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戦の開始でございます

時系列合わせです。次回はフィールカ視点に戻ります

僕は素手で30時間連続残滓と戦ってたんだよ。人生で一番よく眠れたよ、生後一ヶ月ちょっとだけど。

一方ミツルさん(お疲れ様エマ君、私が起こしてあげるから安心して眠って)

流石頼り甲斐のある大人だと思った。流石お母さんと同じ騎士団長だと思った。流石お父さんがよく遊びに誘うと思った。流石お姉ちゃんが最強と褒めるだけはあると思った。

僕の中で低空飛行していたミツルさんへの好感度が90度で上昇した。


「あと五分だから頑張ってしがみ付いて〜!」

「いやあああ!!!」


高度8000mを時速1200k/mで飛行中。

風圧慣性で吹っ飛んでいきそうなのは勿論、やばいのは気温。

−70℃以上を超える異常気象、目は凍り付いて開けられないし呼吸も苦しい。

例え魔法を使ったとしても−70℃なんて対策のしようが無い。


「エマ君結構限界来てる?」

「限界?限界なんて超えるためにあるんだよ〜」

「これは感覚イカれちゃってるな。やっぱりやり過ぎたか」


エマ君の死への恐怖が薄くなり過ぎて逆に怖い。短期的に強くするための荒療治だったが私のミスだ。この子は、親しい者のお願いや指示を無理を押し通して遂行する、出来てしまう子だ。

まさに英雄の器、人々の期待に応え続ける最高の英雄になれるだろう。...いや、これは今考える事じゃない。


「『収束』右回り左回り、真空状態を作り上げてと。失礼エマ君」

「わーい!...オエッ」


背中に乗せてたエマ君を前に持ってくる。

柔肌...カチコチだやばい!!

エマ君の体を覆うように抱擁する。衝撃に備えるため。


『収束』流れの中にある物を自分に引き寄せる魔法。

真下にある杉の木を引き寄せて引っこ抜いて流れの中に入れた。

流れを速くして遠心力で杉の木をぶん回し速度を付け、『収束』私にぶつける!

質量✖️速度 空気抵抗無し。つまり凄い速い。


学校到着。『収束』を解除して真空状態を消し、逆に流れを作って勢い消す。


「マッハ2、遅刻は免れたね!」

「最初からマッハ2で移動しなきゃ遅刻する状況にしないでよ!!」


復帰速っ!?低体温と乗り物酔いでダウンしている内に逃げようと思ったのに。

まるで中身ごと取っ替えてリセットしたみたいだ。

そんな事を考えながらメノンちゃんの指示した持ち場に行こうとするとエマ君に呼び止められた。まだ怒ってるのかな、後で埋め合わせしないと。エマ君に嫌われたくない〜!!


「ありがとうございました!」

「...ぁーぇ?怒ってないのエマ君?」

「全部僕のためだったんでしょ、ならお礼を言わないとね!」


全力笑顔でピースサインを向けてくるエマ君。

自分の感情をここまでストレートに伝えられるのは、この子のいい所だ。昔の私みたい...は流石に烏滸がましいなぁ。


「私みたいな捻くれた大人に優しくしない方がいいよ。それより速く行った行った。ヒーローは遅れてやって来るとも言うけど、普通に最初から居てくれとみんな思ってるものさ。頑張れ主人公!君のカッコいい所を期待してるよ!」

「了解!ミツルさんも観に来てね、絶対だよ!」


底抜けに明るい子だ。明る過ぎて成仏しそう。

ははっ、冗談じゃなくて草、笹、ワロスワロス。


「...上手く隠せたかな」


流石の私も、内臓潰されたままなのはキツイ。

血が上手く流れてくれないと魔力も作れないからね。

お腹を捲り腹に埋め込まれた隕石に触れる。


「この魔法は人間のレベルじゃない。バグ残滓とか、あの悪魔のレベルだ」


昨日の深夜に襲撃されて負わされたこのダメージ。

私にこの隕石は壊せない、これがメノンちゃんの言っていた妨害か。

だからと言ってここで退場なんてダサい。最強の私が敵の都合通り退場するのが気に食わない。


「『収束』『収束』『収束』負荷エゲつねぇ〜」


私以外に人間が触れたら霧状になって爆発するぐらいのエネルギーだ。

これを自分の腹に撃ち込むのは私でもビビる、ていうか普通に死ねる。土手っ腹に風穴が空くって事だし。まっ、やるけど♪


沙根金ミツル ダウン

____________________________


右手に台本、左手にたい焼き。

僕がいない内に少し変更点があったから覚え直す必要がある。

劇の開始まであと一時間、気合いで全て覚える。


「素晴らしいぞエマ!やはり君はスターになれる逸材だ!この舞台が一度終わろうと、また共に壇上に上がれる事を期待しよう!」

「うん、その時は優しく迎えてください!」


全身で喜びを表現しているのか手をぶんぶん振り回すガクト先輩

久し振りに会ったガクト先輩、身振りと声がちょっとうるさい。

二日間静かな山の中で過ごしてたから敏感になっちゃった。


「...ちょこれーとちっぷふらぺちーの」

「〜〜〜!!!」


突然耳元で囁かれる幼さと妖艶さが混じった声。

気持ちよ...びっくりして持っていた台本とたい焼きを机に落としてしまった。

誰がやったのか確認するため僕は振り向く。


「ぷっ、凄く顔赤いねー」

「も〜スイミの意地悪〜!」


そこにはニヤニヤした顔のスイミがいた。気のせいかいつもよりニヤニヤしている、どうやらお祭りを楽しんでいるみたいだ。


「メンタルはバッチリのようだね」

「さっきまではちょっとだけ疲れてたんだけどね、あそこ見てたらさ」

「あぁ、あの柑橘弟姉妹か」


この楽屋の隅にあるソーファーに座る三人。

三人とも赤色系の髪と目の色、そして纏う雰囲気も同じ。

なんとあの二人はモエの弟さんと妹さんらしい。

三人の会話に耳を傾ける。


「私が病んでる時の事でお話を作られるの少々複雑な気持ち...」

「それくらいしか姉ちゃんで感動出来ないだろ」

「普段の姉さんを見ても嘲笑しか湧いてこないわよ」

「わっは〜言うね〜!」


ほほえま!聞いてるだけで自然と笑顔になれる!ずっと聞いてたい!


「およよ、やっぱり兄弟姉妹の絆は泣けるねー」

「僕をお姉ちゃんだと思ってもいいんだよ〜!!」

「ん?私が姉でエマが妹だろう」

「僕の方が身長高いよ」

「たったの2cmしか変わらないだろう」


戦いの火蓋が降ろされた!


「エマはよく自分を生後一ヶ月と言ってるじゃないか、私はちゃんと15年と少し生きた正真正銘の学生さ」

「でもさ、僕が一ヶ月で身長149cmあるのに、スイミは15年生きて147cmでしょ」

「ほほう、何が言いたい」

「逆算的に考えて15年で147cm伸びたら1日0.027cm、つまりスイミより2cm背が高い僕は約2~3ヶ月速く生まれていると言えるよね」

「個人差とかもあるから否定してもいいが絶妙に納得できる理論、負けを認めよう」


僕 WIN!

つまり僕はスイミのお姉ちゃんになったって訳よ!

僕は両腿を揃えて腕を大きく開く。


「お姉ちゃんの胸に飛び込んでもいいよ!!」

「うーん、飛び込める胸が見つからない」


戦いの火蓋が降ろされた!...シクシク

発育には個人差があるからしょうがないじゃんか!!


「さて、おふざけが過ぎたかな」

「全然!久し振りに友達と話せて楽しかったよ!」

「なら演目を頑張ってくれたまえ。護衛は私に全て任せてね」

「スイミはやっぱり強いの?」


正直言ってスイミが強いイメージが湧かない。

足が速いのは知ってるけどそれぐらいしか力を見せてくれない。

戦いを挑んでみても突然消えたり目の前で突然消えたりと戦ってくれない。


「エマとは相性悪すぎてね。私の魅力は底知れなさだと自覚している、あまり負け星を作りたくないんだ」

「僕なんて身体能力上げて殴るしか出来ないよ?」

「いや、君より強い私には分かる。君の可能性は無限大だ、君に出来ないことはない。猫又トコナ先輩もそう感じたから君に宇宙の意を持つ『エマ』の名を与えたのだろう」

「....そっかぁ、なら期待してくれた分だけ結果で魅せないとね」


だから僕はスイミと話してないで速く台本を覚えないといけない。

気を取り直して台本に目を落とす、あと...18ページ!?終わんないよぉ〜!!

「それはそれとして『君より強い』ってどういう事かな?」

「私はこう見えて負けず嫌いだから認めたくなくてさ」

「このままだと一生戦闘シーンが無さそうだけど

「ミステリー伏線張り後方寝転び師匠ヅラ、クールだろ」

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