【第十六話】自己紹介
目の前に見える気持ち悪いほどの満面の笑み。
僕の後ろに隠れ怯えているハーミルくん。
よくわからない状況に、僕はなっていた。
「どうしたのかな? 座らないの?」
目の前にいる入学試験の時に出会った教師は、ニコニコとした表情で手を後ろに組んでいる。
「あの、先生が邪魔で教室に入れないんです……」
「ああ!? そうだね! 僕がここにいちゃ不味かった!
いやぁー、失敬失敬」
そう言って教師は僕達の目の前から退き、教卓の前に立った。
僕たちはそれを見届けて教室の席に座る。特に座る席の指定はないようだ。
僕の隣にハーミルくんが座った。
「よし! じゃあ全員揃った所で、自己紹介を始めようか」
「……え?」
僕とハーミルくんは同時に驚いた。周りの生徒の人も唖然とした顔をしている。
「どうしたのみんな?」
教師がそう言った瞬間、唖然として口を開けていた生徒の一人が叫んだ。
「どうしたも何も、まだ5人しかいませんよ!? 全員ってなんですか!」
そう白銀の髪をした女の子が言った。
「……? それがどうしたの?」
「少なすぎるんですよ!? 他の教室を覗いてみましたけど、私達のクラスよりも遥かに多かったですよ!?」
女の子は漫才のツッコミ役のように言う。
元気だなこの子。
「あー! そういうことね。それも説明するからまず自己紹介ね」
教師はあしらうようにそう言って、杖を一振りする。
すると、杖の先に真っ赤な水が顕現して、それは文字を描いた。
《リハード・ソモン》
「僕の名前はリハード・ソモン、君たちの担任だ」
リハード先生はそう言って、空中に浮いている赤色の水を消した。
基礎魔法の類か? でも色付きの水を、しかもそれで名前を書けるほどの精度で基礎魔法を発動するのは、かなりの集中力がいるぞ……。
「じゃあまず一番右の君から!」
そう言ってリハード先生は杖で一番右に座っている男の子を指した。
男の子は席から勢いよく立ち上がって自己紹介を始めた。
「ぼ、僕はロント・ホリックスです! よろしくお願いします!」
焦げ茶色の髪をした背の高い男の子はそう自己紹介をした。
趣味とか特技とかは言わなくてもいいみたいだな。前世の自己紹介はそれが一番苦労したもんだ。
今になって前世を振り返ってみると懐かしく感じるな。
中学の頃シャー芯をコンセントに挿して家全焼したあいつ、元気かな。
「次は君!」
「は、はい!」
先生は杖をずらして、ロント君の隣にいる緑髪の女の子を指した。
「フィモラー・リットミドルです……よろしくね」
おとなしめの子かな。というより緑色の髪って結構珍しいな。
フーリアさんも赤髪だったし、この世界は色々な色の髪の人がいるかも知れない。
「次!」
そう言ってリハード先生は杖でハーミルくんの方を指した。
「僕はハーミル・ミソット・ヨルハスです。よろしくお願いします」
ハーミルくんがそう言ってお辞儀をすると、周りの雰囲気がハッと張り詰めた空気になった。
みんなの目が見開いていて、ほとんどの人が驚愕とも、畏怖とも取れる表情をしていおり、普通にしているのはリハード先生だけだ。
ハーミルくんが何をしたっていうの……?
「おっほん、次は君だよ」
リハード先生は咳払いをして、僕の方に視線をやった。
この空気を少し変えてくれないかな? みたいな表情だ。
「僕はリーバルト・ギリアです。よろしくお願いします」
……無反応。
まぁそれが当たり前なんだけれども、こうも反応がないと少し悲しくなってくるな。
あ、ハーミルくんが少しだけ拍手してくれてる、優しいなこのお方。
「次が最後だね」
先生がそう言って、先程のツッコミ役のような振る舞いをした白銀の髪の女の子が立った。
その顔立ちは周りの子よりも美しく、目がキリッとしていて、彼女だけ僕たちとは5年ほどの年の差があるように感じる。
しかし、背丈は僕たちと同じくらいだ。背が低いのだろうか?
「ルラーシア・ミクレウイです。よろしくお願いします」
白銀の髪をした女の子は女騎士を思わせる雰囲気を放ちながらそう言う。
先程の先生とのやりとりでも思ったが、この子はかなり声が透き通っていて綺麗だ。
話しているだけなのに目を奪われてしまう。
やだ、おじさん恋しちゃったかも。
……今のは流石にキモいな。
「じゃあなぜこのクラスには5人しかいないのか、それを説明しようかな」
リハード先生は教壇の上をコツコツと足音を立てながら歩き始める。
「まず、君たちには共通点が二つある。
一つは君たちが10歳から12歳までの少年少女であること。
二つ目は僕たち教師陣が、これから伸びるであろう優秀な子達と決めた5人という事だ!」
リハード先生はそう言って変な決めポーズを教壇の上で決めた。
案の定、僕の周りの子達の先生に対する視線は、とても冷たいものである。
「おっほん、つまり、君たちは選ばれし5人ということだ」
この人、気まずい雰囲気になるとすぐに咳払いするタイプの人だな……。
しかし、選ばれし5人か……なんか響きカッコイイな。
英語ならスペシャルファイブ? 選ばれしって英語でなんていうんだ?
「まあそんなこんなで、よろしく頼むよ」
そう言って先生は僕たちに優しく微笑んだ。
その笑顔を扉を開けた時に見せてほしかったなぁ……。




