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凛年期  作者: K
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回想1

現在無職で何をして良いか分からない、20代後半の男が居た。

男はずっと無職だった訳ではない。

以前は公務員として勤務していた男はなぜ安定を捨てたのか。

男は激しい雨が窓を叩く音で目を覚ました。

布団の中から手探りでスマホを探し、時間を確認した。


6月17日(金) 8:13

画面が眩しく、すぐにスマホを伏せて布団をかぶった。


もう少し寝よう。

そう思い目を瞑ったが、雨音のせいかなかなか寝付けなかった。

布団で耳を覆ったが鬱陶しく思い雨音に耳を傾けた。


雨が男に今日は何もしなくていいと思わせてくれた。

しばらくしてから腕と頭を出しスマホを手に取った。


通知はクーポンやネットショッピングの案内が3通ほど来ていた。

それを見ずにSNSを開いたが、中学高校の同級生の旅行や仕事の成功談など、今の男にはどれも妬ましくなるような投稿ばかりで、すぐに閉じた。

同級生とは成人式で会ったきり、誰とも連絡すら取っていなかった。


「懐かしいな」

男は過去に撮った写真を見ながら昔を思い出していた。

2016年3月29日の写真には居酒屋でスーツ姿の男女が数人写っていた。



スマホのアラームが暫く鳴っている。

男はそれを少し聞いてから慌てて時間を確認した。

2月24(月) 6:53

「やっば」

男は勢いよく布団から出てスーツに着替え、家を出ようとしたがネクタイを忘れたことに気付き急いでクローゼットに取りに戻った。


外が雨だということに気付いたのは玄関を出てからだった。

「まじか」

ため息混じりに言葉を吐き捨てながら車まで小走りした。


3年前に就職してから買った軽自動車に乗り込んだ。

時刻は7:12の表示だった。

いつも6時30分には起きて7時前に出て、職場にちょうどいい時間に到着していることを考えると、遅刻するかもしれない。


職場まで1時間掛からないぐらいだが、今日は雨で道も混むよなぁ。

少し考えはしたものの高速へと車を向けた。


やはり雨で渋滞はあったが、高速のおかげか遅刻はしなかった。

「530円で遅刻しないなら安いか」

自分に言い聞かせるように言った。


高校を卒業してから地元の市役所に就職した。

周りからは公務員なら安定だねと散々言われた。

両親も喜んでいたが、実家を出てからは休暇で帰る時くらいしか特に連絡も取っていない。


自分の席に着き、同僚との雑談もさほどせずに定時まで淡々と書類と向き合う。

周囲の人間と仲が悪い訳ではないが、自分からコミュニケーションを取るタイプでも無かった。


「このまま毎日毎日、同じこと繰り返して定年までなのか」

帰り道にふと考えると少し虚しく思えた。

確かに公務員はずっと安定していて、福利厚生だって良い。

不安だってないし、今のところ暮らしに不自由もない。


次の日、男は上司に退職を願い出た。


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