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15.レオナルド

「レ、レオ……ダメだよ」


 突然、抱き寄せていたルナが、手で俺を軽く押し返してきた。下を向いて落ち込んでるように見えた彼女に、困惑した俺は「どうした?」と尋ねた。


「いくら幼馴染でも、私……女だよ? 本当は、この部屋に入れたこともモヤモヤしてるんだから」

「え? な、何で?」

「だってレオには……恋人いるんでしょ?」


 こ、恋人!?

 なぜだ!?


「何でそうなる!? そんなこといつ言った俺!?」

「……え?」


 目を見開いたルナが、大きな瞳で見つめてきた。


「いないぞ? 俺には恋人も婚約者も」

「えぇ!?」


 驚いてルナは少し仰け反ったが、驚きたいのはこっちの方だ。確かに恋話は控えていたが、なぜ黙ってただけで俺に恋人がいると勘違いしたのか、全くわからん。


「だから……まぁ、何と言うか、()()()()()()

「……うん」


 互いに視線を逸らしながら、ただ部屋の壁をじっと眺めていた。


 おっと?

 何だこの変な空気は。


 ちょっと待て、今なのか? 

 今思いを伝えるべきなのか? 

 というか、何で俺は『安心してくれ』なんて言ってしまったんだ? 

 ルナに『俺のこと好きなんだろ?』と言ってるようなもんじゃないか。

 何を自惚れてるんだ俺は。

 

 そもそも振り返ってみれば――と、頭に思考を巡らせていたら、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「ルナ~、今いいかしら?」

「お母様?」


 ルナが立ち上がって扉を開くと、そこには彼女の母親が手に手紙を持って立っていた。


「どうしたの?」

「あなた宛に手紙届いたんだけど、これ……送り主が書いてないのよ」

「ち、ちょっと見せて!」


 妙に慌てて手紙を受け取ったルナがそれを見つめると「気にしなくて大丈夫だよ!」と言って、封を開けずに机へ置いた。


「そう? お茶淹れましょうか?」

「ううん、平気。私これから用があるから、そろそろ出掛けなくちゃいけないんだ」


 そう言って、ルナが窓の外に視線を送る。

 用があると聞いていなかった俺は、ベッドから腰を上げた。


「何だ、そうだったのか?」

「うん、そうなの! ご、ごめんね、レオ……」


 仕方ない、突然会いに来たのは俺の方だ。今日は潔く帰ろう。やはりまだ告白するタイミングじゃないな。うん。


 そう。


 ()()()と、決着をつけるまでは――。


 俺はマルキ家の自宅を出発した帰路で、ルナを抱きしめた感触を思い出しながら悶々としていた。


 ルナは日向のようにぽかぽかと温かく、晴天に浮かぶ雲のように柔らかくて、髪は春風のように良い香りがした。


 お互いの耳が触れ合う心地よさ。

 体を通じて伝わる、彼女の鼓動や息遣い。

 ずっと同じ時間が、続いて欲しかった。


 多分、サイファーはルナを何かしかの理由で遠ざけた。俺は必ず奴の悪事を暴いてみせる。


 お前の敗因は、ルナという“幸運の女神”を失ったことだ――。


 4日後の朝。


 早々に支度して港へ向かった俺は、貿易船の到着を待っていた。今日、ラ・コルネは海外で競り落とした宝石をウチの貿易船を使って運んでくる。


 港に荷物が到着してから受け渡しまでの猶予は約3時間。それまでの間に、ラ・コルネの輸出入用のケースに麻薬が入っていないか調べなければならない。

 到着した船に乗り込んだ俺は、荷物の運搬係りに声をかけた。


「すまん、ちょっといいか?」

「レオナルド様ではございませんか。こんな所まで来られて、どうされたのですか?」

「今日の予定では、ラ・コルネ宛の荷物が届いてるはずだ。それを調べたい」

「え? ラ・コルネの荷物は検査不要だったかと存じてますが……」

「構わない。少し事情が変わってな」

「かしこまりました。えーと確か、チェルソの担当倉庫に保管してあると思います。今呼んで参りますから、少々お待ちを」

「頼む。時間がないから急いでくれ」


 そして、荷物を受け取った俺は港に構える事務所へ入り、中から鍵を閉めた。

 ラ・コルネのケースは頑丈な金属製で出来ており、鍵は12桁のダイヤルロック式。これを自力で解かなければならない。下手に力尽くで開けようとして傷物にして、麻薬が見つからなかったら大騒ぎになる。


『あそこの運航会社はやめた方がいい。荷物を勝手に荒らされる――』


 こうなったらお終いだ。


 3時間という限られた時間の中で、このロックを解くのは一筋縄ではいかない――普通の人間ならば。


 暗号解読。


 各国で機密事項をやり取りする際に交わされる情報は、全て暗号化されて伝達される。

 俺はルナを忘れるために猛勉強していて、一番好きだったのは数学だった。他の教科も嫌いではないが、文学などの曖昧な表現がしっくりこなかった俺は、明確な答えが出る数学にのめり込んだ。

 その影響からか、暗号というものに出会ってからは、趣味としてそれを解くことに無心で時間を費やした。


 そして今、目の前にあるラ・コルネのケースを封じるロックは過去に一度解いたことのある型式の物。厳重に見えるがこのロックにはスキがある。そこを突けば、時間こそ掛かるが解除までの道のりは見えてくる――。


 カチッ――。


 こうして、時間ギリギリまで粘った俺は、ついにロックの解除に成功した。


「ふぅ……」


 安堵の溜息を漏らしつつ、ゆっくりとケースを開く。

 

 中には大粒の宝石達がズラリと並び、時価相当に換算したらとんでもない額の物が輝きを放っていた。

 だが、これを拝見したくてケースを開けたのではない。俺は慎重に宝石達をケースから取り出して中を調べた。


 これは……!


 すると、二重底になっていることに気付き、恐る恐る底のフタをめくると。


「ふ……やはりな」


 そこには小袋に包まれた、いかにも“怪しい白い粉末”が入っていた――。

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