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怪光との邂逅

あれ、ちゃん付けしてたっけ?

メノン→モエ、スイミ、エマ、『カイリちゃん?』

ロケランを構えたわふちゃんを写真に収めてから、スマホと銃を保管庫に仕舞う。あと口を開けてぽけっとしてるわふちゃんからロケランを受け取り、保管庫にポイっ。


「ふぅ、敵を騙すにはまず味方から、流石メノンちゃんだね!」

「せ、先輩も騙された側だったんですね」


誰でも触ってないのに唐突に扉が開いて、そこにロケランを構えた女子学生がいたっていう経験があると思う。そんな時、ほとんどの人は魔力を組んで爆発を防ぐ。


(なので防御魔法の上からネットを被せれば効率よく捕まえられます♪)

(メ・ノ・ン!メ・ノ・ン!)

(天才!賢才!大喝采!)


ネットで拘束した敵さんを銃床で殴って気絶、通りすがりの特殊部隊の人に引き渡す。よし、これで全部終わり!一見楽着!


(いえ先輩、まだまだ交流祭を楽しんでいる方々がいらっしゃるようです)

(なら私たちも楽しむっきゃないでしょ!)

(やっと交流祭正規ルートに入りましたね!軽音部行きましょうよ軽音部!)

(軽音部は第二体育館だっけ?ちょうどいいね)

(あっ、そういうことじゃ...)


エマちゃんの舞台は1時から2時半までだから、今から行っても遅いかも。それに、ここまで手伝ってくれたわふちゃんにしっかりお礼をしないとね。


私はわふちゃんを床に寝かせて両足を掴む。

可愛らしい靴下を履いているのがチャームポイントだね♪


「え、あの先輩???」

「左手に見えますは体育館〜体育館〜」

「ま、まさかぁいやぁぁ!!!」


右足を軸にして左足で地面を蹴って回転。

わふちゃんの頭を地面につけないように慎重に回す。


「それではよい旅を〜!!」

「ぬわあぁぁぁー!!」


空中には信号機もないから最速の交通路、私もよく使う。

『瞬発』でわふちゃんに追いつきタッチして減速、落下。

あとは地面激突1秒前に上方向への『瞬発』でわふちゃんの勢いを消して着地。


「のわぁ、三途の川で水着を着て往復ウォーキングしているおばあちゃんが見えました〜」

「伸びてないで行くよ、アゲアゲエブリナイトだぜー!!」

「揺らさないでぇ〜!」

__________________________


『共有』を解除。魔法を使いすぎたせいか、少し頭が痛い。

それにしても、へへっ、レイサ先輩に仄めかした言い方や皮肉は通じないですね。役に入りすぎると変な口調になるのは私の悪癖だなぁ。さっきもカイリちゃんに敬語が抜けなかったし、遊びじゃないのに気を抜きすぎちゃったな。


「まったく、勘弁してくださいよ」

「なんかごめんね、強くて」


ちゅ、強すぎてごめん♪...な〜んて言ってる場合じゃない。

護衛をしてくれていた紗江花先輩もやられちゃったし、私は人質用に生かされているっぽいけど、逃げ出そうにも力の差がありすぎて。もういっそのこと武士らしく自決することもやぶさかではないかも。


まぁどうせ死んでしまうなら、適当にふざけますか。

終わり良ければ全て良し、この言葉ほど正しい言葉は無い。


「いやー本当お強いですね!なにか強さの秘訣があるんですか?」

「もちろんです、血を煮汁にする努力をしてきました」

「へぇ、努力の人だったんですね」

「いえ、天才です。努力だけで強くなれる訳ないじゃないですか」


ムスッと自信満々に答える金髪の女性。その造形は全てが美しく古代の著名な彫刻のようである。しかしその正体はレイサ先輩とカイリちゃんを倒した張本人。

二人を倒したあと私の『共有』を逆探知、特定、突撃という流れ。賢才たる私の魔法セキュリティを一瞬で破壊した強者。


「私はどうです?これでも賢才と褒められているんですよ」

「うーん、才能探知レーダー。びーびーびー」


指を銃の形にして頭の上に置き、口でブザー音を鳴らす金髪の人。


「ドッカーン、才能あり派です」

「そんなご飯派パン派みたいに...」

「私はご飯派です」

「そんなキメ顔で言われても」

「キメてません、いつも極まっていますが」


なんか、この人は面白い人だ。『ワールズアコード』なのに、凄い愉快な人だ。今すぐ手元に銃があっても撃つのを躊躇うくらい面白い人だ。

それになにか、違和感がある。私の中でこの人への好感度がおかしい。エマやモエやカイリみたいに、私はこんなチョロくないはず。

...いや、この感覚はどこかで...?

靄るものを感じながらも質問を続ける。


「その美貌にもなにか秘訣があるなら知りたいです!」

「美貌だなんて誇らしい、ですが教えてあげましょう。生まれ持ってのものです、もちろんケアはしていたらしいですが」

「なぜ他人行儀な言い方を?」

「他人事ですから」

「他人事なんですか?」

「これは私の肉体ではないですからね」


私が乗っ取りと聞いてパッと思いつくものは、ドラゴンボールのなんでしたっけ、ジース隊長とDSカービィのドロッチェ団に出てくる幽霊みたいな敵だ。

そういえばこの人、才能や素質について話してくれましたが、それを先天的なものだと言っていた。もし乗っ取りに関する魔法を持っているなら、より優れた体を求めるはず。


優れた体...ミツルさん、トコナ先輩、スイミ、私、モエ、そしてエマ。

もし私が乗っ取りに関する魔法を持っているなら、心情的にはスイミ、機能的にはエマかミツルさんを選ぶ。

ミツルさんは言わずもがな、エマの凄いところは情報の素早い吸収と再現、そして発展、自己流の開発、進展、活用をあらゆる分野で高品質にできるところ。

そしてエマが紅玉の亡骸にいたという事実。狙われるならエマだ。


ならエマの体を盗むことが敵の目的、と仮定する。

この情報を確定させ、なんとかしてトコナ先輩かミツルさんに送る。


「...駆け引きは止めましょう」

「押し引き...恋の話ですか?だから顔のことを聞いてきたんですね。大丈夫、あなたは将来美しい女性になりますよ」

「誤魔化すのも止めてください。お互い腹を割って話し合いましょう」

「告白はストレートに、自分の心の内を伝えるんですね」

「なにがあろうと屈しません、私たちはエマの仲間です」

「たとえ振られても諦めずに挑戦を望むその意気、気持ちの良い青春ですね」


この人全然真面目に話してくれないんですけど!?

こういうタイプが一番難しい!飄々と尋問を交わしてさ!

うーん難かしい、無理矢理ミツルさん呼んじゃおっかなもう。


バレないようにコッソリと魔力を動かして共有を...


「それを止めなさい、なんのためにあなたを人質にしてるんですか」

「私を通してミツルさんの行動を操り、安全を確保する...でもあなた仲間の位置全部私に教えてくれましたよね?」

「あらま、口が滑ってしまいました」

「私はこの情報を全てミツルさんに送りました。あなたの仲間は殲滅されますよ」

「どうぞどうぞ、私にとってパン派の彼らは敵ですから」

「つまり、組織内の右翼左翼的なことですか?」

「私は左に曲がります、ご注意ください」


金髪の人は両の手で人差し指を立て、私の目の前で前後移動させる。

愛嬌もあり、功績もあり、メリットもある。

しかし全てを信頼するのは危険、この好感度に関する謎も不明。

それにこの態度はおそらく素ではない、なにか確かな意味がある。

この話し方の理由、私に接触してきた理由、回りくどく動く理由。


「あなたたちはもう少し活動を宣伝してみては?」

「私はマーケティングよりハンティングが得意です」

「ならエマやミツルさんはどうですか、いい獲物ですよ」

「絶滅危惧種は保護対象です、反故にはしません」


利用できるなら利用すべき、その上メリットは特段に大きい。

あくまでも利害関係、それを念頭においておく。

そしてお互いが利益を出してこそ成り立つ繊細な関係。これは私個人で運営した方がやり易い、口外はしない方がいいね。


私はさらに情報を引き出すために、頭を整理する。

...いや、ミツルさんから共有が飛んできた。時間切れだ。


「...最後に一つ警告をしておきます」

「ありがたいです、お礼はなにがいいですか?」

「魔力の補充と沙根金ミツルをお願いします。それで忠告ですが、真相は深層に、崖っぷちで焦ったら尚のこと危険、です」

「補充完了です、ありがとうございました」

「優秀な子がいて助かりました、さようなら」


こういう予言や伝承のような分かりにくい文言も、いつか必ず役に立つ。


彼女は私に手を振ると、肉体を光に変え窓を貫通して外へ出ていく。

と同時に扉が私の横を掠めて飛んできた。

扉は窓を枠ごと破壊して中庭に落ちていく。


「くっそー!逃げられたー!!」

「お疲れ様ですミツルさん」

「情報提供サンキューねメノンちゃん、怪我はない?」

「今さっき怪我しそうになりましたけどね」

「ちゃんと考えて蹴り飛ばしてるから♪」


この人は私の予想を超えてくるから特にバラしたくない。

しかしそれより、この後のことを考えると心労が溜まる。エマの保護はもちろん、室内で銃撃戦しかり、ミツルさんしかり、修復のための言い訳と予算回しが面倒になるのが目に見えて...まぁ、責任は全部ミツルさんに投げればいっか!

「ねぇメノンちゃん、ちゃんと全員倒してきたからさ、あれ頂戴よ」

「あぁ、『あれ』ですか。ドルガさんがデータを持ってますよ」

「しゃー!そんじゃ人狩り行ってくるよ!」

「ちゃんと剥ぎ取るんですよ〜」

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