体育祭打ち上げ
かなり短くなってしまったので、もう一話すぐ投稿します。
「奏。今からさ、ちょっとファミレス行かない? ……打ち上げっていうか、まあ軽く」
「え……」
少し戸惑ったように瞬きをしたあと、奏は小さく頷いた。
「……ご一緒してもいいんですか?」
「もちろん。樹と雛も来るってさ。4人で」
「はい……行きます」
その返事に、蒼太は内心ほっとする。 そして、駅近くのファミレスへと、二人で並んで歩き出した。
ファミレス到着──
「おー! きたきたー!」
店内のテーブル席に先についていた雛が、ぱっと手を振る。 その横では、樹がメニューを見ながらダラッと座っていた。
「奏ちゃん、お疲れ〜! あ、天宮も」
「遅くなってごめん」
蒼太と奏は向かい合うように座り、それぞれ飲み物を手に取る。
「いやー、それにしてもリレー、ガチで熱かったね。奏ちゃん、マジで速かったじゃん!」
「いえ……みんながつないでくれたおかげです。……でも、楽しかったです」
「そうだよね~。しかも優勝って、ほんとに今年の三組、伝説って感じ!」
「……借り物も地味にウケてたぞ? “メガネをかけた人”って、すげぇ渋い札引いたのにな」
「あれ、先生が出してた紙だったんですよね。……意外と見つけるのに手間取りました」
「でも、ちゃんと1位だったよな」
蒼太がそう言うと、奏は驚いたように目を見開いた。
「えっ……本当ですか?」
「うん。ゴール時点で一番早かったって、後ろの先生たちが言ってた」
「……なんだか、照れますね」
そう言って、奏は頬に手を当てて笑った。 雛がその様子をじっと見てから、にんまりと口を開いた。
「なんかさ、ふたりってリレーのときも借り物のときも、息合ってたよね〜。まさに“最強ペア”って感じ」
「は!? いや、別に……そんなんじゃ──」
蒼太が焦ったように言いかけると、樹が静かにドリンクをすすって言った。
「まぁでも、見てていいコンビだったのは確か。橘さんも、蒼太も、わりと似てるとこあるし」
「似て……?」
「なんか、自分のペース崩さないところとか、まわりに流されすぎないとことか」
「……あ。わかるかも、それ」
蒼太が小さく笑うと、奏も少しだけ照れたように視線を落とした。
「そんなふうに見えていたんですね。……自分では、あまり意識していませんでした」
「無意識なとこがまた、いいんじゃん?」
雛の茶化すような声が響き、笑いがふわっとテーブルに広がった。
──夕暮れのファミレス。 炭酸の泡が弾ける音と、重なり合う笑い声。 その中で、蒼太はふと、隣の奏を見る。さっきよりも、ほんの少しだけ近くなった気がする。
その感覚が、悪くないと思えた。
夜の駅前・帰り道──
ファミレスを出た頃には、空はすっかり夜に染まっていた。 街灯が並ぶ駅前通りには、体育祭帰りの生徒たちもまだちらほらと見える。
「じゃ、またなー! 帰り気をつけて!」
「雛も樹も、おつかれ。また学校で」
駅前で別れを告げ、坂口雛と村上樹は電車の方へと歩いていった。 残ったのは、蒼太と奏。ふたりとも、少しだけ歩調を緩めて、住宅街へ向かう坂道を並んで歩いていた。
「……今日は、すごく楽しかったです」
奏がそっと口を開く。
「体育祭も、打ち上げも、全部。……あまり、こういうの慣れてないから、ちょっと緊張しましたけど」
「え、全然そんな風に見えなかった。普通に話してたし、いつも通りだったよ」
「そうですか……? なら、よかったです」
頬を少しだけ緩める奏の横顔に、蒼太も自然と視線を向けた。
「……なんか、今日いろいろあったのに、あっという間だった気がする」
「はい。わたしも、同じことを思ってました」
ふたりの靴音だけが、静かに夜の道に響く。 話す言葉は少ないけれど、なんとなくそれが心地よかった。
やがて、信号のある十字路。 奏の家は右、蒼太はまっすぐ──毎日の分かれ道だ。
「じゃ、ここで」
「……うん。今日は本当に、お疲れさまでした」
「奏も、おつかれ」
蒼太は、ふと口を開きかけて──やめた。 けれど一瞬の間のあと、もう一度、しっかりと彼女の目を見る。
「またさ……どこか行こうな。今日みたいに、みんなでも、ふたりでも」
奏の目が、ぱちりと瞬いて、少しだけ見開かれる。
けれど──
「はい。……ぜひ、お願いします」
その声は、どこまでも穏やかで、けれど真っ直ぐだった。
「じゃあ、また明日」
「はい。……明日」
ふたりはそれぞれの道へと歩き出す。 でも、どこか名残惜しそうに、最後まで何度か振り返りながら。
──体育祭という一日が終わって。 ふたりの距離は、またひとつ、確かに近づいていた。
11、12万文字の時にキリよくしたいので短めの話が増えそうです。




