5.破滅の始まり
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すっかり味をしめた俺は、その後もノクターン家に行っては、金目の物を持ち帰った。
不思議と、気づかれることはなかった。
(まぁ自邸内に泥棒がいるなんて、考えもしないんだろう)
上級の貴族家では、使用人さえも身元を厳しくチェックされるので、疑うことなど考えないのだろう。
その頃にはセレナーデに会えない事も全く気にならず、そんな風に気楽に考えていた。
やがて数年たち、俺とセレナーデは学園に入学することになった。
そこで俺は運命の出会いをした。
入学式の時、講堂がわからず迷っている女生徒がいた。
「一緒に行こう」と声をかけて、案内した。
それが男爵令嬢アリア=ロンドとの出会いだった。
それから何度か遭遇し、その度に彼女と親しくなっていった。
やがて1年経つ頃にはすっかり公認カップルになっており、傍付きのトラン=ペット子爵令息やチェン=バロ男爵令息とも仲良く打ち解けていた。
他の女にはすっかり興味を失くし、アリアの事しか考えられなくなっていた。
しかし2年に進級した頃から、雲行きが怪しくなってきた。
彼女が俺と離れている僅かな隙に、セレナーデに虐められているというのだ。
(そう言えばそんなのがいたな)
セレナーデの存在など、すっかり忘れていた。
「なんて可哀想なアリア、あんな影の薄い性悪女に虐められるなんて…」
「殿下、婚約破棄は出来ないんですか?」
「いや…それは」
セレナーデはもうどうでもいいが、辺境伯の跡継ぎの座と金は手放したくない。第3王子から王太子になるには、足がかりとなる身分功績が必要だ。
そう言うといい案を思いついたと、アリアが笑顔で手を叩いた。
「それならこのままセレナーデさんにお金だけ出させて結婚して、後を継いだら追い出すというのは?」
「それはいい案だな」
「どうせ殿下が後を継ぐんだし、どうしようと勝手でしょう」
「せいぜい慰謝料代わりに、搾り取ってやりましょう」
俺達は一も二もなく賛成し、今後の方針を決めた。
それからは毎日のように、セレナーデを呼び出しては、目の前でいちゃつき、金や持ち物を取り上げて、皆でそのみじめな姿を嘲笑った。もちろん取り上げた物や金は、俺達の交遊費に消えた。
高価なアクセサリーを身に着けて、笑顔を向けるアリアはたいそう可愛らしかった。
有意義に使ってやってるんだ、むしろ感謝してほしい位だと思った。
しかしやがてセレナーデは学園に来なくなった。
学園長に問いただすと「体調が悪く休学する」と、連絡が来たという。
「何だと?俺は婚約者なのに、聞いてないぞ」と食って掛かると、学園長から冷たい目で「誰が原因だと、思ってるんですか?」と睨まれた。
そこでようやく俺は、自分達が周囲からどんな目で見られているか気づいた。