第1話
この世界にダンジョンが出来てから5年が経った。最初はダンジョンが出来て、人々は恐怖で支配されていたが、ダンジョン内のモンスターが外に出てこないと知るとだんだんと普段通りの生活を再開した。ただし、ダンジョンに最初に調査に向かった各国の軍隊はあるメッセージを確認した
『ダンジョンの100階を10年以内に制覇できない場合はモンスターが世界に解き放たれる』
それは10年という期限内でこの異世界とつながるダンジョンを制覇しなければならないという。言い方を変えれば、10年後世界は滅亡するかもしれないという死のメッセージだった。
ダンジョンは100階層あり、その中はモンスターであふれていた。1階層のモンスターは銃器で簡単に倒すことができたが2階層からは徐々に銃器での撃退も難しくなっていった。
ただ、モンスターを倒すことで軍人は経験値をためることができ、自分の身体能力が上がるのを感じていた。そして、スキルと呼ばれる特別な力を得ることもでき、それを使ってモンスターと戦うことが出来るようになった。しかし、5階層まで特に犠牲を出さなかった軍隊も徐々にその数を減らしていき、焦った世界の首脳陣は軍人だけでなく一般人もダンジョンに挑むことを許可した。最初は困惑していた人々も徐々に挑むようになっていき、ダンジョン内での攻略を生活の基盤とする人々も現れるようになった。そして世界の人々はそんなダンジョンに挑む人を冒険者と呼ぶようになった。
青年、佐々木優弥はダンジョンが現れた当時高校1年生だった。最初はダンジョンが現れたことに困惑していたが、誰かが制覇してくれる、運動神経も勉強も普通な平凡な学生である自分はダンジョンなんかに挑まず学生生活を送っていればいいと思っていた。自分が死ぬことになるとも知らずに。
世界の人々がモニターに映る世界から選抜されて挑む冒険者たちを見守っていた。
優弥もリビングのテレビでその様子を見守る。
冒険者たちは見たこともないような武器や防具を身に着けていた。その顔は男女関係なく自信に満ち溢れていた。そして、そんな選抜冒険者たちの目の前には100階層の主、魔王が立っていた。黒い服を身にまとい、身長は恐らく3メートル近くあり、年齢は30代後半くらいだろうか。その顔は人間なら容姿端正で女性のほとんどが惚れてしまう事だろう。しかし、その体からは明らかに負のオーラが満ち溢れており、優弥のような一般人では目の前に立つだけで失神してしまいそうである。
だが、選抜冒険者は違う。自分たちが敗れることなど微塵も思っておらず、これから魔王を倒して、その名を世界に刻むことしか考えていない、そんな様子であった。
そして、戦いが始まった。選抜冒険者たちがそれぞれの持つ漫画やアニメでしか見たことのないようなスキルを使って魔王に一斉に攻撃した。テレビの画面がスキルの光で真っ白になり、どうなったか分からなかった。そしてテレビの画面が再びダンジョンの様子を写したとき、選抜冒険者たちは消えていた。跡形もなくではなく周囲に腕や内臓とみられるような肉塊がおちていた。
ああ、終わった。世界中の人々がそう思った。今日はダンジョンが生まれてからちょうど10年の日である。選抜冒険者たちは万全の準備をして挑んでいた。それでも負けた。選抜冒険者たちは世界の冒険者の中でもトップを集めていたはずだった。そんな彼らよりも強い冒険者など存在するはずがない。
ふと窓から空を見ると、先ほどまで晴天だった空が赤くなっていた。夕陽に染まる空とは違い、血のような赤い空だった。これから何が起こるのかはわからないが世界が滅びるのだけは感じた。
隣にいる家族を見るがみんな動こうとはしていなかった。
(逃げても無駄だ。どこに行こうとモンスターに襲われるだろう。だったら、このまま家族全員一緒にいるほうがマシだ
ああ、せっかく入りたかった会社で働くことが出来たのに…
綾は今頃自分の家族と俺と同じように最後の時間を過ごしているんだろうな)
ふと窓から庭を見るとトカゲに似た人が他の生物が立っていた。テレビで見たことがある。リザードマンだ。その大きな手には2メートル近くある槍を持っていた。そして、その眼はリビングで棒立ちする優弥を含む家族を見ていた。
「2階に逃げろ!」
優弥の父が叫んだ。
―パリンッ!!
そんな大きな声が響くと同時にリザードマンが窓を突き破り、リビングにいた家族の前に現れた。そして、その手に持つ槍は隣の父の腹を貫いていた。
全然見えなかった、いつも優しくて、家族のために仕事を頑張っていた優弥の自慢の父は死んでいた。腹から大量の血を流し、その眼は大きく見開いていたが生気は宿っていなかった。
「逃げなさっ!?」
母が子供たちの前に立ち盾になろうとした。
しかし、声をかけ終わる前にその首は窓の外へ飛んで行った。
優弥と妹は動けなかった。いや、動いても無駄だとわかっていた。目の前の爬虫類の獣人は優弥たちを逃がしてくれないだろう。無駄な抵抗をする気にもなれないくらいの絶望だった。
大好きだった両親はもういない。最後に子供たちを守ろうとしてくれた。それなのに優弥は逃げることもできない。
「ワン!!」
割れていた窓から隣の家が買っている犬が飛び込んできた。優弥になついていたリンという雌の柴犬だった。
リザードマンが槍をとっさに振るが犬は小さいため、当たらなかった。
リンを見るとその眼は優弥を見ていた。
逃げろとそう言っているような気がした。
体がようやく動いた。隣にいる妹の腕を引っ張りリビングの扉を開けた。
「お兄ちゃん!?」
妹が叫ぶがその足は止めない。
リンが稼いでくれた時間を無駄にはできない。
玄関に立てかけていた父さんのゴルフクラブを手に取る。まだ買ったばかりの新品で父さんはダンジョンが制覇されたら記念にこのクラブを使ってゴルフに行くんだと家族に話していた。
「父さん、このクラブ使わせてもらうね。」
リビングからリンの断末魔が聞こえた。
リザードマンにやられてしまったのだろう。しかし、悲しんでいる暇はない。
ありがとう…
リンに心の中で感謝を伝え、優弥は玄関の扉を開けた。
町のあちこちで悲鳴が聞こえた。きっと町はもうモンスターであふれている。
「お兄ちゃん、あそこ…」
そして、そいつは家の門の前にいた。
バレーボールより少し小さいぐらいだろうか、ブルーの体をした生き物でプルプルと震えながら跳ねている。
スライムだ。
モンスターとしては一番弱い部類に入り、1階層で最初に軍が出くわしたのがそいつだった。
だが、弱いと言ってもモンスターである。油断することはできない。
「うわー!!」
優弥は無我夢中だった。
両手に持ったゴルフクラブをスライムに向けて大きく振りかぶり横に振りぬいた。
ガンッ! ゴルフクラブにあたったスライムが2メートルほど飛んで隣の家の壁にぶつかった。
しかし、その体は消えることなく、優弥のほうを向いていた。
「クソ!」
予想以上に固い。モンスターといっても最弱。一撃で倒せると思っていた。
しかし、ダメージは確実に与えられているという実感はあったがその体は残っている。
倒せるだろうか? と思っていると、目の前にいたスライムが猛スピードで突っ込んできた。さっきのリザードマンほどではないが油断していた優弥はその攻撃を腕で受け止めてしまった
「キュイ!」
「痛っ!!」
スライムの一撃を受け止めた優弥の左腕が青く腫れていた。
恐らく、折れてはいないだろうが、力を入れるだけで激痛が走り、もう両手でゴルフクラブを振ることは出来ないだろう。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。自分たちを助けるために死んだ両親、リンのために妹だけは少しでも長く生きてほしい。
「うおー!」
優弥は自分の足元にいたスライムに向けて全力でゴルフクラブを振り下ろし続けた。最初は泣き声をあげていたそいつだったが、気が付くと消えていた。
「やった!」
すっかり折れ曲がってしまったゴルフクラブを地面に捨て、妹のほうへ振り返る。
しかし、そこには血まみれになった妹の死体と恐らく妹のものと思われる腕を美味しそうに口に入れているリザードマンが立っていた。
「なんで…」
リザードマンの槍が優弥の腹を貫いた。
優弥の体は力を失い、後ろに倒れた。
そして、その視界は黒くなっていった。
優弥は暗くなった視界の中で思った。
なんでこうなった。
どうして、冒険者は助けてくれなかった。
どうして、自分は冒険者にならなかった。
こんなことになるなら死ぬ覚悟で冒険者として生きればよかった。
どうせ死ぬなら、やれるだけのことをやればよかった。
『スキルを獲得しました。 ≪リセット≫ を獲得しました』
『佐々木優弥の死を確認しました。≪リセット≫ を発動します』
『≪リセット≫の効果により、使用者の任意の時間からやり直します。また、使用者の総合獲得経験値から5%が消滅しました』
―ここから物語が始まる―
久々に小説を書いてみました。
経験が無いですが、最後まで一生懸命書くので、
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