エアロビ
新宿から私鉄に乗って20分ほどの
距離にある駅の西口に降りると目の前
に5階建のビルがあった
そのビル全部がスポーツクラブで1階はプール
2階はロッカールームとバス3階はスタジオ4階はジム
5階体育館と豪華な施設で夜12時まで営業し
昼間は近隣の老人がコミュニケーションを兼ねて
集まり夕方は会社帰りのサラリーマン、OLがトレーニングに通う人気の場所だった。
ある日の午後、サウナルームに60歳過ぎの5人の男性が入っていた。
毎日通う顔見知りで10程度の時間でも声を掛け合って話をしていた
「じゃあ、お先に暑い、暑い」男は尻に敷いたタオルを持ち
ドアを押した。
「あれ、開かない」そう言って体重をかけて押したがびくともしなかった
熱くなっている木のドアに肩をぶつけても何の反応も無かった
「開かないんですか?」
「はい」
五人の男達は一緒になってドアを押してもそれは開かなかった
最初の男性がサウナに入ってすでに20分以上立っており
体中から汗がふきだして、めまいを起こしていた。
「非常ベル!!」一人はそう言ってボタンを押した。
まもなくスタッフが駆けつけドアを引いても開かず
ガラス窓をハンマーで叩き割った瞬間、もの凄い風圧が出た、
すると重く閉ざされたドアが軽く開いた
中に閉じ込められていた男性は、サウナルームから運び出され
水をかけられ救急車の到着を待った
そのサウナルームはカラカラに乾いていた
礼司は1日置きに板橋の自宅近所の
スポーツクラブにトレーニングに行っている。
ジムではちょっと有名なマッチョな礼司は常連の男達とは顔見知りで
「こんにちは」
真っ黒に焼けたボディビルダー風のイケメンの男が声をかけてきた
「こんにちは」
「あの、いい体していますね」
「あはは、暇なもので」
「いいえ、形より何か早そうな筋肉していますね」
そう言って礼司の肩をなでた
「おいおい、そっちの人かよ」
礼司は気味が悪くなってスタジオに向かった
普段はウエイトトレーニングと有酸素運動と
2時間のメニューをこなす礼司は
エアロビクスをする事は無いのだが、
唯一このスーパーエアロをやることにしていた
その理由は
「こんにちは」
二十歳過ぎの女性が礼司の隣に来て声をかけてきた
「こんにちは」
礼司は嬉しそうに笑った
「この前ありがとうございました」
「いいえ」
礼司は照れて言った
彼女には以前ウエイトトレーニングを教えた事があったのだった
「どうですか?最近えーと名前」
「はい、真理子です」
彼女は腕の筋肉を見せた
「あはは、良い上腕二等筋だ」
「ありがとうございます」
礼司は上品な仕草と全身の髪の毛の長くモデルのように
均整が取れているボディスタイルの彼女に憧れていた
「みなさんおはようございます」
インストラクターは元気に声をかけると
音楽を流し始めた。
「彼女は美人でいいんだけど音楽の趣味が悪い、あはは」
ウォーミングアップが終わりサイドステップからレッグカールに移って
礼司の額から汗が流れ出したその時
「キーン」
と音がしてスタジオのエアコンが突然止まった
他の連中はそれに気付かず体を動かしていて5分ほど
過ぎると室内の暑さにインストラクターが気付いた。
「すみません、ちょっと休んでください」
そう言ってパネルの室温のレベルを下げた。
すると熱風がエアコンから吹き出した。
「何これ?暑い」聞こえた
「みなさんスタジオから出てください」
インストラクターは入り口のドアを押した
「あら?開かない」
ドアを何度も押したが開かなかった
「僕がやります」
礼司はドアを押した
「やばいこれは何かの力がかかっている」
「きゃー」
悲鳴が奥のほうから聞こえた
礼司が目をやると奥の床がドロドロになって
一人の女性の片足がその中に
引き込まれていた。
礼司はすぐにその女性のところへ行き、足首を引っ張った
すると、そのドロドロが普通の木の床に戻った
「きゃー」
今度悲鳴を上げたのは入り口の近くにいた真理子だった
真理子の体は半分床に吸い込まれていた。
「おい」
礼司は数メートル飛び真理子の腕を引くと
床には大きな口を開けた鬼の顔が見えた
「こら!」
そう言って礼司は思い切り持ち上げた
すると下半身のズパッツが脱げた真理子を引き上げた
「きゃー」
真理子は手で股を隠した
「あはは、綺麗なお尻」
礼司は外にいた男に「割ってくれ」ガラスを割るように指示をした
「は、はい」
その男はすぐにダンベルでガラスを割って入って
来ると凄い勢いで熱い空気がスタジオから出て行った
「開いた」
ドアを押していたインストラクターが言うと
中にいた二十人ほどの生徒は悲鳴と共にスタジオから飛び出した
「ありがとう」
礼司はガラスを割った男に言った
「いいえ」
「あれ、浜田?」
「はい、どうして僕の名前を?」
「俺の事知らないよな」
「はい」
「仕事は警察か?」
「え?」
まもなく警察がスポーツクラブに急行したが
誰も何も理解しなかった
次の日、大田区のスポーツ施設のスタジオで同様な
事件が起きた「きゃー」数人の女性が床に吸い込まれ
しばらくすると「げっぷ」と共に床から
干からびた女性の死体が湧き上がった。
皇居周りの道路ではジョギング中の女性が
地面に吸い込まれ行方不明になった
その日の夕方、礼司は青山墓地で魔美を待った。
しかし、窓も叩かれず携帯電話も通じず
そこへ浜田から電話があった
「夜野さんちょっとお話できませんか?」
「いいよ、どこで?」
「今、前にいます。あはは」
浜田はタクシーの前に立っていた
「乗ってください」
礼司の声に浜田は助手席に座った
「すみません。お忙しいところ」
「はい、どんな用件ですか?」
「実は大田区の施設で我々が遭遇した事件が起きたんですよ」
「うん、それで?」
「我々の時には夜野さんが助けましたけど、大田区では床に吸われてその後
死体が吐き出されたそうです」
「うん、それで?捜査はどうするの?」
「やだなあ、夜野さん。捜査なんてできるわけ無いでしょ
山のように目撃者がいるんだから」
「まあな、床板を逮捕できるわけないなあ」
「実は三日前はサウナルームの扉が開かなくなって
男性が二人死んでいるんです」
「なるほど」
「それで、地獄タクシーの夜野さん犯人は分かっているでしょ」
「まあね、犯人は人の汗を好む鬼だろう」
「鬼?」
「ああ、人を食う鬼だ、あの時一瞬床に鬼の顔が見えた」
「どうやって捕まえる事ができるんですか?」
「鬼のノブが無いと・・・・。その前に魔美を探さないと・・・・。」
「何言っているんですか?」
礼司は少し考えると「よし行くか」
「どこへ?」
「全然寺、じゃあまた」
「夜野さん、私はどうすればいいんですか?」
「あはは、あんたじゃ無理だよ」
礼司は浜田を置いてタクシーを走らせ中野に向かった
タクシーを運転しながら礼司は
魔美のいない不安に陥っていた
「魔美、このままお前が戻ってこなかったら、鬼は退治できないぞ」
礼司が中野に着くと全然寺を尋ね呼び鈴を押した
「こんばんは」