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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第一章】家庭勉強編
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【第九話】努力

 森で魔法の勉強をするようになってから三ヶ月が経った。

 三ヶ月間集中的に魔法の勉強してきたからか、ある程度の初級の詠唱魔法なら使えるようになってきた気がする。


「強かなる精霊よ、我に力を貸し、乾いた大地を潤せ、霧雨(ドリズル)


 俺は杖を振って一本の木の上に、魔法を発動する座標を指定して詠唱をする。

 サイズは少し小さめ、威力も少し弱めに設定してっと。


 すると、木の上に車一台分ほどの大きさの小雲が現れ、それは少しの雨を降らした。


「上出来です。座標の指定もある程度はできるようになってきましたね」


 フーリアさんが拍手をしながら俺にそう言った。

 

「座標や効果範囲、威力の指定もできるようになってきましたし、一回だけ基礎魔法に挑戦してみましょうう」


 出た、基礎魔法。

 基礎という名前がついているくせに詠唱魔法より発動が難しい魔法。

 フーリアさんいわく、基礎的な魔力の操り方だから、基礎魔法と呼ばれているとのこと。

 なんだそれ?


 とはいえ、言われているほど難しそうには思えない。

 確かに詠唱をしないで魔法を発動させるというのは難しそうだが、言ってしまえばそれだけなのだから。


「じゃあまず私がお手本を見せますよ。よく見ておいてください」


 フーリアさんがそう言うと、フーリアさんは目を瞑って、じっとその場から動かなくなった。

 

「あの、先生?」


 反応が無い。

 まるで彫像になったかのように、なんにも反応しなくなり、ピクリとも動かない。


 何が起こっているのだろうか……?


 その瞬間、フーリアさんの目の前でポッと小さな火の玉が浮かんだ。

 火の玉は野球ボールほどの大きさで、ゆらゆらとたゆたっている。


「こんなものですかね」


 フーリアさんがそう言った瞬間、火の玉は徐々に小さくなっていき、最終的には消えて無くなってしまった。


「基礎魔法はこんな風に発動します。試しにやってみてください……というのは流石に酷だと思うので、私の言う通りにやってみましょうか」


 フーリアさんがそう言って、両手を目の前に突き出した。さっきは両手なんて前に突き出してなんていなかったが、なにか訳があるのだろうか。

 俺はそう思いながら、フーリアさんと同じように両手を前に突き出す。


「最初のうちは目を瞑って、発動させたい形の火の玉を思い浮かべてください」


 俺はフーリアさんの言う通りに目を瞑って、火の玉を思い浮かべる。

 大きさは……最初だし握り拳程度でいいだろう。


「次に、それが大体自分から見てどの位置に現れるかを、具体的に、かつ立体的に想像してください」


 いきなり難しくなったな!?

 まあいいや。


 位置は……大体自分の手の先ぐらいでいいだろうか。

 

「そうしたら、その座標に身体の中の魔力を流し込んでください」


 魔力を流し込む…………魔力を流し込む? それどうやるの?


「先生、魔力を流し込むってどうやるんですか?」


 俺がそう言うと、フーリアさんは淡々と答えた。


「詠唱魔法の時と同じ様に、手に力を入れて、それを外に出せばいいんですよ」


 なるほど。


 俺はその説明で納得できるようになってしまった事に、一種の困惑を抱きながらフーリアさんの言われたとおりにやる。


 すると徐々に前に突き出した両手が熱くなってきた。

 

 これが基礎魔法……簡単だな!


 俺がそう思って目を開けると、目の前には俺が想像した通りの火の玉が……!




 ──無かった。

 あるのはただ弱々しい火で、恐らくマッチ一本分ぐらいの大きさの炎だろう。

 いや、下手をしたらそれよりも小さいかもしれない。


 しょぼい。ほんっとうにしょぼい。

 息で吹けば多分簡単に消える。


 俺がえぇー、とがっかりしていると、魔力を流し続けていて、風も吹いていないにも関わらず、火は一瞬で消えてしまった。


「先生、魔力を流し続けていたのになぜか火が消えてしまいました」


 俺がフーリアさんの方を向いてそう言うと、フーリアさんは目を瞑りながら、


「基礎魔法は集中力が大事なんですよ。集中を切らしてしまえば魔法もおのずと霧散していくものです」


 なるほど、集中力が大事なのか。


 それじゃあ、自分が生成した火の玉は、なぜ思ったよりも小さかったのだろうか?


「先生、僕の作った火の玉が想像していたのよりも小さかったんですけど……どうしてでしょうか?」


「それは単純に他の事を考えてしまったからでしょう。基礎魔法を発動させる時は、極限まで集中することが大事ですよ」


 だから先程のフーリアさんは彫像のようになって動かなったわけだ。

 

 これなら確かに基礎魔法の方が詠唱魔法よりも覚えるのが難しいと言われても、納得せざるを負えない。


 しかし、覚える難易度が詠唱魔法以上なら、基礎魔法は覚える必要があるのだろうか? 詠唱魔法を覚えられればそれでいい気がする。


「先生、基礎魔法って本当に必要なんですか?」


「必要ですよ。集中力を鍛えるため……というのもありますが、汎用性があるというのが一番の理由ですかね」


 そう言ってフーリアさんは魔術書の、あるページを開いた。

 基礎魔法と詠唱魔法の違いが書いてあるページだ。


「詠唱魔法は発動に時間がかかりますし、威力や効果範囲が限定されているものが多いです。

 しかし、基礎魔法は慣れてしまえば発動にさほど時間はかかりませんし、威力や効果範囲も自由に決められます。

 そのため、詠唱魔法と同じぐらい基礎魔法も覚えておいて損はないんですよ」


 フーリアさんは本に書かれていたことを要約してそう言った。


 野宿や日常生活で使うかもしれないから一応覚えておけ、みたいな感じなのか。


「基礎魔法が上手く使えないという魔術師見習いは山程います。ですので、自分だけが覚えられないと不安に思わなくてもいいですよ。何事も努力すれば実りますから」


 フーリアさんはそう言って魔術書をパタンッ、と閉じた。


 確かに詠唱魔法も努力してある程度は身についたし、基礎魔法も頑張りさえすれば覚えられるかもしれないな。


「では、今日はここで終わりにしましょうか」


 フーリアさんがそう言って、今日の授業が終わった。

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