【第十一話】牽衣頓足(2/4)
気がつけば魔法学校の試験当日だった。
魔法学校まではフーリアさんがついてきて、村から近くの街まで数時間かけて歩き、そこから馬車へ乗った。
馬車での移動が思ったよりもきつく、揺れがすごくて気持ち悪くなるし、道があまり舗装されていないせいかスピードも結構遅い。
そのため、魔法学校のある王都まで約一〇日かかってしまった。
この国、『ホーラ王国』は大陸の中では中ぐらいの領土面積を持った国らしく、僕の村から王都まで約四〇〇kmは離れている。
現代技術が恋しいよう……。車が欲しいよう……。
「このパンください」
フーリアさんが出店でパンを買おうとしている。
「フリル銅貨2枚分ね」
おばちゃんがそう言ったので、フーリアさんはふところから2枚のフリル銅貨を取り出し、それを渡した。
異世界に転生させられてから早一〇年がたった今でも、通貨の価値が未だによく分かっていない。
基本的には硬貨なのだが、その硬貨にはいくつも種類があるし、同じ銅貨なのに、価値が高かったり低かったりする。
フリル銅貨一枚で大体二五〇円ぐらいの価値はあるとみていいんだろうか?
で、フリル銅貨四枚でフリル銀貨一枚と同じ扱いを受けるから……銀貨の価値は大体千円ぐらいと考えたほうが良いだろう。
そしてフリル銀貨二〇枚でフリル金貨一枚に交換できるから……どうやらフーリアさんの月給は二万円ぐらいらしい。
生活水準や衣食住を提供してもらっているからこそ、その給与でも過ごせているのだろう。
ここは日本じゃなく、異世界だからこそっていうのもあるだろうが。
日本で同じように働いていたら、一瞬で労働基準監督署が扉を蹴破ってくるだろう。
「どうぞ」
そんなことを僕が考えている間に、フーリアさんはパンを僕に手渡してきた。
「ありがとうございます」
そう言って僕はフーリアさんから貰った、自分の手の平ほどの大きさのパンを頬張った。
不味くも美味しくもない。ただの味が薄いパンだ。
……ジャム、ほしいなぁ。
「ホーラ魔法学校はあっちですね、もう少しです」
フーリアさんが地図を見ながらそう言った。
僕達の見た目のせいか、周囲の視線がこちらに集まっているのを感じる。
子供のおつかいとでも思われているのだろうか。
「道は覚えていないんですか?」
僕はその視線をなんとか誤魔化すためにフーリアさんにそう言った。
「魔法学校を卒業して一〇年は経ってますからね。記憶が曖昧なんです」
フーリアさんはそう言って、「あっちです」と時々進行方向を指さしながら、魔法学校へと進んでいく。
それにしても……。
街の至るところに国旗が掲げられているのは何故だろうか?
王都を出発した町でもそうだった。至る所にホーラ王国の国旗が飾ってあり、数年前の町の様子と違って困惑した記憶がある。
「先生、なんでこんなに国旗が飾ってあるんですか」
僕がフーリアさんにそう聞いても、フーリアさんは何故か聞こえていないふりで「あっちです」と呟くだけだ。
なにか隠してる……?
「着きました。ここがホーラ魔法学校です」
先生がそう言って見上げた建物はかなり大きく、白かった。
学校の近くにも、それなりに大きな民家が建っているのだが、それと見比べても圧倒的に魔法学校の校舎は巨大だ。
五階……いいや七階建てだろうか。
晴れの日に浮かぶ雲のように、純白である。
「なんというか……大きすぎて、迷いそうですね」
「入ったらじきに慣れます、行きましょうか」
フーリアさんはそう言って魔法学校の敷地の中に入っていった。僕はそれに続く。
魔法学校の敷地へ入ると、校舎の大きさだけでなく、敷地の広さもかなり広いことがわかった。
日本の有名な遊園地ぐらいの広さはあるだろう。
これ、道に迷ったら家に帰れなくなるやつだ……。
魔法学校の校舎の中に入っていくと、内装はまさに豪華絢爛という言葉が似合うほどに華やかだった。
照明は蝋燭の乗った巨大なシャンデリアが一定の間隔で設置されており、壁にも様々な彫刻、絵画が飾られている。
講義室の扉も巨大で、間近で見たら僕の身長では少し見上げないと扉のふちが見えない程だ。
「リーバルト・ギリアさんですね。かしこまりました。試験会場へと案内いたします」
受付にいた執事服のようなものを着た男の人がそう言うと、僕の背後に何かが現れた。
僕は首を回し、後ろに現れた何かを見上げる。
──鉄甲冑、鎧だ。
騎士が身につけていそうな鉄の鎧が、僕の目の前で姿勢良く立っている。
顔部分の空気穴から中を覗いてみるが、中には誰もいない。
「鉄の巨人ですか。設置し終わったんですね」
フーリアさんがそう言うと、受付の執事服を着た男性は、薄い微笑みを顔に貼り付けながら小さく頷いた。
「私はここまでですね。外で待っておくので終わったらそのまま戻ってきてください」
「わかりました」
フーリアさんがそう言って、そのままもと来た道を戻っていった。
それと同時に鉄の巨人が動き出し、ついてこいと言わんばかりに何処かへ歩き出した。
僕はそれについていく。
鉄の巨人について行っている途中、僕から少し離れた位置に、一人の男の子が歩いている事に気がついた。
貴族の子だろうか、それなりに華美な格好をしている。僕と同い年ぐらいの見た目だ。
それからしばらく歩いていると、一度外に出て、校舎と繋がっている、大きな四角い箱のような建物に入った。
建物の中では色々な音が聞こえた。
風がぼうっと吹く音、火がごうごうと燃え盛っている音、水のちゃぷちゃぷと滴っている音、どぉっと地割れが起きている音。
そんな魔法の音が、しきりに僕の耳に入ってくる。
試験の様子に見惚れていると、いつの間にか鉄の巨人は消えており、代わりに黒いローブを羽織っている男の人が目の前に立っていた。
「君がリーバルト君か」
見た目よりも渋い声の男性はそう言った。
声に期待の感情が篭っている。
※ミスしました。
本文が二回続いていましたので修正を施しました。
鉄の巨人の部分にルビをふりました。
誠に申し訳ございませんでした。




