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呪いの腕  作者:
6/7

本多よし子

本多よし子は、旧知の仲である住職を訪ねてきた。二人の間には、穏やかで楽しげな空気が流れている。どうやら、話題の中心は春人のことらしい。時折、住職が愉快そうに笑い声を上げ、よし子もそれに柔らかな笑顔を返す。傍らで控える春人、一平、さきは、その和やかな光景を静かに見守っていた。


 談笑の時間は終わり、広場に春人、一平、さきが集められた。これから春人とよし子の手合わせが行われるという。住職の「始め!」の合図と共に、緊張感が広場に満ちる。


 春人は、すうと息を吸い込み、炎と風の呪文を放った。彼の成長は著しく、放たれた炎は以前よりも格段に大きく、荒々しい風を伴って猛り狂う。しかし、呪文が放たれたその瞬間、春人の右腕に刻まれた痣が不気味に反応した。まるで生きているかのように痣は、瞬く間に呪文の力を吸い上げ、激しく燃え盛っていた炎は音もなくかき消えた。


 その隙を、よし子は逃さなかった。まるで風のように春人の背後に回り込む。春人も咄嗟に反応し、逃げようと身を翻すが、よし子の動きはそれを上回る。あっという間に捕らえられた春人は、身動きが取れない。その時だった。春人が何も唱えていないにもかかわらず、彼の体から奇妙な暗闇系の呪文がほとばしった。それは、まるで春人の意思とは無関係に噴き出す闇の呪文のようだった。よし子の体がそれを吸収すると、彼女は苦悶の表情を浮かべ、そのまま意識を失ってしまった。


 よし子は気を失って倒れているものの、なぜか誰も彼女に近づくことができない。彼女の周囲には、透明な膜のような強固な結界が張られているのが見て取れた。春人の放った呪文が、彼女を守るように作用したのだろうか。広場に緊張が走る中、春人は再び呪文を放とうとするが、腕の痣が再び反応し、呪文はかき消されてしまう。


 よし子は目を覚ました。呪文をつぶやくと、次は春人が動けなくなり、そこで試合は終了した。これ以上は無理はできないと判断して住職は終わらせた。


「春人、あなたは視覚と聴覚が優位なのよ。これは、いまだかつて歴史上三人しか存在しなかった、非常に稀な能力なの」


よし子の言葉に、春人は驚きと困惑の表情を浮かべる。


「あんまり不安になりなさんなよ。ゆっくりここで体力トレーニングと筋力トレーニングを重ねて、さらに住職から霊魔術を教えてもらえば、あなたはきっと、これまで以上に強くなるはずだから」


よし子の言葉は、春人の心に温かく響く。


「それから、覚えておいてほしいのは、一平は視覚に、さきは聴覚に強いということ。だけどね、これは危険もはらんでいるの。強力な霊と戦うことになった時、彼らはその強みを逆手に取られ、弱点を突かれる可能性がある。だからこそ、春人。あなたはまだ小さいけれど、きっと二人を助けることができるわ」


 よし子の眼差しは、春人の未来を見据えているようだった。


「『あの世』の話は、また今度ゆっくりと話しましょうね」


 そう言って、よし子は右目に当てた眼帯を軽く触れた。


「私の目に関してはね、私も強力な呪文を使ってみたけれど、なかなか取り除くことはできなかったわ。この右目もね、実は強力な霊術で呪いをかけられているの」


 よし子の言葉に、春人はハッとする。彼女の眼帯の理由が、初めて明かされたのだ。


「でも、そのおかげで、こうして住職として生きていくことができるようになったのよ。だから、呪いは必ずしも悪いものばかりじゃない。使い方次第で、力にもなる」


よし子の言葉には、深い諦観と同時に、前向きな強さが感じられた。春人は、その言葉を胸に刻む。


「僕も強くなって、呪いを治せるように頑張ります!」


 春人の力強い言葉に、よし子は満足そうに微笑んだ。


「元気があってよろしい。その気持ちがあれば、あなたはもっと伸びるわ」


 よし子の言葉は、春人の心に新たな決意を芽生えさせた。彼は、自分の持つ特殊な能力と、腕の痣の意味を理解し始めた。そして、いつかこの呪いを克服し、大切な仲間を守るために強くなると心に誓った。

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