服羞心
東ヴァストス アルマ院 交流祭1日目
2年A組 メイド喫茶
最近の文化祭のメイド喫茶は、女子が恥ずかしいとかなんとか言って男子にメイド服を着させる所が多い。私はそれが気に食わん、ぶん殴るぞ。
そもそもメイドの語源はメイデンで若い娘、未婚の乙女を指すモンだろ。
男が着たらそれはボーイ、いやただの変態クソボケ野郎だ。需要isどこだよ。
私はメイド服を着て恥じらっている女子が見たい(キリッ)
それに比べてこのレイサ先輩のクラス2年A組のメイド喫茶はエグい。
あぁ…マジエグい、メイドさんもかわいい。
そしてメイド服を着るレイサ先輩は私の理性をゴリゴリ削ってくる。
私は無の境地に至ることで原型を保っていた。
「はいはい、動かないでくださいねーカイリちゃん」
「少しゴワついてますね博士」
「そうですね博士、大方トリートメントもドライヤーもサボっていたのでしょう」
「なんでどっちも博士なんだよぉ」
確かにケアなんて仕事のせいで一ヶ月くらいしてなかったが。
あとドライヤーは私嫌いだ、あんな暑い風にあたり続けるなんて拷問だ。
風呂から上がったら布団に突っ込みたい、そんまま寝たい。
「ん?なにか違和感」
「まさか敵ですか!?」
「え、敵!?」
『色調補正』発動、敵どこだー!
「いや普通に編み目がズレちゃっただけだよ?」
「あっ、ごめんなさい先輩」
「人騒がせですねまったく」
まったく、レイサ先輩は落ち着きがないんですから。
…私今レイサ先輩に髪を触られているんだ…!
意識すると恥ずかしくなってきた、息荒くなってないよね。
ひぅ!耳触られた、耳触られたぁ!
友達以外に耳を触られるなんて初めてだったのに!
あぁ、憧れレイサ先輩と親友のメノンに両側から髪を編んでもらえるなんて、恥ずかしすぎて死ぬ!!!
「あれ、カイリちゃん耳赤いけど大丈夫そ?」
「あ、あーっと少し暑くて」
おいいい!もうちょっとあるだろ私、ド定番過ぎるわ言い訳が!
こんなんに騙されるのモエくらいのバカだけだろ!!
「ならこれだね、テッテレー『サーキュレーター』」
「!」
おぉ、これが本物のギャル…! んなじゃらじゃらした小型扇風機初めて見た。
ポチっ、首元がくすぐったいくらいの強い風。ちょうど良く涼しい。
暑がりな私のためにここまでしてくれるなんて、気遣いまで最高の先輩だ。
「ん?またまた違和感」
「今度は早とちりしないで聞きましょう、どうしたんですか?」
「今通り過ぎて行った人が凄く怪しい」
『色調補正』感情を色で識別できる私だけの能力。
教室の外から見える奴等を視界に捉える。
黄青黄黄緑青緑黄黄黄赤、ドス黒い赤。
「あの全身真っ黒コーデの普通の男ですか?」
「そう!その人がなんか嫌な雰囲気がするんだよねー!」
なら早速証拠集めからだ、尾行して裏を取る。
私は席から立ち上がる、上がる、上がる……メノン?
「先輩、先にその人を追跡しててください」
「じょぶ、りょだぜ♪」
そう言うとレイサ先輩は目視できない速度で消えた。
目の前で生『瞬発』見れるなんて、もう一生目を洗わない…!
「カイリちゃん、相変わらずレイサ先輩にお熱だね」
「別に好きという訳じゃなくて嫌いという訳でもないんだがあの人の強さには尊敬する部分が多くあるから私も傭兵になるとき参考にさせてもらったから一目置いているだけであって」
「えっ、一目惚れって言った?」
「言ってないー!!」
これがスイミとかモエならぶん殴るが、相手はメノンだから殴れない。
あとスイミは物理的に攻撃が当たらない、モエは当たる。ありがとうヨエ。
「でもねカイリ、この前レイサ先輩大きな怪我しちゃったんだ」
「全然そんな風に見えなかったな、どんくらいのやつだ?」
「まず即死級ですね」
「詳しく聞かせろ」
『共有』1080pの映像でその状況が頭に直で流れてくる。
ビビるほどボーリングが下手なレイサ先輩。
的確な判断でバスを襲う残滓を処理するレイサ先輩。
トコナ先輩をアクセショップに置いて、外でハードボイルドごっこをするレイサ先輩とメノン。何やってんだこれ…?
そして『ワールズアコード』に襲われ、顎を打ち抜かれるレイサ先輩。
燃料切れのトコナ先輩を守るために敵を道連れに奈落へ落ちるレイサ先輩。
「ではここでクイズです!!!」
「おいゴラァ!」
「レイサ先輩はここからどうやって回復したでしょうか!」
1.気合い
2.私が頑張った
3.トコナ先輩が頑張った
4.正解はエマが頑張ってくれましたー!!
…あーはいはい、そういうことかよ。思ってたよりストレートに来たな。
メノンも大変だ、頑固な私達の仲をいつも取り持ってくれて。
「テレフォンは使いますか?」
「…お前の意図は分かるよ。その気持ちも汲み取ってやりたいんだぜ、ホントにな」
「今回は結構本気なんだよ私も♪ 感傷でも打算でもなくて、心からエマのことを大切だって言えるからね!」
私はなにも言わない、言ったらこの覚悟を保てなくなるから。
悪魔を殺すか、親友を信じるか
私は悪魔への復讐心に生かされてきた人間だ。それを自覚している。
そしてその対象が目の前にいる。殺すための力もある。
でもそれが親友たちの友人になってんのは予想外だろ。
あれから11年だ、どんな残酷な記憶も鮮明ではいられない。
こいつらと過ごす記憶が私の復讐心を揺らしてくる。
「分かった、猫又エマを暗殺すんのは辞める」
「ありがとう、カイリ」
「どうせ失敗すんの前提で決めてたことだしな」
だってその悪魔の名前は『猫又』エマなんだろ。
つまり猫又エマと敵対すると猫又トコナ先輩がポップする訳だ。
私を1、レイサ先輩を3とするならあの人は7だ。
最近は正直言って弛んでいたからかなりの弱体化していた。だがもし私がエマを殺して、トコナ先輩が全てを投げ捨てるなら、それに勝てる可能性なんて微塵もない。
最初から私に打てる手なんて何もなかった訳だ。
「そうだよね、やるなら正面からやってもらわないとお互いスッキリしないでしょ!」
「あーん?どういうことだ?」
「明日の交流戦に申し込んどいたの、エマと一緒に。見定めるんでしょ、自分の目で」
プッツーン、理性がぶっ飛んだ。
「お前はどんだけ最高なんだよー!!」
「それほどでもあるんだよねー!」
席から立ち上がり、メノンを脇に抱え走り出す。
最高最高最っ高!!テンションが定まんねぇ!!
「お前らのために、全力でエマを守ってやる!!」
ここでメノンがカイリを止めてないとカイリは(察してください)




