恋心はさまよう
英字の入ったクッキングシートを小さく切り、指でつまめるほどのガラス瓶に詰める。
ミニチュアのボトルメールを完成させた彼女は、私に向かって胸を張った。
「かわいいでしょ!」
「はいはい、かわいい。かわいい」
「素っ気ないー」
私は樹脂の海をUVライトで固めていたため、おざなりな返事をした。
レジンアクセサリー。それが、私と彼女の共通の趣味だ。
文化祭をきっかけに部活ではじめて、そのままはまってしまった。
彼女とは同じ美術部であったけれど、レジンをはじめるまでは、すこし遠い存在だった――かわいい、とは思っていたけれど。
ミニチュアのボトルメールは、青い樹脂の海に沈められた。瓶詰の海に瓶詰の手紙が浮かんでいる二重構造は、作ってみたいモチーフだった。
「……瓶詰の手紙ってさ、なんで始まったんだろうね?」
窓からの光で、ガラス瓶がきらめく。
「海って広いじゃない。手紙を投げても、返事は期待できないと思うけど」
大海原に手紙を投げた、最初の人は、なにが目的だったのだろうか。
「うーん、滅多に届かないから、届いたときは交流につながるんじゃない?」
彼女の指がコルク栓をなぞる。
「岩にぶつかるかもしれないし、深い海の底に沈むかもしれない。……そういう多くの不運をくぐりぬけて、知らない人に届くって、ロマンチックだよ」
ロマンチック。そうかもしれない。
「だけれど、現代ではちょっともどかしいっていうか」
私はもやもやする気持ちを、抑えられなかった。
「ネットで世界中とつながっているし。ぱっと思ったことを、ぱっと言えばよくない?」
そう、手段なんて、手紙じゃなくてもいいのだ。
「えー、そんな風に思う?」
彼女がレジンアクセサリーをいじっている。夕日に照らされた彼女は、いつもより綺麗に見えた。
「うん、思うよ!」
手紙じゃなくていい。私は私の気持ちを、今すぐに伝えるんだ。
「………」
「……なにか、言おうとしなかった?」
「……べ、別に。そのレジン、可愛くできたね」
……やっぱり言えなかった。
「いいでしょ」
彼女が頬を赤らめて笑う。
手の中では、ボトルメールが海にさまよっていた。
私の恋心も同じように、どこにも辿りつけず、たゆたい続けている。
まだ。
(終)