表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの婚約者は捨てられる  作者: 一発ウサギ
9/15

8.そして舞台は幕を開ける

お読み下さりありがとうございます。

この世界では男女ともに18歳で成人する設定です。

セレナーデの誕生パーティ当日。

出かけようとする俺に、珍しくテノール兄上が声をかけて来た。

「何だアルト、こんなに遅く出かけるのか?」

「え?」

兄上の言葉に首をかしげると、途端に兄上が顔を顰めた。

「え?ってお前、仮にも婚約者の誕生パーティだろう。早めに行ってエスコートするのは当然だろうが……まさかエスコートせず放置するつもりだった、とか言わないだろうな?」

「あ…」

放置するしない以前に、婚約者をエスコートする必要がある事を忘れていた。

「ま、まさか兄上嫌ですなぁ~、放置するなんて考えてもいませんよぉ~」

アハハと乾いた笑いを浮かべながら、どうにか誤魔化す。

放置する気が無かったのは本当だ……エスコート自体忘れ切ってたのだから。

自分でも挙動不審だと思ってたので、兄上にもバレているだろうが、兄上は深いため息をつくだけで追及しなかった。

「はぁ~、そんな事だろうと思った。ホラ」

そう言って兄上が、持っていた物を渡してくる。

よく見ると贈り物の箱だった…形状からしてワインのようだ。

「今の時期ならワインだろ?ちょうどセレナーデ嬢も18歳になって成人になるし、祝いにピッタリだろう?」

「あ、すみません」

さすがに婚約者の誕生パーティに、プレゼント無しで参加はマズイ。

兄上がいなければ、そのまま行って顰蹙を買うところだった。さすが兄上。

「気にするな、じゃあな」

片手を上げて、そのまま兄上が立ち去った。



「すまない遅れた!」

待ち合わせ場所に行くと、すでにアリア達が待っていた。

「いえ大丈夫です、まだ待ち合わせの時間になってませんので」

「僕達が早く来すぎてしまっただけなので、お気になさらず」

「んもぅ遅いよぉ~、2人が暇つぶしに付き合ってくれたけど、立ちっぱなしで疲れちゃった」

2人がフォローしてくれたが、正直なアリアがふくれっ面をする。

(可愛いな)

遅刻しておいて不謹慎だが、むくれるアリアも可愛いと思う。

「あぁすまない、兄上と話しこんでたら遅くなってしまった。さぁ行こう」

早速向かおうとすると、何故かアリアが持っているワインを見て更にむくれる。

「その持ってるのってセレナーデさんへの贈り物なの?何でそんな物持ってくるのぉ?別に必要ないでしょう~?」

機嫌が悪くなったアリアを、慌てて3人で宥める。

「いや一応、建前として必要なんだ」

「そうですよ、贈らないと王家の名に傷がつきます」

「セレナーデ嬢を油断させる為なんですから、気にしなくていいですよ」

トランの言葉に頷く。

「そうそう。どうせ後で地獄を見せるんだから、せいぜいいい夢を見させてやろう。その方が面白いだろう?」

アリアを宥める為に言った言葉だが、これは中々名案だと自分で思った。

俺の脳裏に愛する男に捨てられて絶望するセレナーデの姿と、周囲に祝福されて勝ち誇る俺とアリアの姿が浮かんだ。

「わかったわ。後のお楽しみの為に、惨めなセレナーデさんに夢を見させてあげるわ~」

ようやく機嫌を直したアリアを乗せて、俺たち4人は辺境伯の邸へと向かった。



「ようアルト」

辺境伯邸につくと、何故か城で別れたテノール兄上がいた。

「兄上?いらしてたんですか」

(兄上はいつもは、公式行事以外参加しないのに…)

「まぁたまにはな…どうせ最後だし」

「「「「!」」」」

兄上の言葉に、俺たち4人は凍りつく。

(まさか兄上は、計画に気づいてる…?)

いやそんな筈はない。

俺達の誰も、家族にすら言っていないのだ。

「あ、兄上?今の『最後』というのは、どういう意味でしょうか?」

「あ?あぁ…セレナーデ嬢は今回の誕生日で成人になるし、来年にはお前と結婚して、次期辺境伯夫人になるだろう?そしたら辺境伯領に行く事になるだろうし、面と向かって贈り物を渡せるのも、これが最後だろうなって意味だよ」

その言葉に全員力が抜けた。

(何だ。やっぱり深い意味はないじゃないか、バカバカしい)

大事な計画の前で、少し緊張しているようだ。

「ホラお前も俺と話すより、早く婚約者に挨拶して来い。来年は夫婦になってるし、婚約時代最後のバースデーなんだからな」

揶揄うように兄上が言う。

「そうですね」

(兄上が考えてるのとは、別の形だけど)

数刻後には、セレナーデは愛する婚約者に捨てられて、泣き崩れるのだ…その様子を想像するだけで、嘲笑がこみ上げてくる。

アリア達も同じことを考えたらしく、俺と同じく嘲笑を浮かべている。

セレナーデの醜態が早く見たくて、早々にセレナーデの元に行く事にした。



「来てやったぞセレナーデ、ほら祝いの品だ」

会場で来客をもてなしていたセレナーデを見つけると、挨拶もそこそこに祝いの品を渡した。

「まぁありがとうございます。アルト殿下から贈り物をいただくなんて…どういう風の吹き回しでしょうか?」

遠回しに「今まで一度も、プレゼントなど寄越さなかったくせに」という嫌味を言外に感じて、ムッとする。

「うるさい!最後だから特別に用意してやったんだ、黙って受け取れ!」

(どうせこの後婚約破棄して追い出すんだし、最後の餞別くらい大人しく受け取れ!)

「そうですよ~最後のプレゼントなんですから、喜んだらどうですかぁ~」

アリアもセレナーデの無礼を責めたてる。

「…分かりました、ありがとうございます」

セレナーデは不愛想な態度でワインを受け取ると、メイドを呼んで渡す。

受け取ったメイドが一礼して去っていった。

不愉快になりつつもやることをやった俺達は、パーティが最高潮になるタイミングを見計らって、セレナーデに婚約破棄と追放を宣言した。

しかしセレナーデも周りも、期待していた態度ではなかった。



「分かりました、婚約破棄をお受けします」

まず破棄を言い渡されたセレナーデは冷静で、少しも苦悩が見て取れなかった。

彼女の身内も、こちらを無視してセレナーデを気遣って、招待客達は俺達を冷たい目で見ている。

何より俺達は、兄上とその護衛達に取り押さえられていた。

予想外の展開だったが、ここで本日1番の予想外が起こった。




「喉が渇いたわ、ワインを頂戴」

「はい」

すぐさまセレナーデ付きのメイドが、ワインの入ったグラスを差し出す。

「殿下から頂いたワインかしら?」

「はい」

「殿下から頂いた、最初で最後の贈り物ね」

そう言うとセレナーデはワインを一気に煽り―――そのまま咳きこんで倒れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ