楽園で起こる殺害は幸福である
「へい大将、まだやってる?」
「大将ではなく探偵ですよ、先輩」
衣装室に入るとレイサとメノンちゃんが座って待っていた。
「経緯などを話しても仕方ないので単刀直入に言います、この学校に『ワールズアコード』と繋がっている人間がいます。名前は猾浦ゲンヤ、エマが所属するCクラスの担任です」
それはそれは随分と単純な話だ。
「証拠とかは確保できてるの?」
「すいません出来てないです。一応この紙が証拠なんですけど」
差し出されたのは真っ白な紙だった。
「これは先ほどゲンヤ先生を襲撃してゲットしました。普段から休日出勤を絶対にしないゲンヤ先生が今日に限って学校を訪れていた。意味ありげでしたからね」
「もちろん正体がバレないよう襲ったから安心してね♪」
第ニ騎士団団長の娘に犯罪自慢なんていけない娘たちだ。
まぁ、そういう事を教えちゃったのは私なんだけどね。
「そして押収...というより強奪ですがこれゲンヤ先生が書いたんですよね」
「なんで分かるの?」
「筆跡と文の書き方、右に重心が傾く人特有の左に傾く字から分りました」
この子やっぱり凄い。担任でもない先生の文字の特徴をそこまで覚えてるなんて。
あと先生の行動習性を覚えてるとか、賢才の名は伊達じゃない。
「筆跡鑑定とか読唇術とか子供の頃やりませんか?」
「ああいうのはやろうと思うけど難しくて止めちゃうんだよね〜」
「マジ分かりみ深しの深谷ネギ!」
レイサも平常運転、問題なく動けそうだ。
「でも書いただけでワールズアコードと繋がってると限らないよね」
「いや、書いてある内容がおかしいんです」
おかしい、渡された紙に再び目を通す。
5 議論
5.1 猫又エマへの使用成功の信憑性
未だ本来の力を戻す兆候はなく、神の力に対抗できず。
なるほど、神がなんかどうとか分からないがなるほど。
「メノンちゃん、私達はどう動けばいい?」
「いえ、動いてはいけません。今日は引き上げて当日に備えましょう」
「その心は?」
「相手の動向を絞るためです」
メノンちゃんが保管庫から小さい黒板を出して色々書き出す。
「まずエマはここで襲われました。そして接敵、敵はドレスを燃やしてエマを倒した。ですが戦闘音はステージにいた人にも聞こえず、またごく短い時間で終わった。血の痕がありますがこれはドレスに付いた火を消すために使用したエマの魔法だと思います。つまりエマは闘わず、闘えず敗北したということです」
血を出す隙はあった、なのに攻撃に用いていない。
エマは強い、これは姉だから贔屓している訳じゃない。
エマも私も部活には入っていないから暇な時に組み手をする事がある。
今のところは私の全勝、だがそれがいつまで保つかは私ですら分からない。
エマは約一ヶ月前に紅玉の亡骸で拾った謎の女の子。
推定年齢は14歳、けれど記憶を無くしている。
対して私はあのミツルさん直々に育てられた。
私は私の強さに絶対の自信がある。あの訓練が私に自信をくれる。
そんな私と生後一ヶ月と言っていいエマの間で闘いが発生する。
そのエマが手も足も出ないで負けるなんて、ありえない
「その上意識を失ったエマにとどめを刺さないなど正直言って意味不明です。わざわざ人目の届かない所で襲っておいて、そんなの行動に一貫...性...」
いつもみたいに自信まんまんのメノンちゃんの顔から余裕が消えた。
なにかの攻撃? けれどレイサの反応もない。
周囲を見回していると再びメノンちゃんが話し出した。
「先輩の知り合いに幻術使いのような方はいますか?」
「え?えっと、『慈光』っていう認識を歪める魔法を持つ子ならいるけど」
「その人にアポイント取ってください、私は他にも探してみます」
「ちょっと待ってよメノンちゃん!急すぎて理解が追いつかないよ!」
珍しいことにメノンちゃんが焦っている。
何があっても余裕を崩さないこの子が顔を歪めて焦っている。
私はここで事態の深刻さに気付かせれた。
(時間が無いのでこっちで解説します)
どこかに電話しながら部屋を出たメノンちゃんから『共有』が跳んでくる。
レイサにはあの子に電話してもらって『共有』を繋ぐ。
(敵の行動には一貫性がありました、それはエマへの殺さず生かさずの妨害行動です。そして敵はその成果を得ました、大きすぎる成果を)
(私達はそれをカバー出来る?)
(...難しいかもしれません。私達は交流会でエマの名誉を取り戻そうと様々な計画を立ててきましたが、これが表に出る事で中止になる可能性もあります。今回の劇の参加を拒否する人もいるかもしれません。そして一番の痛手はエマの怪我です)
私はここで気づいた、この部屋に漂う灯油と煤の匂いは何を焼いて
何を引き起こしたのか
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やっぱりお休みの日は土を弄るに限りますね。
スマホの光ではなく太陽の光に当たり脳をリセットする。
始めの頃は無意識のうちにチラチラとスマホを覗いていたこともありますが、今では土いじりそのものが楽しいのでスマホに触ることもありません。
「さてっと、次は枝豆の所を見に行きましょう」
春はあけぼの、夏は麦茶片手にきゅうりの一本漬けと枝豆を戴く。
後輩からはおばあちゃんと言われるのが私の悩みです。
ふふっ、こんなことが悩みだなんて私は幸せ者ですね。
おっと、チャレンジで育ててみた黒枝豆の元気がありません、やっぱり通常の物と同じ風に育てるのは難しかったですか。…チラリと周りを確認、ズルします。
「『慈光』美味しくなってせいぜい私を楽しませてくださいね枝豆さん」
『慈光』: 生命が持つ力を一つ増幅させる魔法。またストレス緩和や対呪い効果がある。
これを使えば美味しい食べ物が沢山作れる。
しかしそれは何だか負けた気がする、安易に魔法に頼りたくないのだ。
先輩ぁぃぃ!電話ですよー!!
...びっくりしました!今のは部活の後輩の声でしたね、イタズラということですか。
手を払ってポケットからスマホを取り出して画面をスワイプする。
「もしもし、です」
「チョリッス!今時間大丈夫そ?」
「はい、私は暇みざわですよレイサさん」
「それは行幸、これが友情、まさに安心決定!」
途端ラッパーになるレイサさん、相変わらず元気です。
うちの後輩二人とも仲良くなれそうです。
「レイサさん、そういえばあなた二年生になってから部活一回も来てませんよね」
「うぐっ、あはは♪ いろいろ忙しくてさ!」
「同じクラスなのですから誤魔化せませんよ。いつもトコナさんと遊んでいますよね。毎回来いとは言いませんし、私も木曜日には行っていませんが、新一年生も入っていたんですから顔を見せてください」
「うんうん、宇連わふちゃんと葉榴ユニちゃんだよね」
元気溌剌なわふさんと冷静沈着なユニさん。
毎年廃部の危機にあるこの茶道部、いえ茶道clu部に入ってきてくれた二人。
エコ贔屓は良くないですがどうしても可愛がってしまいます。
「じゃなくて!助けて欲しいの、学校に来て!」
「分りました、ちゃんと出迎えてくださいよ」
「ガッチャ!」
電話が切れた。行きますか、学校。
「ありがとね、電話切ってくれて」
声と共にお腹から刀が飛び出てくる。
刺された、急所は不味いですね。
「内臓を潰したからもう動けないよ、けどトドメは刺さない。誰かが助けてくれるかもって希望を抱いて、一人で犬死してよ、面白いから!」
冷静に見えますか?違いますね、まぢやばたにえんです。
「ドュンドュドュドュドュンドュン、右肘左肘交互に見て〜♪」
「なつい!子供時代思い出すね!」
「闇堕ち一匹狼たった一人の最終決戦時代のモエね」
「属性盛り過ぎだよっ!」
「へっ、ちょと待てお兄さん、メノンから電話きた...しもしもー」




