体育祭種目決め
今回は結構短めです。
あと今までの話でたまに奏と蒼太の呼び方が変わってたりするかもしれないので申し訳ないです。
気づいたら、教えて頂けると嬉しいです。
自分でも今度読み返して修正します。
6月に入り、制服の上着が少し重く感じる季節。 朝の風には湿気が混じり、梅雨入り前のむわりとした空気が、通学路をゆるやかに覆っていた。
学校の正門をくぐる生徒たちの間では、今日決まる体育祭の話題で持ちきりだった。
「マジで今年のリレー、メンバーどうする?」 「走る系は地味にきつい……暑いし」 「応援団とか、そっちも決めるんでしょ?」
──そんな声を背に、蒼太は昇降口で、すこし先にいる人影を見つけた。
「……奏」
呼びかけると、振り返った奏が、ぱっと表情をやわらげる。
「おはようございます、天宮くん」 「おはよう。……今日は、体育祭の種目決め、だったよな」
奏はこくんと頷く。
ふたりで靴を履き替えながら、自然と並んで階段を上がっていく。 曇りがちな空模様。けれどその会話には、どこか明るい余韻があった。
──観覧車の中で交わした、あの静かな時間。 思い出すたび、どこか胸が熱くなるのは、蒼太も、そして奏も同じだった。
「……今日は、いろいろ決まりますね」 「出る種目とか、応援の役割とか……。でも、誰がどこに入るかで、けっこう揉めそう」
「ふふ、それもまた、行事って感じですね」
教室に入ると、すでに数人の生徒たちがワイワイと盛り上がっていた。 席に着く前から、男子たちは大騒ぎ。
「騎馬戦! 騎馬戦やろうぜ!」 「えー騎馬戦とか男子だけでやってよ~」 「リレー誰いく? 天宮は確定でしょ」
ちら、と視線が蒼太に向けられ、同時に何人かの女子が奏の方を見てひそひそと囁く。 ──けれど、その目線に動じることもなく、奏はすっと席に座った。
蒼太と奏の視線が、わずかに交差する。 ほんの一瞬。それだけなのに、ふたりの間に通う空気は、少しだけ特別だった。
チャイムが鳴り、担任が勢いよく教室に入ってくる。 その手には分厚いプリントと、すでにびっしりと種目が書き込まれたホワイトボード用紙。
「よーし、今年もやってきました、3組全力の体育祭。今日から出場者、決めていくぞー!」
どっと湧く教室。 その中で、ふたりの距離がまた、ほんの少し近づいていく──。
体育祭の種目決め本番──
ざわめきと名前の並ぶプリントの上で──
「はいはいー、まずは個人種目からいくぞー!」
担任の号令とともに、教室の前の黒板に貼られたプリントに、全員の視線が集まる。 そこには「100m走」「障害物競走」「借り物競争」など、定番の種目がずらりと並び、出場枠がそれぞれ2〜4人分ずつ空白で印刷されていた。
「出たい人、手挙げて。立候補なければ、推薦でいくからな」
「やっべ、100m速いやつ誰?」 「障害物は体力より運じゃね?」 「借り物競争とか絶対カオスなるだろ」 「借り物、好きな人の名前とか引いたらどうすんの!?」
教室がざわつく中、蒼太は割と落ち着いてその様子を見ていた。 周りから「リレーよろしく」と言われるのも、もはや恒例行事のようなものだ。
──と、視線の端に映ったのは、机の上に手を組んで静かに座る橘奏。 彼女は無理に前に出ようともせず、かといって遠巻きに眺めているわけでもない。どこか自然体で、出るかどうかは成り行きに任せているようだった。
「じゃ、借り物競争、誰いく?」
「女子2人、男子2人だよな? ……橘さん、どう?」
唐突に名前を出され、奏が一瞬だけ目を見開く。 けれどすぐに、小さく微笑んで答えた。
「いいですよ。楽しそうですし」
「おお、マジ? じゃあ男子誰だ?」
「……じゃあ俺も出るか」
蒼太の声に、数人が「おー」っと反応した。
「天宮出るなら盛り上がるな」 「じゃ、借り物コンビは天宮&橘ってことで!」
「カップルで〜って札引けよ、な? な?」
「やめなさいそういうの!」
担任に軽く一喝され、教室はさらにざわつきながら笑いに包まれる。 そんな中、奏がふと、蒼太の方を見て微笑んだ。
「よろしくお願いしますね、天宮くん」
「……うん。こっちこそ」
どちらからともなく、自然に交わされた視線と言葉。 たかがペア競技、されど一緒に出るという事実に、心の奥がほんの少しだけくすぐったくなる。
次に決まっていくのは、団体種目のリレー。
「リレーは脚速いやつなー。天宮、いけるよな?」 「おい、村上も出ろよ」 「じゃあ四人目どうする?」
「……橘さん、足速いって聞いたけど?」
「えっ、わたし……?」
戸惑う奏に、数人の女子が軽く後押しする。
「見た目と違って、走るの速いって中学のとき話題だったって聞いたよ」 「1年の女子の中で上位って体育の先生も言ってた」
「あ、あの、それはたまたま、で……」
「奏、走ってるとこ見たことないな……」 蒼太がぽつりと呟くと、奏が少し目を伏せて、小さく笑った。
「じゃあ、当日までのお楽しみです」
「……そっか。楽しみにしとく」
リレーのメンバーもすんなり決まり、次第にプリントの空欄が埋まっていく。
ああでもないこうでもないと揉めながら、笑い声が絶えない教室の空気。 ──そんなざわめきの中で、ふたりの名前が隣り合って並んでいるのが、なんとなく特別に思えるのは、きっと蒼太だけではなかった。
やがて昼休み。 蒼太が昼食を食べ終えたあと、ふと視線を向けると、奏が窓辺の方でひとり、ぼんやり空を見上げていた。 その背中を眺めながら、蒼太は思う。
──体育祭、けっこう悪くないかもしれない。
午後の教室は午前以上にざわつき、応援団や騎馬戦などの残り団体種目の話し合いが始まっていた。
担任が淡々と種目の割り振りを進める中、男子たちは騎馬戦のメンバーを決めることで盛り上がり、女子の応援団も数名が手を挙げてすんなり決まった。
蒼太と奏は教室の隅で落ち着いた様子でその様子を眺めていた。
放課後──帰り道で蒼太と奏は軽く話しながら歩いた。次第に体育祭の練習や準備の話題が膨らみ、ふたりの距離もすこしずつ縮まっていく。
「あの、天宮くん。今度、放課後にでも一緒に練習しませんか? リレーのために」
「いいよ。頑張って一緒に練習して勝とうな」
奏は笑顔で頷き、そのまま帰路についた。
蒼太も心の中で、小さく期待の光を灯していた。




