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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第六章】少女救出編

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【第百九十七話】同郷の者

 僕達がハッセルの元へ向かっている最中、アディメさんが足を痛そうにしていたので、僕は彼女をおんぶで運ぶことにした。

 かなり軽い。

 碌に食べていないのか、彼女の体重は魔術師の僕でも簡単に持ち上げられるほど軽かった。

 やはり、アディメさんをあんな環境に放り込む勇者教団及び勇者は頭がイカれているのか。


「大丈夫、大丈夫だからね……」


 僕はハッセルのところへと向かう途中で、アディメさんにずっとそう言い続けた。

 彼女は僕のその言葉を聞く度に、僕の事を強く抱きしめて、声を殺して泣いていた。



 僕達がハッセルの元へと戻ると、そこはあまりにも迫力のある空間へとなり果てていた。

 勇者が、ハッセルとシビルの猛攻に耐え、その2人はいい感じの連携で勇者を追い詰めている。


 勇者が圧倒されているのだ。

 あの、僕の魔法が全く効くことのなかったような勇者が。


「あれ、参加できる?」


「無理に決まってるでしょう!?」


 僕がそう訊くとスクリはすぐさま僕の方にそう叫んだ。

 一応、スクリも上特級冒険者パーティのメンバーだったのだが、それでも彼女は絶対に嫌というような事を目で訴えかけてきている。

 それだけ、この戦闘は激しい。僕だって参加したくない。


 ハッセルが大剣を勇者に振りかざし、シビルが勇者の背後を取って殴りかかる。

 勇者が右に避けようとすれば、その動きにシビルが対応しようと殴打の向きを右へとずらす。


 そんな動きが一瞬で起こるのだ。

 ハッセルの攻撃が間違ってシビルに当たることは無いし、その逆も無い。その2人の攻撃は勇者にしか当たることはない。

 僕が知らない間に相棒にでもなっていたのかと思いたくなるほどの連携だ。


「とりあえず……止めるか……止めれるか?」


 僕はついそう口ずさんだが、スクリもおおむね同じような意見を持っているようだった。

 彼女は何も言わずに僕の言葉に首を横に振った。


「無理っぽそうですね」


「だよなぁ……」


 僕の作り出した砂嵐が晴れて、視界が明瞭になってから随分経っているだろうに、ハッセルは消耗している気配を見せるどころか、その動きはどんどん苛烈さを増しているような気がする。

 ハッセルはシビルのような戦闘狂ではないと思っていたのに、普通に戦闘狂だったわけだ。


 でなきゃ、勇者の剣が自身の胸元に傷を付けてしまっても、笑っているわけがない。


「……ユウスケー! 助けて!!」


 スクリが拘束して連れてきていた灰髪の少女が、口につけていた布の猿ぐつわをどうにか外してそう叫んだ。

 まずい、勇者に僕達がいるのがバレてしまった。


「メックス!? アディメ!?」


 勇者は驚いたようにその場に立ち止まり、僕達の方を見た。

 そのよそ見をハッセルとシビルが見逃すわけがなく、彼らは勇者に向かって、同時に攻撃を繰り出す。


 ハッセルが斬撃を、シビルが正拳突きを。


 その攻撃を勇者は同時に、前後に食らった。

 勇者は胸から出血をして、背中のどこかの骨が折れたのか、凄まじい音を出して、彼は「ぐふッ!」と小さな悲鳴をあげる。


 次の瞬間、ハッセルが勇者の顔面に向かって、突きを繰り出した。


「待ってください!」


 僕がそう叫ぶと、ハッセルの剣が、文字通り勇者の目の前で止まり、ギラギラとその刀身に照らしつけている太陽の光を反射した。

 ハッセルが僕の方を振り返り、叫ぶ。


「何故止める!」


 その声からは憤怒と困惑の感情が同時に感じ取れた。

 僕はその怒声に威圧されながらも、冷静を装って彼に話しかける。


「聞きたいことがあるんです」


 僕はそう言って、アディメさんをその場に降ろして彼らに近づいた。

 シビルは戦闘中に水を指した僕を、面倒くさそうに見ながら舌打ちをする。

 かつての仲間に舌打ちされた……。

 僕は少し傷つきながらも、未だに動かずにこちらを見ている勇者の目の前に立つ。


「なんで……なんでアディメさんをあの部屋に閉じ込めた?」


 僕は少しずつ湧き出している怒りを抑えて、勇者にそう話しかける。

 彼は自身の胸から溢れ出している血を眺めながら、僕の質問に答えた。


「お前みたいな魔物に二度と連れ去られないためだ」


「その結果が、あの血文字が壁に塗りたくられた部屋なんじゃないのか」


「それでも……お前が来るよりかはマシだったんだ」


 あの惨状よりも僕が来る方が危険だったと?

 例えそうだとしても、少しは改善しようと思わなかったのか?

 アディメさんのあの日記を読んでいて、彼らがアディメさんの周辺環境を改善しようという動きは碌に見られなかった。

 それどころか、現状のままでも良いとすら考えているような気すらしたのだ。


 唯一、アディメさんの環境を憂いた人がいたのに、その人は彼らに辞めさせられてしまった。

 おかしいだろう?


「お前らのほうが、僕よりもひどいことをしているじゃないか……!」


「いいや、俺はお前より正しい事をした」


「正義人気取りか……?」


「魔物退治を神から任されている身だからな」


 頭が本格的に終わっているのか。

 それとも本当に神との繋がりがあるのか。

 だとしても、魔物退治を任されている……? 人間である僕を魔物とみなしているこいつがか?

 まるで、僕みたいな人間を魔物と呼んで、退治しているみたいな言い方じゃないか。


「僕みたいな人を、いっぱい殺したのか?」


「お前らは人じゃない。神に敵対する、魔物だろ」


「……ッ!」


 僕は杖を構えて、勇者の左頬に杖の先を突きつける。

 こいつとは根本的に話が合わない。仲良くなれそうにもない。

 胃がひっくり返るような思いだ。頭痛すらする。


「殺すのか?」


 シビルが僕にいつもの何でもないトーンでそう訊いてきた。

 彼女は戦闘を邪魔されて憤っているわけでもなく、ただ淡々としている。

 まるでそこらにいる蟻を見るような、何とも思っていないような感情だ。


「…………」


 僕は杖を下ろして、拳を握りしめた。

 ……こんなに憎い相手だというのに、殺せない。


 今更、前世の価値観を引きずってるのか?

 何度も人が死んだのを目の前で見てきたのに、未だに僕は人を殺せないのか?

 間接的には人を、友人すらも殺せるのに、直接手を下すのは嫌なのか?


「……何人殺した」


「何がだ?」


「お前が魔物と呼称している、人間の数だよ!」


 僕はついカッとなって、左拳を勇者の右頬にぶつけた。

 彼は僕よりも鍛えられていて、僕のその殴打はまるで効いていないようだ。


「……30体以上だ。数えてない。

 アディメたちの分も含めると、優に50は超えてるだろうな」


 アディメさん達にも人殺しを要求していたのか……!

 ただの、騎士団長の娘だった少女に、人殺しを経験させたのか?


「お前は悪魔だ!」


「悪魔はお前だろ!」


 勇者が僕に向かって剣を振りかざして、そして振り下ろした。


 左腕の感覚が消え失せ、その代わり、僕の肘から先でとてつもない痛みが走った。


「リーバくん!!」


 アディメさんが僕のものより大きな悲鳴をあげて、僕の元へと駆け寄ってきた。

 彼女は僕の左の肘を必死に抑えていて、止血をしているようだったが、気が動転しているようで彼女の指の間から、僕の赤い体液が滴り落ちている。


「いい……です。大丈夫ですから……」


 僕は激しい痛みを我慢しながら勇者を見る。

 彼は僕にまた剣を振りかざしていたが、アディメさんが邪魔なのか、その剣を振り下ろせないでいるようだった。


 ハッセル達は僕の事を助けようとはしていない。

 いや、僕を心配している間に来るかもしれない勇者の不意打ちに警戒しているのか。


「お前は……トラックに撥ねられる瞬間の、恐怖を知ってるか?」


 僕は激痛に耐えながらそう言うと、勇者の眉が一瞬だけピクリと、動いた。

 明らかに動揺している。

 トラックという単語を聞いた瞬間、硬直しやがった……。


「いきなり白い空間に飛ばされて、異世界に転生されることになったとき、不安は感じたか?」


「おま……!」


「転生したら、そこは中世のヨーロッパみたいな場所で、日本とは環境が圧倒的に違う。そんな感覚を、お前はどんなふうに記憶している?」


 日本という単語を聞いた瞬間、勇者の顔が露骨に歪んだ。

 間違いない。

 こいつはこちら側の人間ではない。僕が前世までいた側の人間だ。

 顔つきと名前で判断するならばアジア、強いては日本人だ。


「……お前! さては日本じ……」


 直後、アディメさんが勇者に殴りかかった。

 憎ったらしそうに、彼女は勇者の顔面に殴りかかった。


「……」


 アディメさんによる攻撃は、僕の攻撃よりも効いたようで、勇者は少しよろめき、俯いた。

 僕はこれ以上、勇者に何も話すことはない。

 いや、何を話しても、無駄だと感じているだけか。


 僕の前世が日本のブラック企業に務めるしがないサラリーマンだったことも、今はどうだっていいのだ。

 日本に思い入れがあったわけでもない。

 別に元の世界出身の人間がいたからといって、はいそうですか。そういう考えになるだけだ。


「……クソ野郎が」


 勇者がそう言った瞬間、彼は僕達の目の前から消えた。まるで漫画のコマが変わった瞬間のように、気づいたら勇者がそこにはいなくなっていたのだ。

 それと同時に、僕達の後ろにいたメックスという灰髪の少女も消えていた。


 ……どっちがクソ野郎だ。クソ野郎め。


「っ……」


 まずいな……出血が多すぎる。

 貧血気味で、我慢していた痛みも、そろそろ耐えることが困難になってきている。

 僕の思考を無視して、膝が地面につく。立ち上がろうとしても、僕の下半身に弱々しい力が入るだけで、立ち上がるほどの筋力を発揮することが出来ない。


「リーバルト! 大丈夫か!?」

「リーバルトさんッ!」

「リーバくん!」


 シビル以外のみんなが、僕を見てそう心配している。

 シビルはと言うと、何かを考えているかのような真剣な表情で僕の方を見ている。


 アディメさんは僕の左腕の断面からの出血を止めようと、必死に彼女の服を押し付けているが、ただ彼女の服が赤く染まっていくだけで、何の効果も発揮していない。


 スクリは……近くに生贄を探して、治癒魔法を僕にかけようとしているのだろう。

 必死に詠唱をして、詠唱文を間違えて振り出しに戻るを繰り返している。

 僕の腕が復活するわけでもないのに。


 視界の周りに白いモヤがかかって、何も聞こえなくなってきた。

 まるで夢の中の空間のように、世界が曖昧に見えてくる。

 痛みはもう感じない。

 体が脱力して、世界が横にひっくり返った。


 僕は、その場で気を失ってしまった。

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