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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第十章】革命編
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【第四百六十九話】まだ終わってない

 結局、待ってもアディが起きなかったので、僕達は一旦家へ戻ることにした。


「ごめんスクリ……。あとはお願い」


「……えぇ。今日は、ゆっくり休んでてください」


 眠ったままのアディをスクリに任せて、僕はリビングへ入る。

 僕のことを見るスクリの目が、少し同情的だったのが、少しショックだった。


「……戻ったよ」


「おつかれ、リーバルト……ってどうしたのそれ!?」


 僕を出迎えてくれたハーミルくんが、僕の姿を見てそんな第一声を挙げた。

 まぁ、右目は金色になっているらしいし、左腕も透明な龍の鱗に覆われたみたいになっているし、そんな反応はするか。

 気持ち悪いとでも思われてしまっただろうか……。


「めっちゃ格好良くなってる……!」


 あぁそっち?

 確かにそういう目で見てみれば格好良くは見えるけども。

 そういえば、ハーミルくんがそういう性格だったことを忘れていた……。


「魔女化したんだ」


 僕の後ろを歩いていたイルモラシア校長がそう言った。


「魔女化ですか? 彼は男ですよ?」


 ルラーシアちゃんがそう訊いた。


「魔女化するやつに女が多いだけで、男でも魔女化はする」


「そうなのですか?」


「そうだ。魔女化すると、魔力量の増加と体内における魔力の循環効率の向上、そして体外に結晶化した魔力が何らかの形で露出するんだ」


 確かに、ルルット王子の攻撃を防いだときだって、魔法の発動がいつもよりスムーズだった。

 あれは体内における魔力の循環効率が上がっていたからか……。


「でも、なんで僕は魔女化したんですか?」


 魔女化をするのにも、何か条件が必要なはずだ。

 たしか魔人になったときは大量の魔力がこもったリンゴを食べたから──。

 そういえば、今回は右目の力を使って大量の魔力を摂取したよな? 


「伝承では魔法に魅入られた者が魔女になるとされているが、実際には魔人の魔力暴走の克服が条件だな。お前、何か変なことしたんじゃないか」


 イルモラシア校長にそう言われて、僕は思わず視線を逸らした。

 魔力の塊を一気に摂取しようとして失敗した話なんてしたらどんな反応をされるんだろう……。


「さ、さぁ? 校長先生も魔女なら、先生が魔女化した原因を知りたいですね……。そしたら原因がわかるかも……」


 僕はそう言って、できるだけ話を逸らそうとする。


「わしの場合は十四個の魔石を粉末にして吸引したからだな」

「は?」


 怖い怖い怖い。

 わざわざ大量の魔石を粉末状にした理由もわからないし、それをアブナイ薬みたいに摂取した理由もわからない。

 というか、なんでそれで引き起こった魔力暴走を克服できてるんだよ……。


「なんでそんなことをしたんですか……?」


「若気の至りだ」


 ぶっ飛んでんなぁ……。


「じゃ、じゃあリーバルトくんの左腕はもう戻らないんですか……?」


 フィモラーちゃんが校長にそう訊いた。

 良かった。このままじゃ僕の左腕の心配をしてくれる人が一人もいない状況になるところだった。

 やっぱりフィモラーちゃんは良い子だなぁ……。


「キモい」


 テタに何故か罵倒された。

 いつの間に現れた?


「いや、治らないことはない。わしだって頭に生えた角を消した経験があるしな」


 角生えてたのか。

 角が生えているイルモラシア校長か。

 今よりも怖そうだな……。


「それなら!」


「でも今は無理だ」


 イルモラシア校長の言葉が非情に現実を突きつけてくる。

 しかし、治るなら安心か。

 だったら、治せるようになるまでゆっくりと待つべきだな。


「それより、今は残党をどう狩るかだ」


 イルモラシア校長がそう言って、全員の目の色が変わった。

 全員の目に、緊迫感が宿ったのだ。

 ルルット王子を倒したとは言え、クーデター自体はまだ続いているのだ。

 すべて片付けなければ、平穏な日はやってこない。


「王子が倒されたことを発表してみては? 魔法学校の校長が言うのであれば、信じない人はいないと思いますけど……」


 ハーミルくんがそう提案をする。


 確かに、王都内ではイルモラシア校長の発言力は大きい。

 それこそ、一部の有力貴族の発言力にも負けないレベルで。

 世界最強クラスの魔術師の影響力は伊達じゃないのだ。


「だとしても、しばらくは暴れまわる連中がいるだろう。多少は諦めるだろうが……」


「大々的に力を誇示してみては?」


「それもありだが、それでも裏でこそこそやる奴はいるだろうな。やるなら一掃だ」


 そこまで行くと、もはや不可能ではないだろうか。

 いま反乱を起こしている騎士や魔術師たちの中には、略奪が目的になっている奴らもいる。

 そう言った奴らはクーデターを収めたあとでも略奪や強盗を繰り返すだろうし、治安は一向に良くならないだろう。


 それ以外にも、王政に不満を持っていたり王子に扇動された騎士たちは簡単に諦めてはくれないはずだ。


 反乱の数をゼロにするのは、いくらなんでも無理がある。


「それはちょっと……無理じゃないですかね……」


「そうだ。無理だ」


 あれ、きっぱり言い切ったな。

 もう少し反論してくると思っていたが……。


「だからわしは、反乱の上に反乱を被せようと思っている」


「……へ?」


 何を言っているんだ?


「長く生きていると、わしも政治をしてみたくなってな」


「……??」


「先生、それって……」


「遠くの国に、魔法国家というものがあるらしい」


 なんとなく、嫌な予感がした。

 いや、予感といっても、話の流れ的にはもうほとんど分かっているようなものだが。


「せっかくの機会だ。わしも作るっ!」


 わしも作るっ!


「冗談」「じゃないぞ」


 嘘だろ。

 建国宣言しおったぞ……。


「むちゃくちゃですよ!?」

「そうです! いくらなんでもそんな事……そもそも、魔法学校の運営はどうするんですか!?」


 僕とハーミルくんはそう言ってみたものの、イルモラシア校長の目は依然としてキラキラとしている。

 こんな元気な校長、初めて見たぞ……。


「魔法学校の校長なんざ、ある程度魔法学校に務めている教師でもなれるわ」


「ですけどっ! イルモラシア校長でも流石に政治までは……」


「……私はいいと思うわ」


 ルラーシアちゃんがそう言って、僕の発言を止めた。


「いいって、何が!?」


「じゃあ聞くけれど、今の反乱がおさまったとして誰がこの国を治めるの? 強い貴族はクーデターの最初で全滅したし、地方の貴族は領地の維持に精一杯のはずよ。有力貴族の生き残りがいたとしても、新しい政権が長持ちするには権力だけじゃなくて力も必要。ぼろぼろになった今の貴族に力はあるのかしら? だったら、力もあって、魔法学校で長年トップの経験を積んできた校長が国を治めるのがいいと思うのだけれど」


「……」

「……」


 何も言い返せない。

 確かに、ルラーシアちゃんの言う通りだ。


「ホーラを統治するなら、どんな政治をするんですか?」


 フィモラーちゃんがそう訊いた。

 確かに! いくら国家を治める力があったとしても、政治の仕方に問題があるかもしれないじゃないか!


「そうだな。他国と比較しても高度な魔法技術を持ち、治安もある程度は良いような国家をまずは目指したいと考えておる。そのためにはまず教育機関を整備する必要があるのだが……」


 ……。


 たかが学校の校長だからって、政治ができないとは決めつけてはいけないのかもしれない。

 


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