行雲流水
書きます書きますよガチで!
丁寧に配置された茶道具を挟み対面。
微笑むユニちゃん、湯を沸かすための火の音。心地の良い、雰囲気。
やはりさっき感じた圧は私の勘違いだったようだ。一安心一安心。
「短時間で終わらせますので少々の我慢をお願いします」
「わー!我慢なんてしてません、喜んで付き合いますよ!」
そう言うとユニちゃんは少し頭を下げて目を瞑ってしまった。
...主題は『行雲流水』意味は流れに身を委ねろ。
正座で痺れた足を少し浮かせながら湯が沸くのを待つ。
茶釜、普段亭主をやる先輩のハナハナは面倒くさがって電気ポッドで湯を沸かすのでこの待つ時間は久し振りだ。
色々をボーっと考えいるとユニちゃんが目を開けた。
「湯が沸きましたね、参ります」
そしてユニちゃんのお手元が始まる。私は驚愕した。
全ての動きが鋭く正確、私みたいに無駄にカチャカチャ鳴らさないし道具も置き方も綺麗。なのに焦る様子は感じられない。まるで清流、薫風だ。
でも分からない、ユニちゃんが天才なのは知っている。
けれどまだ茶道clubに入って一ヶ月にも満たない。なのにハナハナを連想させる程のテメェ。昨日の活動からこの短時間でここまでの実力をどうやって...?
脳みそを回転させて考える。でも答えは出てこない。
「出来ました、どうぞ」
っ!茶道の一連の動作を全てこなしていたのにも関わらずただの7分で完了してしまった。考え中だった私はびっくりして大きく体が震えた。
「ふふっ、リラックスし過ぎましたね」
「あ、あはは。それより凄いねユニちゃん。まるで先輩みたいだったよ!」
褒めるとユニちゃんは笑顔になった、満面の笑みというやつだ。
出会って三ヶ月間、こんなに笑顔なのは見た事ないけど。
「わふさん、そんなに肩肘張らなくていいですよ」
「あっ、ごめん」
何で緊張してるんだろ私、別に緊張する要素なんて無かったじゃん。
いつも通り私がボケてユニちゃんがツッコんで二人で先輩をいじる。
レイサ先輩が来てみんなが揃ったらどうなるんだろう?
あの人は9割ボケだ、私がツッコミに回らざるを得ないボケだ。
けれど楽しい事に変わりはないと思う。全ては殉痛瞞犯、大丈夫。
「それでは最後にトッピングを」
「トッピング...?」
そう言ったユニちゃんは自分の爪を摘み折って茶碗に落としてしまった。
更にそれを私の方へ近づけて来る。意味が...分からない。
「粗茶ですか」
「なん、で...?やっぱり体調悪いの?それなら家まで送るよ...!」
「特に体調は悪くないですよ。それより飲んで頂けないんですか?『友達』なのに」
「友達って...!」
「友達だと思っていたのは私だけですか。悲しいです。所詮私はわふさんの数ある友人の一っ端、いてもいなくても変わらない存在、要らなくなったら片手間に捨てれるんですね」
「ねぇやっぱり疲れてるんだよ、初めて会う先輩は話したからかな〜」
辛い怖い泣きたい、けど憧れのユニちゃんの前でそんな姿を見せたくない。
ユニちゃんに見限られたら私は自分が怖くて生きていけない。
だからだからだから、私を否定しないで...っ!
「話を逸らさないでください。あなたと私が友人か、そうではないか。飲むか、飲まないのか。決めてください」
「何か、したなら謝るからぁ...そんな目で私を、見ないで...お願い...」
「あぁわふさん、怖がらないでください。私もあなたと友人でいたいんですよ。ですからお願いします」
私の目の前に茶碗が差し出される。
これを飲めば友達でいられる...ならそれが、いい。
悩む余地なんて私には最初から無い。
「流石賢いわふさんですね。奴隷としてとても賢い」
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ザザザガッツゴロゴロザザザザ
「ゲームとかアニメのダメージ衣装ってイイよね」
「...僕あんまりゲームした事ない」
「あれ、レイサ君とかゲーム好きなのにした事ないんだ」
「うん、みんなと話してる方が好きかも。勿論ゲームも楽しいけど」
入学前の不安は僕の心配し過ぎだったらしい。
親友のモエとスイミ、気を遣ってくれるクラス長、最近は劇の事で関わった人とも交友が出来た。沢山の人に会ってまた会いたいと思える友人が沢山できた。
この街に来た時、訳も分からない恐怖に怯えて逃げたらこの気持ちを知らないままだったと思う。
でもみんなに救われた。
紅玉の亡骸で拾ってくれたみんな、この街に居ろと引き留めてくれたみんな、ありのままの僕を受け入れてくれたみんなに救われた。
僕は周りに恵まれている。でも貰ってばっかりじゃ嫌だ。
僕らしいやり方で、僕の愛をみんなにあげる。それが僕の夢。
「そっちの方が健全だね。でも話を戻してダメージ衣装について語らせてチョ」
うおーいミツルさん、感動の話をどこかに捨てないで〜!
まぁ感動のうどん字も無いシュツ、シチュエーションだけど。
「まずまずロボット物!機体から燃え上がる炎、剥きでた配線から散る電気!装甲が壊れて見える生の機械!!カッコいい!」
「確かに炎を纏ってるのはお姉ちゃんみたいでカッコいいかも...」
「特に電気が散ってるのはどこかヤサイ星人の2みたいで特に好きなんだ。そして次にバトル物!攻撃を喰らって破ける戦闘服、煤や血で少し汚れた肌、そしてなりふり構ってられず崩れる髪型!!」
......段々、この人が何を言いたいか分かってきた。
僕にはこの人をボコボコにする権利がある。
ボコボコにされたからこんな目に合ってるんだけど。
「でもでも、下やおっぱの所の装備が絶対に壊れないのは納得出来ないよね〜。ああいうのは上半身の破けやすさに反比例して下半身が壊れにくいのが面白い」
チラリと僕の上半身に視線を向けたミツルさんに石を投げる。
だが石は有らぬ方向に飛んでいく。く〜攻撃が通らないの悔しいっ!
ってまた見てる!女の子は視線に敏感なんだよ。チラチラ見てるの気付いてるよ!
「あれあれ〜?敗者は勝者に従うって言ったの誰だっけ〜!!!」
「言ってないよ!それに変態行為はダメ!お母さんに通報するよ!」
「それを出されると私はナメクジくらい弱くなっちゃうな〜」
再び前を向くミツルさん。今がチャンス。
この隙に脱出方法を探さないと大変不味い、状況確認!
僕の状態
・腕に手錠、髪はオールバックボサボサ
・両足に紐を結ばれてミツルさんに引き摺られる
・ほぼ全裸、上半身は完全裸、傷だらけ
しかも山の道を肌に直で引き摺ってるから魔力で守らないと本当痛い!
僕が回復手段持ってるからって雑過ぎるよ!
後悔、僕は三時間前の自分を恨む。
「(ミツルさんって強いんですか〜wざ〜こざ〜こw)、私にこんな事言ってくれるのエマ君ぐらいだよ」
「発言が捏造され過ぎて僕はびっくりしてるよ。ミツルさんからは僕そんな生意気なキャラに見えてたの?」
僕が言ったのは(ミツルさんが凄いって噂は沢山聞くんですけど、それって本当なんですか?)だ。ざ〜こざ〜こなんて言ってないやい!
だが結果は逆上したミツルさんに手も足も出ないで消沈、気を失ってる間に拘束されて何故か山の中を引き摺られている。理不尽!
「いーや?ただエマ君を痛め付ける正当な理由が欲しかっただけだよ」
「理由も変だし正当じゃ無いし、そもそも捏造じゃん!」
「ははっ元気いいねぇ、いつまで保つかな」
突如足を止めるミツルさん。尽かさず僕も身を守る魔力を解除。
既に二時間近く魔力を放出し続けている。
血→紅玉→魔力で変換出来るとはいえ限界があり、僕とっくに限界を超えている。つまり今の僕は見た目通りの可愛いだけのチビだ。
森という残滓の多い場所にいたら、死んじゃう。
「『震炎刮目』!お姉ちゃん仕込みの体術を喰らえ〜!」
「トコ君に体術を仕込んだ私の体術を喰らえ〜!」
えっ?そうなうガッボコ




