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奏の誕生日

日間ランキングにランクインしてて嬉し過ぎたので短めですが投稿しました!

 翌日・放課後──駅前の文具雑貨店にて

 蒼太は、ひとりで駅前のショッピングモールに足を運んでいた。 平日の夕方、制服姿の学生も多い中で、彼は気配を殺すように店の棚を見つめていた。

 ──誕生日プレゼント、か。

 いつも通りに話すあの笑顔が、何を受け取ったら本当に嬉しそうになるのか、まだわからない。 でも、だからこそ、安易な選択はしたくなかった。

(雛の言ってた「甘いものと組み合わせ」って案、わりとアリかもな)

 お菓子売り場に目を向けると、ちょうど夏の限定パッケージの紅茶やクッキーが並んでいた。 その中に、優しい水色と星柄の缶入りクッキーが目に留まる。

(……七夕っぽい)

 少しだけ、胸の奥が温かくなった。

 蒼太はその缶を手に取り、棚の横にあった小さなメモ帳にも目を留める。 桔梗や星をあしらった、落ち着いた和紙柄の表紙。

「……これも、悪くないかも」

 自分の気持ちを伝えるわけじゃなくても、選んだ理由が“その人を思い浮かべたから”なら、それだけで十分だと思った。

 ──翌週・7月6日(放課後)

 明日が、奏の誕生日。 放課後の帰り支度の時間。蒼太は、鞄の中に入れていた紙袋をそっと確認した。

(渡すタイミング……どうする?)

 授業が終わり、帰りの支度をしている奏の姿を視界の端に捉える。 緊張と焦りが入り混じる中で、意を決して蒼太は声をかけた。

「……奏、ちょっとだけいい?」

「はい? どうかされましたか?」

「えっと……その、明日さ、誕生日だよな」

「……あ、はい。覚えていてくださったんですね」

「まぁ、七夕だし。──それでさ、これ。よかったら、だけど……」

 差し出したのは、星柄の缶とメモ帳の入った、控えめな包装の小さな紙袋。 奏は少し驚いたように目を見開き、すぐに表情をほころばせた。

「……ええと、これは……」

「その……誕生日、おめでとう。ちょっと早いけど」

「……ありがとうございます。……すごく、嬉しいです」

 奏の声は、小さく、でも確かに震えていた。

 蒼太は頷き、小さく笑うと、ふと目をそらすように言った。

「大したもんじゃないけど……なんとなく、奏っぽいなって思ったから」

 奏はほんのわずか唇を噛んで、両手で包み込むように袋を抱きしめた。

「……私のこと、ちゃんと見てくださってたんですね」

「……まぁ、それなりに」

「ふふ。ありがとうございます、天宮くん」

 その言葉と微笑みは、七夕の星空のように、どこか穏やかで柔らかかった。



 7月7日・放課後──

 梅雨が明けたかのような晴天。 けれど風にはまだ湿気が残り、蝉の声には至らない初夏の名残が、校舎に広がっていた。

「……よし、今日は解散。宿題忘れるなよー」

 担任の声に続いて、1年3組の生徒たちが次々に帰り支度を始める。 ガタガタと椅子の引かれる音と、にぎやかな笑い声。その中で、天宮蒼太は少しだけタイミングを見計らっていた。

(……今日は、奏の誕生日)

 昨日、プレゼントは渡した。 それだけで終わりでもよかった。でも──どこか、もう少しだけ。

 ──何かしたくなる気持ちが残っていた。

 教室を出ようとする奏の後ろ姿を見て、蒼太は声をかける。

「奏、今日って……時間あるか?」

 奏は立ち止まり、少し驚いたように振り返る。

「えっ……はい。帰るだけ、ですけど」

「じゃあ、さ……今からどっか寄っていかない? 近くにちょっとだけ、いい場所あるんだ」

 ほんのわずかの間。 奏は目を見開いて、それからふっと、表情をやわらげる。

「……はい。行きます」

 そんな返事をもらった瞬間、蒼太の胸の奥が、少しだけ熱を帯びた。


 駅前・小さなベンチのある公園──

 学校から歩いて10分ほど。 小さな噴水と、並木道の影にベンチが並ぶ静かな広場。夕方の光が葉の隙間からこぼれ落ちている。

 奏はベンチに腰を下ろし、蒼太もその隣に座った。 しばらく、風の音だけがふたりの間を通り過ぎていく。

「……天宮くん、昨日のプレゼント、ありがとうございました」

「うん。喜んでもらえたなら、よかった」

「クッキーもおいしかったですし、あのメモ帳も、すごく好きなデザインで……。使うのが、もったいないくらいです」

 蒼太は、奏の言葉に小さく笑った。

「そう思ってもらえるなら、選んだ甲斐があったな」

「……わたし、こうやって祝ってもらえるの、久しぶりなんです。祝ってくれる家族がいないから、普段は特別なことって、あまりなくて」

「……そうなんだ」

 奏は笑っていたけれど、その声はどこか寂しさを帯びていた。 けれど──

「でも、こうやって誰かと過ごせるだけで、今日はもう十分です」

「……それ、ずるいな」

「え?」

「そんなふうに言われたら、また来年も何かしたくなるだろ」

 奏は一瞬、ぽかんとしたあと、少しだけ顔を赤らめた。

「……じゃあ、来年も……お願いしますね」

「……うん。言われなくても、きっとそうする」

 自然と、ふたりは並んだまま、空を見上げた。 七夕の空。まだ星は見えないけれど、少しずつ暮れていく青が、静かにふたりを包み込んでいた。

 ──ふたりだけの、静かな誕生日の終わり。 誰にも知られない小さな時間が、そっと結ばれていく。


今更な感じしますが、奏が蒼太の事を天宮くんだったり、蒼太さんって呼んでたりしておかしくなってます。読み返した時に気づいたら直してるんですけどまだ気づいてない所あると思うので申し訳ないです。

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