2.毒入りワイン
ブックマークありがとうございます。
第3王子視点です。
何が起こったかわからなかった。
ワインを口にしたセレナーデが、突然苦しそうに倒れたのだ。
「セレナ、しっかりしろ!」
「先生こちらだ、早く!」
辺境伯と義兄が慌てて彼女に駆け寄り医者を呼ぶ。
駆けつけた主治医にセレナーデを預けると、義兄がこちらを睨みつけて叫んだ。
「殿下、貴方という方は!そこの女と不貞を働き義妹に濡れ衣を着せた挙句、ワインに毒を盛って殺そうとするとは!」
「違う!俺じゃな……痛っ!」
否定しようとしたが、取り押さえていた兄がいきなり床に引き倒す。
「困った事をしてくれたね…これはいくら王族でも牢屋行きは避けられないよ」
「違うんだ兄上、俺は毒なんか入れてない!」
必死に弁解するが、兄は取り合わなかった。
「へぇ。セレナーデ嬢が飲んだワインは、お前が贈った物なのに?他に誰が入れたっていうんだい?お前の愛するアリア嬢か?それとも愚鈍なお前の取り巻きか?どちらにしろ罪人なのは変わらないじゃないか」
兄が嘲笑いながら吐き捨てた。
周囲を見回すとアリア達も兄の護衛に床に引き倒されており、周りの人間達は皆冷たい目で俺達を見ている。
「そ、そうだ、きっとメイドが入れたんだ!セレナーデにワインを用意したのは、メイドだ!きっとその時に…痛っ!」
とっさに思いついた反論だったが、言い終わる前に兄に殴られた。
「馬鹿か!ここは辺境伯の屋敷で、あのメイドは辺境伯家のメイドだぞ!自分の主人に毒を盛るメイドがいるか!」
「で、でも他に…」
「もういい、黙れ!これ以上恥の上塗りをするな!」
それ以上の反論を許されず、問答無用で猿轡をかまされたまま、俺達は城の地下牢に放りこまれた。
「アンタ達のせいよ!」
牢屋に放りこんだ兵士達が立ち去った途端、アリアが怒鳴りつけて来た。
「アンタ達がワインに毒なんか入れるから!私までとばっちりで、罪人扱いじゃない。どうしてくれるのよ、私はこんなところで終わる人間じゃないのに!」
両手で顔を覆って嘆くが、慰める気持ちも反論する気力も湧かなかった。
逆に取り巻き達が憤慨した。
「人のせいにするなよ!そもそもお前が殿下をたぶらかした挙句『王子妃になりたい』なんて、言い出したのが発端だろう!」
「そうだよ。それがなければ僕達は、こんなところに入らなかったんだ!挙句自分でワインに毒入れといて、人のせいにしやがって!」
「何言ってんのよ!私が入れたんなら、もっと上手くやってるわよ。こんなことになったのは、アンタ達が馬鹿だからよ!」
「何だと!このあばずれが」
「何が王子妃だ、身分も中身も卑しい性悪女が!」
3人の醜い争いを横目にしながら、そっと3人から距離を置きながら考えた。
(こうなったら無罪を証明するには、真犯人を見つけるしかない…)
そこでチラッと3人を見る。
3人は変わらずお互いを罵り合って、見張りの兵に「うるさい!」と、鉄格子の隙間から槍の柄でどつかれてた。
セレナーデ以外でワインに触れたのは、俺とテノール兄上と、アリア、チェン、トロン、メイドだ。
俺はもちろん自分じゃないと分かってるから、除外する。
テノール兄上とメイドも、動機が無いから除外する。
(やはりどう考えても、この3人しかいない…犯人は誰だ?)
アリアなのか?チェンなのか?それともトロンか?
少しでも手がかりを得ようと俺は目を閉じて、そもそもの始まりを思い返した。