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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第十章】革命編
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【第四百七十話】みんな生きてる

「先輩、死んじゃったんだ」


 イルモラシア校長との話が終わったあと、ツレから僕の部屋に呼び出された。


「……うん。満足そうだったよ……」


 びっくりするほどに自然に出たその言葉は、なぜだか非情に聞こえた。

 ルルット王子を殺した罪悪感はまだ残っているのに、彼を失った悲しみはまだ存在するのに、言葉にして吐いただけで、そんな感情が一気に薄らいでいるように感じる。

 ……考えるな。


「……先輩、なんでこんなことをしたのかな」


「父親のしつけが厳しかったらしい。……自由になれないのならいっそのこと、って」


「そうなんだ……」


 ツレがそう言って、うつむく。


「僕も行きたかったな」


「……危なかったから」


「それはわかってるよ。でも、最後に会いたかったな、って」


 ツレの言葉で、僕ははっとする。

 そうか。

 最後にツレがルルット王子と話したのは、冬休みが始まるよりも前のことじゃないか。

 クーデターの対処に忙しかったせいで、そのことに気づくことができなかった。


 ツレからしたら、仲の良かった先輩がいきなり大事件を起こして、いきなり死んでしまったようなものだ。


「ねぇリーバルト」


 ツレが僕の名前を呼んだ。

 彼女を背に、窓の向こうで朝日が昇っていく。


「人って、いきなりいなくなるんだね」


 そう言ったツレの顔は、逆光で全く見えない。

 だが、声は震えていた。


「ツレ……」


「前までは一緒にご飯を食べたり、話してたりしてた人がさ……いつの間にか会える日が少なくなって、消えちゃうんだよ……? こんな、いきなり……!」


 ツレがその場でへたり込んで、泣きじゃくり始めた。

 かけるべき言葉が見つからない。

 黙って傍にいるべきなのかも、もはやわからなかった。


「相談、してほしかった……相談されるぐらい信頼されたかった……」


 結局、ルルット王子は誰かを信じられたのだろうか。

 彼はツレを、僕を信頼してくれていたのだろうか。


 もし信頼されていたとしても、相談をするほどの関係ではなかったのだろうか。


 ──無力だ。

 何もできなかった。

 

「ごめん……ごめん……」


 僕はただ、謝ることしかできなかった。

 誰に向けたのか、自分でもわからない謝罪。

 意味はないんだろう。




「リーバルトさんを庇ってくれたんですね」


 ツレとの話が終わったあと、僕はアディとスクリの部屋で、アディの様子を見ていた。

 僕とスクリはベッドの横に置いてある二つの椅子に座って、ルルット王子と戦ったときの話をした。


「うん……。咄嗟のことで、全然守りきれなかった……」


 ルルット王子の詠唱魔法に命中しそうだったのを、アディが庇ってくれたおかげで、僕は無事でいられている。

 もし彼女が僕を庇っていなかったら、今頃は僕も城の瓦礫の下に埋もれていたことだろう。


「どれくらい起きてないんですか……?」


「かれこれ十数時間は……」


 リハード先生がアディに治癒魔法をかけてからかなりの時間が経った。

 彼女は未だに目を覚まさない。


 発見したときはすでに瀕死だったし、回復に時間がかかっているのだろう。

 治癒魔法は疲労や体力の消耗を治すことはできないのだ。


「完全に無事だといいんですが……」


「そうだね……」


 スクリの言うように、問題がないでほしい。

 これで治癒した箇所に何らかの異常があったら……。


「アディ……」 


 目を瞑って、開ける気配のないアディを見て、不安が強まる。


「……リーバルトさん、また手柄を挙げましたね」


「……?」


 スクリがいきなりそんなことを言ってきた。

 いきなりどうしたのだろう。


「アディちゃんを勇者教団から助け出して、魔王を倒して、クーデターの首謀者も倒す、すごいじゃないですか」


 スクリがそんなことを言って、僕を褒め始めてきた。

 多分、元気づけてくれているのだろう。

 スクリらしい。


「はは、ありがとう……」


 話だけ聞けば、やっていることはゲームやアニメなんかの主人公だな。

 だが、僕がやっているのは、ほとんどが自業自得を解決することだ。

 手柄だと言われるほど大層なことをしたとは思えない。


 僕のことを励ましてくれている以上、スクリにこんなことは言えないが。


「──リーバルトさん、アディちゃんのことを大切にするのも大事ですけど、自分のことを大切にしなくてもいいってわけじゃないですからね」


 スクリがそんなことを言って、僕の目を見てきた。


「で、でも……」


「その右目、シビルさんのと同じですよね」


「……多分」


「腕も……怪我だって負ってます。また無茶をしたんでしょう?」


 スクリがそんなふうに言って、僕の身体に巻きつけられた包帯の数々を見た。

 治癒魔法をかけるほどの怪我でもないと思って、最低限の処置だけで済ませたのだ。


「……怪我を負わないで戦うのは無理だよ」


「程度の問題です。そんな姿になるまで戦ったんでしょう? 逃げることだってできたはずなのに」


「王子を見逃すわけにはいかなかった」


「あの場ではイルモラシアさんも勇者も戦闘不能だったんですよね? その時点で本当は逃げるべきだったんですよ。見逃す前に殺されてたら、元も子もなかったんですから」


 スクリにそう言われて、僕は口を閉じた。

 確かに、もしあの場にフーリアさんが来ていなかったら、ゴーレムの自爆で僕は死んでいただろう。

 魔女化しなければ負けていた確率が高いし、右目の力にも気づかなかったら魔女化すらできていなかった。


 今思えば、偶然の連続で勝てたようなものだ。


 もしあの場で僕に何も起こらなかったら、死んでいたのは僕の方だった。

 実力で勝ったとは言えないのだ。


「そうだね……気をつけるよ」


「……まぁ、これで変われるほど人は簡単じゃないですし、徐々にでも変わってくれればいいですから」


「うん。ありがとう」


 そう言って、僕は視線をスクリからアディに移した。


 ──涙。


「……アディ!? 起きてたの!?」


 アディが目を開けて、泣いていた。

 視線は天井を向いている。


「死んだかと、思った……」


 アディがそう呟いて、自分の腕を見る。

 折れ曲がって潰れていた右腕。

 すっかり綺麗になった右腕をみて、アディは更に泣きだした。


「アディっ!?」


「アディちゃん!?」


「……うぐっ、ありがとう……ありがとうね……私、死んじゃったって……思って……」


 アディは袖で拭っても消えない涙を浮かべながら、必死に「ありがとう……ありがとう……」と呟き続けていた。


「リーバくんも、スクリちゃんも生きてる……」


「や、やだなぁアディちゃん、私は戦い参加してないから生きてるよー……?」


 スクリも苦笑いと一緒に涙を浮かべていた。 


 その光景を見て、僕は少しほっとした。


 ……無事だ。

 アディも、スクリも、お墨付きの面々も、全員無事。


「はは……」


「……リーバルトさん?」


 誰かは死ぬと思ってたのに。

 誰一人として、仲間は欠けていない。


「良かった……ほんとうにッ、良かった……」


「えぇ……!? みんな、泣いちゃったら、この場、誰もおさめられないじゃないですか……!」


 今はただ、そう納得しておこう。

これにて第十章は終了となります。

想像よりもグダった印象……。

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