【第二十一話】魔法学校の魔法の授業
「じゃあ、授業を始めようか」
リハード先生が教卓に両手を乗せてそう言う。
教室には先生だけの声が響き、廊下からは他の教室の授業音などが聞こえてくる。
他の教室は、僕たちとは対照的に騒がしい。
「先生! 今日は何の授業をするんですか?」
ルラーシアちゃんが右手を挙手しそう言った。
すると先生はフフン、と鼻を鳴らして言葉を発っしようとする。
「よく聞いてくれたルラーシアちゃん! 今日はね……」
「あ、やっぱいいです」
ルラーシアちゃんは先生の態度が気に食わなかったのか、そのように反応する。
しかし、先生はルラーシアちゃんの反応を無視して続けた。
「今日は自分の得意な属性の魔法を、僕に見せるだけの授業さ!」
「でも先生、ここ教室だから魔法は使えないんじゃないんですか?」
ロント君が先生に首をかしげながらそう言った。
魔法学校の校則では、普通の教室では魔法を使ってはいけないことになっている。
「ああそうか、リーバルト君以外には見せたことがなかったね」
リハード先生はそう言って、指パッチンをした。
直後、僕たちの教室が深い闇に包まれ、僕たちの体以外の全てが不明瞭になった。
入学試験の時に使ってた魔法だな……。でもやっぱり詠唱はしている様子がない。先生は自分で詠唱魔法だってあの時は言ってたのに……ただの言い間違いだろうか?
「すっごい……」
ルラーシアちゃん達がそう言って周囲の黒い背景を見回す。
皆が皆目を見開いてこの非日常的な空間に目を輝かせている。
「先生……これってどんな魔法なんですか……?」
フィモラーちゃんが先生の方を見上げてそう言った。その目には自分もその魔法を使えるようになりたいという、強い意志が隠れているように、僕には見える。
「これはね、『ブラックボックス』っていう闇属性の詠唱魔法だよ」
「え?」
その場にいる全員が先生の言葉にそう同じ反応をした。
無論、僕もだ。
「詠唱魔法って……先生詠唱していませんでしたよね?」
ハーミル君は’困惑しながらそう言う。
今回も先生は詠唱魔法と言った。しかし、先生は指パッチンをしたのみで、一言も詠唱はしていない。
それなのに、どうしてこの詠唱魔法が発動できたのだろうか?
そう思っている僕の疑問を解消するように、先生は説明を始める。
「なんというかね……そう言えば君たちは、魔法が発動するときの仕組みってなんだか知ってる?」
先生は僕たちにそう質問をする。
いきなりどうしたのだろうか? もちろん僕はそんな仕組みなんて知らない。
「分かりません」
僕が正直にそう答えると先生は「そうか」と言って続けた。
「まず発動する魔法の形を決めるんだ。水属性にするか、火属性にするか。どんな威力にしたいのか、効果範囲はどれぐらいにするか。それを詠唱魔法なら詠唱で、基礎魔法なら頭の中で思い浮かべる。ここまではわかっただろう?」
僕たちは先生の問いかけに頷くと、先生は続ける。
「でもね、詠唱魔法は、同じ魔法を使い続けることで、詠唱をしなくても発動できるようになるんだ。
魔力の流れが分かってきて、基礎魔法の要領でその魔法を再現できるようになるからね」
つまり、先生は『ブラックボックス』という詠唱魔法を、使いに使いまくったことで、慣れてしまったから詠唱をしなくてもよくなったわけだ。
「君たちにもそんな感じの魔法がこれからできていくから、楽しみにしておくといい」
先生がそう言って、みんなはそれに元気よく「はい!!」と返事をした。
「じゃあ、まずはロントくんから得意な魔法をどうぞ。基礎魔法と詠唱魔法、どっちでもいいからね。これは君たちの実力を見るためのものなんだから」
リハード先生はロントくんの肩をぽんと叩き、安心させるための言葉を彼にかけた。
そう先生に言われたロントくんは、深く深呼吸をして、右手に持っている杖を前に突き出した。
彼の杖の全長は、折り畳み傘を伸ばしたぐらいで、先端部分には薄茶色の石がはめ込まれている。
未だに杖の先端に付いている石の意味がわからない。
ゲーム的に考えると、魔法の威力があがる魔石というものだと思う。
「強かなる精霊よ、我に力を貸し、地を穿て、『メイクホール』」
ロント君が詠唱をした瞬間、彼から少し離れた所に、日本の民家一つぐらいなら簡単に沈めることができるであろうほどの大穴が発生した。
フーリアさんの使ったメイクホールよりも効果範囲がずっと広い。
「メイクホール! 簡単な土属性の魔法だけれど、それも追求うしていけばこんな威力を出せるんだね!
次!」
リハード先生がロントくんにそう言ったあとに、フィモラーちゃんの方を振り返った。
「は、はい!」
フィモラーちゃんは先生の許可を待たずに杖を構える。
彼女の杖はロントくんのものと同じぐらいの長さで、先端部分には赤い石がついている。
「強かなる精霊よ、我に力を貸し、敵を燃やせ、『ファイアボール』」
いかにもな名前の単語を彼女は言い放つと、彼女の杖から火の玉が出現し、遠くへと一定の速さで飛んでいった。
「ファイアボール。基本的な火属性詠唱魔法でありながらも、戦闘ではそれなりに役立つ魔法だね。これからも火属性魔法を伸ばしていこうか!」
リハード先生がそう言ってフィモラーちゃんを褒める。
先生はフィモラーちゃんにそう言った後に、無言でハーミルくんの方を見つめた。
先生は未だにハーミルくんに対して恐れ慄いているようだ。
「……?
風の精霊よ、我らの先に敵あり、して撹乱させん力を我に与え給え、『トルネード』」
ハーミルくんは黄緑色の石の付いた杖を振り回してそう詠唱をすると、僕たちから1㎞ほど離れた場所に大きな竜巻が起こした。
その竜巻は小さな村程度なら崩壊させることもできなくは無さそうなほどの威力だ。
……す、すげえ。
「トルネード、10歳で風属性の中級レベルの詠唱魔法を使えるのはすごいことだよ……」
先生は僕の後ろに隠れながら、ハーミルくんにそう言う。
どんだけハーミルくんが怖いんだよ。
「次は君だよ」
すると先生は、僕の背中で僕のことを指してそう言った。
できればそこを退いてほしいのだが……。
まあしかし、試験の時と同じ様に、グジモットを使えばいいだけだろう。
僕がそんな事を考えながら自分の杖を前に突き出すと、先生は後出しで言ってきた。
「グジモットはなしだよ。僕はもう見たからね」
しっかりと対策されてしまった。




