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走れモエ

 モエは激怒した。必ず、かの筋肉屈強モリモリマッチョマンの体育教師を除かねばならぬと決意した。私は政治が分からぬ。私は会社の社長だ。

 お財布の紐をスイミに握られながら家族と楽しく暮らしてきた。

 けれども空腹には人一倍敏感であった。


 アルマ院の体育の授業、流石ヴァストス最高峰の学校。

 グラウンドの敷地もそれはそれはとても広く一周700mもある。

 体育の先生は若い男の人、イケメンだった。


「一旦みんなの実力を見たいからグラウンド3周してもらう!俺も一緒に走るから頑張ろう!魔力を使うのは無しだぞ!」


 異議あり!訂正、鬼でした。


 まぁ実は問題ないんだけどね、私にはスイミがいるから。

 私はいつも体にスイミを貼り付けている。スイミは自分の体重をコントロールできる謎の技術があって張り付いてても全く重くない。

 その上スイミはなぜか冷たいから付けてると涼しいし、危険が迫ってきても魔法を使って防いでくれる。これで私は快適に走ることができるのだ。

 この春を快適に、東雲スイミをぜひ!


「もーえー、私今日はふつーに走るからー」

「えっ?それじゃあ私も普通に走らなきゃじゃん?」

「そういうことー」


 ...計算は外れたが致命的ではない、普通に走ればいいだけだ。何も問題はない。


「おーい二人とも、一緒に走ろー!」


 念入りな準備体操をしてたエマも合流する。

 最近はもっぱらこの3人でいることが多い。早くカイリちゃんにも会わせてあげたいけど、最近学校に来てないらしい。時間が空いたら引きずって連れてこよう。

 私を引きずるカイリをスイミが引きずってエマの前に出す。完璧な作戦だ。


「エマはどれくらい運動できるの?」

「え〜全然だよ!よくお姉ちゃんとそのお友達と遊ぶんだけど、いつもコテンパンに負かされちゃうし」

「よかった、私も全然運動できないからさ。一緒にゴールしようね」

「………」


 三人で話しながらストレッチしていると先生から呼び出しがかかった、そろそろ始まるらしい。集合が遅れた私たちはスタート地点の最後尾につく。


「絶対にみんなでゴールしよー」

「二人の足を引っ張らないか心配だな〜」

「大丈夫! エマが足を引っ張るより先に私が引っ張るから」

「安心する要素がどこにもなかったけど!?」


 位置について、よーいドン!

 右足を前に出して、視線を前に.....


「...あれ?」


 二人が凄い前にいるよ?フライング?

 あっ、スイミがいつもの私を馬鹿にするときの笑顔になってる!


「...騙された?」


(ねぇテスト勉強した?)

(え〜私全然してない、やば〜い)

合格72 再試31 


 ひとまず落ち着いてと、自分のペースで走ろうと決め再び視線を前に向ける。するとエマと目が合った。その目に宿るのは心配...エマはなぜか知らないけど少しズレているところがある。そして策士スイミが余裕で着いて行ってるせいで、着いてこない私に何かあったのかと本気で心配している。


 あっ、エマが逆走して私の方に戻って来てしまった。このままじゃ本当にエマの足手纏いになってしまう。

 ……やってやろうじゃないかこの野郎ー!!!


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「つ、疲れ..た...」

「大変だったねー(笑)」


 むかついたけど体を押し当てて熱を吸収してくれてるから許す。

 いや、我が儘言う気力もない。


「飲み物くらいは奢ってしんぜよー。ポカリ?ポッカレモン?」

「.......」

「返事がない、ただの屍のようだ」

「モエー!!!」


 エマが私を心配してくれてる、嬉しい。エマ、結婚してくれ!

 下心はないがエマの顔を覗き見る。がはっ!神々し過ぎる!

 ボーイッシュと清楚のいいとこ取りの神秘、光と絡み合う金髪、惹き込まれる紫の瞳。一目惚れだ、面食いと言われようとかまわない。これだけは言わせてほしい。好き!!!


「モエが血を吹いて気絶した!」


 ぐーるぐる回わる〜地球も回わってる〜回わる回わーるメリーゴー.....


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ...あなたにお話があります。

 いいですか落ち着いて聞いてください、あなたはずっと昏睡(コーマ)状態だった。

 あなたが眠っていたのは、一時間以上です。


 保健室のベッドで丁寧に眠かされるとやりたくなってしまう。


「いちち、頭がぐわんぐわんする」


 流石に無理し過ぎたみたいだ、それでも本気で走ってもエマとスイミには追いつけなかったけど。ていうか学校の体育で世界記録越えるのやめて欲しい。

 それに先生も二人に触発されて大人げなく本気を出していた。

 私も二人に追いつけなくてもせめて三位を獲ろうと先生と競い合った、私達の間に言葉は無くとも通じるものが合った。


 少し休んでいると頭痛も治ってきた。

 時計を見たらもう2時過ぎだ、取り敢えず教室に戻ろうかな。

 布団を退けて靴を履こうとしたら、カーテンの外から声が聞こえた。


「さっきのエマとスイミやばかったよね〜」

「あいつら張り切り過ぎでしょ」

「先生がイケメンだったからいいとこ見せようとしたんじゃない」

「ふっ、悪魔とナマケモノが今更ねぇ」

「モエは面白かったけどね」


 カーテンの奥から声が聞こえる。

 この声はクラスメイトの三人だ、あんまり話したことはないけれど。

 ...あ〜あ、友達の悪口を聞きたくないな。


 モエは再び激怒したっ!!!さっきの比などではないほどにっ!!!


「「その話、詳しく聞かせてもらおうか!!!」」


ぬ!先生がなぜここに!?


「一体どこから聞いて...」

「丸ごとトマト!」

「喉越し生ビール!」

「努力を惜しまず!」

「友を誇りに思え!」

「「そしてみんなで仲良く過ごしましょう!」」


決まった! ヴァストスの大英雄、覇浪の騎士、沙根金ミツルさんの名言!


「っ!すいませんでした...失礼します」


三人は慌てた様子で保健室から出て行ってしまった。

さて、次はこの人について聞こうか。


「ありがとうございます先生。それはそれとして、なんで隣で寝ていたんですか?」

「...脱水だ、君達との勝負が楽しくてな!」


 このの事が結構分かってきた。

 負けず嫌いで、無鉄砲で、小さな事にも楽しさを見出せる人だ。

 けれど信じるに値する、この人ならきっと.......


「先生、名前教えてくださいよ。先生のこと結構気に入りました」

「...俺授業の時名前言ってなかったな、俺の名前は間間(あいま)モノウだ」

「先生、モノウ先生、頼みがあります」

「聞かせてくれ、親友よ」


エマは黙っているけど知っている、スイミから聞いて調べた。

エマはいじめられている、その純粋な善意に付け込まれてしまっている。

尊い善意を、無垢なる愛を、誰だろうと汚す事は許さない。


「友達を助けるために、力を貸してください」

「気に入った、それでこそだ」


私たちの友情に、これ以上の言葉はいらないのだった。ドンッ!

「ナース!ナース!トリアーーージ!!!」

「大丈夫か! 私に任せぐはぁ!!」

「先生ぇぇぇ!?」

「コントか...?」

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