いざよいざくら
若干の流血表現があります。時代は平安から江戸中期(和風ファンタジー)です。
苦手な方はご注意ください。
赤の桜の根元には、人の屍があるという
愁い流した涙の色が、人の眼を霞ませて
白き花弁のその色を、薄紅に染めるから
白き花弁のその色が、薄紅に染まるのは
人の生き血が赤いから
青の桜の根元には、鬼の屍があるという
人を殺めた鬼の血が、人の心を翳らせて
白き花弁のその色を、非ざる色に染めるから
白き花弁のその色が、非ざる色に染まるのは
人が異形を厭うから
白の桜の根元には、人の姿があるという
在るが侭を映し出す、十六夜の月が照らすから
鬼と呼ばれた人の子が、伸ばした指が触れたのは
淡く、儚い花びらで
朽ちゆく両手を染めるのは
鬼が食らった人の血と、人を食らった鬼の血で
拭えど消えぬ罪の色香を、真白の光が照らし出す
枯れた涙が濡らした頬を、一陣の風がさらいゆく
白の桜の根元には、ただひとつだけ残される
いざよい生きる人の子が、弔うことを願うから
人の屍の赤い血も、人を殺めた青い血も
ただ、いつまでも安らかに
ちなみに十六夜桜は山桜の園芸品種(白系)です。
実在するので平仮名タイトルです。