っているから視線がキツイ、だったらトコナ先輩の隣を歩いてヘイトを買ってもらった方が良かったかもしれない。
そんなことを考えていると、メノンが顔を上げた。
「...うん、流石カイリちゃん。銃のカスタムに関してならやっぱりカイリちゃんが一番だよ」
「射撃も、だろぉ」
「へへっ、流石カイリちゃん。これでエマにプレゼントできるよ」
「銃の腕もってちょっと待て、エマにプレゼントするのか?私はてっきりお前が使うのかとそのつもりでカスタマイズしてたぞ」
「へへっ、トリックだよ」
「何が!」
つまりなんだ、私は今日の交流戦で戦うエマのために最高品質の銃を少し夜更かししてわざわざ仕上げたってことだ。
「敵に塩を贈るみたいだな」
「いや、これは贈るべき時に贈るよ。それに試射しないっていうのも危ないでしょ。カイリちゃんもよく言っているじゃん、武器をカタログスペックで見るなって」
「まぁそうだな、結局使い慣れた武器が1番頼りになる」
例えるなら初期設定していないパソコンだ、何の役にも立たない。
ならば手慣れたタイプライターで作業をした方が効率もいいだろう。
話も一段落して少しの沈黙が流れる。
別に気まずくはないが、ふっと頭に浮かんだことを聞いてみた。
「なぁメノン、そろそろこの戦いの全容を教えてくれよ。気になって夜も寝れねぇ」
「寝れなかったのは自作のフラッシュハイダーを作ってるからでしょ、ありがとだけど」
おぉ、説明してないのに気づいてくれたか。少し照れるな。
しかしそんな素振り見せず、適当に相槌を打って答えを促した。
メノンは少し役に入ったように話し始めた。
「ワールズアコード側の目標はエマの肉体を奪取すること。1日目では合計18名の敵が襲撃、キルリーダーはミツルさんで9名の敵を逮捕した。雑兵が多かった理由は在庫処分、兵力を維持するのも大変ですからね」
「相手はとんでもない馬鹿なのか?戦力の逐次投入なんて死の順番待ちだろ?」
スーパー戦隊かよっと私は思った。力の強い黄色とか青が敵を羽交い締めにして、その他でボコボコに殴れよって、捻くれた子供の私は思っていた。
なんなら最初からロボ出して踏み潰せとも思っていた。
「カイリちゃんは一つ大きな勘違いをしているんだよ」
「ほうほう」
「『ワールズアコード』は組織ではなく我儘な個の集合体である。なぜなら彼らには命令を伝達する通信網もなく、仲間を救おうとする意識もない。18名全員が自分のためだけに動き暴れていた」
「目的はなんだったんだ」
「彼らのリーダーは雑兵が暴れ私たちの意識がそちらに向く間に、エマの体を奪おうとした。ですがここでイレギュラー、何か思い当たる節がありませんか?カイリちゃん」
断トツでおかしいのは金髪女だが、予想外というならばこれだ。
「女子トイレにワールズアコードがいると私たちは突入した。しかしそこにいたのはアホ毛ピンクだけだった、これだろ」
「グッドです、そして私が昨日言ったことを覚えていますか?『ボス戦をするには中ボスを見つけて倒さないといけない』中ボスがその子です。名前は宇連わふ、恐らくなんらかの魔法の起点にされていたわふさんを私たちが回収したことで、相手も魔法が発動できなくなったようです」
「その仮説が正しいなら、あいつは裏切りもんってことか...?」
馬鹿ではあるが憎めない奴だった、愛嬌があるとも言い換えられる。
そんな奴を刑務所に送るっていうのは容赦しないが躊躇はしちまう。
「まぁ、そうかも知れないねぇ」
「......そんなドヤ顔でそのセリフを吐くな」
「ふふん、それを何とかしてきたからトコナ先輩たちは英雄なんですよ」
メノンは自慢げに、誇らしげに、得意げに、意気揚々とそう言った。
「どっちらかと言うと、詳しく銃の解説をしてくれるカイリちゃんの方が真面目眼鏡キャラじゃない?」
「私の視力は1.5だ!」




