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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クリスマスのおかげ

作者: 牧原にちか


 ついにこの季節がやってきた。


「もうクリスマスだな~」

「いや、まだ11月が始まったばっかだぞ」


 的確なツッコミを入れてくれたのは、大学で知り合った小林幸人。俺、佐藤駆の親友だ。プラス、好きな人でもある。

 俺は今、幸人といつもの学食タイムを送っているわけだが、俺の今日の気合いは一味、いや百味ぐらい違う。何せ今から親友兼好きな人に対して人生最大の作戦を実行するのだからな。

 俺の作戦はこうだ。まず、俺に恋人ができなかったら2人でクリスマスパーティーをしようと持ち掛ける。ここで重要なのは”恋人が欲しかったけどできなかった俺”を演出すること。この演出が次の作戦に効いてくる。その作戦は、クリスマスパーティー当日、俺が幸人に恋人ができなかった悲しさを紛らわせてほしいと頼んで、恋人ごっこを提案すること。幸人はやさしいから慰めるためならと俺の提案に乗ってきてくれるはずだ。そして、恋人ごっこと称して幸人と手をつないだり、ハグしたり、キス……までできたら何も言うことはない。そう、これは俺の初恋を叶えるために考えた「クリスマスの奇跡を起こそう作戦」なのだ。そして、俺はその思い出を後生大事に、今後の人生を生きていこうと決意している。

 今日は俺の作戦の最初の1手だ。


「いやいや、世の中はハロウィンが終わったと同時にクリスマスムードだよ?どっかのお店行ってみ、サンタの人形飾ってあるから」

「まぁ、確かにな。ハロウィンの次のイベントはクリスマスか……」

「そうそう!それにクリスマスの日に恋人と過ごしたかったら、今から動かないと!」

「恋人ね……。駆はそういうの、興味ないと思ってたわ」

「普通にあるよ!今年は特にね」

「ふ~ん」

「まっ、今年もできなかったら、また25日に2人でクリスマスパーティーしようぜ」

「もうできない可能性を視野に入れてるじゃん」

「クリぼっちは嫌なのよ。一応、万が一の保険はかけとこっかなってね。あっ、でも幸人に恋人ができる可能性もあるのか……」

「俺は大丈夫。クリスマスまでに恋人ができることはないから」

「あっ、そう?別にできたらできたでそっち優先でいいからな?」

「大丈夫、ほんとにないから。駆を慰める準備しとくよ」

「いや、お前こそ俺に恋人ができないと思ってるじゃん!」


(よし!最初の作戦成功!)

 俺は内心、ガッツポーズを決めた。


 それから俺は幸人の前でだけ恋人を作る”フリ”を続けた。「これから合コン行くんだ~」とか「マッチングアプリ、登録してみた!」とか、これ見よがしに恋人作りに奮闘する姿を演出した。それもこれも幸人に俺が提案する恋人ごっこにYesを言ってもらうためだ。幸人は思いやりがあるから奮闘するも恋人ができなかった俺を見て、「そんなに欲しかったのか……。それなら恋人ごっこぐらい付き合ってやろう」と、こう考えてくれるはずだ。自分で作戦を立てておいて、幸人に嘘をつき、幸人の良心に付け込む作戦だな……と苦笑いしたが、後戻りはしない。1日だけの初恋を叶えるんだ。




 そして、迎えたクリスマス・イブ

「幸人ーーー!!!結局できなかったーーーー!」

「まぁ、しょうがない。駆の良さは2ヶ月ぐらいじゃあ伝わらないよ。」

 やっぱりやさしい……

「あ、ありがとう。でも、今年こそはラブラブカップルの仲間入りを果たそうと思ってたのに……」

「元気出せよ。お前の場合、短期間の付き合いで恋人になるより、長く一緒にいてから恋人になる方が合ってるタイプだよ」

「俺には目を引くような魅力がないってこと?」

「そうじゃなくて、なんとなく駆にはお前自身よりお前のことを理解している人がいいじゃないかって思っただけ」

「そっか。長期戦にしろってことね。それはそうと、幸人は?恋人できた?」

「俺は作らないって言ったじゃん」

「確認だよ、確認。じゃあ、ぼっち同士クリパってことで」

「あぁ」

 よし!ここから仕掛けるぞ。

「にしても、やっぱり恋人のいるクリスマスを送りたかったなーー。悲しいなーー」

「そうか……駆はそんなに恋人が欲しかったのか……」

 おっ、いい感じ!このまま一気に決める!!

「あっ、いいこと思い付いた!なぁ、ゆき……」

「なら、俺が恋人しようか?」

「へ?」

 今、何て言った?「コイビトシヨウカ」って言った?ちょっと待って。変換が追い付かなかったな。「コイビトシヨウカ」って「恋人しようか」?

「えっと……」

「駆は恋人と過ごすクリスマスを経験したかったんだろ?クリスマスパーティーでそれっぽい雰囲気は味わえるようにするよ」

「えっ?あっ、ありがとう……」

「どういう感じを想像してたの?言ってみ」

「え、えぇーーと、そうだな……手を繋ぎながらイルミネーションを見て、家でクリスマスパーティーして……って感じ?」

「俺らがやろうとしてることとほぼ変わらないじゃん」

 やばい、俺テンパってる。思い通りに事が進んでるよな?明らかに想定と違うけど。まさか幸人から恋人ごっこの提案がされるとは。でも、これで幸人と恋人っぽい思い出ができるってことだよな?結果オーライ?

「じゃあ、駆。明日、駅前に18時で待ち合わせようか?」

「えっ?幸人んちならもう知ってるから1人で行けるよ」

「イルミネーション見たいんだろ、手つなぎながら」

「あっ、そっか。ありがとう、幸人。じゃあ、明日、駅前に18時で」

 幸人がせっかく俺の希望を聞いてくれたのに、断るところだったとか、俺は馬鹿か!でも、幸人から恋人チャンスをくれるなんてな……。幸人の良心に付け込んでる罪悪感はやっぱりあるけど、明日は命一杯思い出を作らせてもらおう。



 クリスマス

 駅に着いた俺はキョロキョロと周囲を見回す。

「駆!」

「幸人!待った?」

「ううん。今来たとこ」

「フッ………今、ベタな会話だったな」

「確かに。じゃあ、行こっか」

 幸人が手を差し出してくれる。友達だったら、絶対やらない行為だ。俺は幸人の恋人モードにありがたさと申し訳なさを感じながら、その手に自分の手を重ねた。

 今日だけ、今日だけは幸人は俺の恋人なんだ。噛みしめろ、今を精一杯。


「イルミネーション、綺麗だな」

「そうだな」

 曖昧な答えを返してしまったが、正直、イルミネーションどころではなかった。好きな人と手をつないでいるってこんなにドキドキするのか。手をつないだ直後は手に全神経が集中していた。そこから、広がって幸人全体までは神経を使えるようになったが、イルミネーションは完全に蚊帳の外だ。逆にぼんやりとしか認識していないから、幻想的な雰囲気を感じなくもない。が、結局、幸人だけにスポットが当たっている。


 そして、俺たちはクリスマスパーティー会場である幸人の一人暮らし部屋に着いた。

「さぁ、上がって」

「お邪魔します。準備とかまだだろ?手伝うよ」

「もう大方終わってるよ。あとは買っておいたチキンを温めるぐらい。今日は俺がおもてなしするからさ、駆は存分に楽しみな」

その言葉通り、俺はクリスマスの飾りつけが完璧な部屋に案内された。ちっちゃいクリスマスツリーまである。去年はなかったのに。

「すっっっごいな!幸人、これ全部準備してくれたんだよな!ありがとう!!」

「喜んでもらえてよかった。じゃあ、早速シャンパンで乾杯するか」

「えっ!シャンパンまで買ったの!あとで、準備にかかった費用、ちゃんと割り勘するからな。隠さず言えよ!」

「大丈夫、大丈夫。そういう話はパーティーが終わったらな。はい、グラス」

「ありがと。じゃあ、せーのっ!」

「「乾杯!!」」


 やばい……楽しすぎる。幸人とおいしい料理を食べて、話して、笑って。2人とも少し酔ってるからか、どことなく距離も近いし。もうキスとかそういうザ・恋人なものはいらない。今まで過ごしてきた時間で思い出は十分だ。

 

 片づけが終わったテーブルを見て、ちょっとガッカリした。もうこの幸せな時間が終わるんだって分かったから。満足はしていた。ただ、いざ終わるとなるともう少しだけ夢を見ていたかった思いが溢れてくる。

「今日のパーティーどうだった、駆?」

「最高に楽しかったよ!ありがとう!」

 一生懸命明るさを作って答えた。

「良かった~ なぁ、駆……俺、頑張ったよな?」

「うん。ホント、ありがとう!」

「ならさ、俺にご褒美くれない?」

「ご褒美?」

 なんか、初めての展開だ。幸人が俺に何かを頼むなんて。しかも、”ご褒美”?

「何が欲しいの?俺にできることなら何でも……」

「じゃあ、目をつむってくれない?」

 俺は言われたとおり目を閉じた。俺が目をつむってできる”ご褒美”って何だ?


 すると、俺の唇に同じやわらかさの”何か”が触れた。

 思わず、目を開けると一面、肌?

 いや、幸人だ。幸人の匂いがする。

 

 なんかよく分からないが、幸人とキスをしている。そう理解したのは幸人が俺の唇から離れたときだった。

「……初キスだな」

 満足そうな顔で微笑みながら幸人が言った。

 幸人は今日が終わるまで恋人のフリを全うしてくれるようだが、俺は十分思い出をもらった。早く友達に戻ってあげなくちゃ。

「えっ……あっ、そこまで恋人っぽいことしてくれなくても良かったのに。今までで十分恋人がいる雰囲気味わえたから大丈夫だったよ?」

「ん?どういうこと?駆と俺は昨日、恋人になったよな?」

 思考がフリーズした。「コイビトニナッタヨナ?」幸人、今、おそろしいほど俺に都合のいいこと言ってくれた?えっ?俺もう夢の世界に行ってたのか?全然現実と夢の境界線が分かんなかった……


「おーーい!起きてる?俺、大事な確認したいんだけど」

「えっ? あぁ、ちょっと1回俺の頬、つねってみてくれる?」

「いいよ」

 そういうや否や幸人はあろうことかもう1度唇を合わせてきた。今度は舌を入れてくる高度でエロいやつだ。


「っはーー!もういい。1回ストップ!!」

「現実に戻ってきた?」

「あぁ…… いや、俺も確認したい。俺とお前はいつ恋人になったの?」

「昨日。俺が「恋人しようか?」って言ったら、「ありがとう」って言ったじゃん。嬉しかったよ、俺!ずっと駆のこと好きだったから」

「それは、てっきり恋人ができなかった俺を慰めようと幸人が1日市長ならぬ1日恋人をやってくれるもんだと……」

「えっ!!じゃあ、俺は駆と恋人になってなかったの?今日は恋人1日目だと思って、色々と気合い入れて頑張ったのに……」

「いや、俺の方こそ元はと言えば、幸人と1日だけでいいから恋人になりたくて色々仕掛けたというか……」

「どういうこと?」

 俺は衝撃的なことが続いて、まったく追い付いていない頭をフル回転させて幸人に「クリスマスの奇跡を起こそう作戦」のあらましを伝えた。


「そういう作戦で動いてたのか。なんで合コンとかマッチングアプリとかいう嘘をついてるのか不思議に思ってはいたけど」

「えっ!バレてたの?」

「駆のことを合コンに誘いそうなやつは俺が先手を打って止めてたし、マッチングアプリはいろんな方法で検索したけどヒットしなかったから本当はやってないんだろうなって。恋人作りたいって言ってるわりには服装も気を使うそぶりがないし。いつものカジュアル・オブ・カジュアルスタイルを崩してないもんな」

「うっ……そうだったのか……」

「で、駆の1番の希望は俺を恋人になることだったんだよね?なら、俺と恋人続行でいいよね?」

「ああ!幸人、大好きだ!!恋人になろう!!」

「俺は昨日からそのつもりだよ。駆、俺も大好きだ!」





 クリスマスに本当の奇跡が起こっちゃった話


初めて創作したので、至らぬ点が多かったかと思いますが、読んでいただきありがとうございました。

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