昨夜の御贈物、今朝ぞこまかに御覧ずる。
昨夜の御贈物、今朝ぞこまかに御覧ずる。御櫛の筥の内の具ども、言ひ尽くし見やらむかたもなし。手筥一よろひ、かたつかたには白き色紙作りたる御冊子ども、『古今』、『後撰集』、『拾遺抄』、その部どものは五帖に作りつつ、侍従の中納言<行成>、延幹と、おのおの冊子一つに四巻をあてつつ書かせたまへり。表紙は羅、紐同じ唐の組、懸子の上に入れたり。下には能宣、元輔やうの、いにしへいまの歌よみどもの家々の集書きたり。延幹と近澄の君と書きたるは、さるものにて、これはただけ近うもてつかはせたまふべき、見知らぬものどもにしなさせたまへる、今めかしうさまことなり。
※延幹:能書家で当時有名な僧侶。
※能宣:大中臣能宣。『後撰集』の撰者。36歌仙の一人。
※元輔:清原元輔。『後撰集』の撰者。36歌仙の一人。清少納言の父。
※近澄の君:不明。
中宮様は、昨晩の道長様からの御贈り物を、今朝、しっかりとご覧になります。
御櫛箱の中の道具類については、素晴らし過ぎて語りつくせようがなく見飽きることがありません。
手箱は一対で、一つには白の色紙を使った御本、古今集、御饌集、拾遺抄など、それぞれ五冊に仕立ててあり、書写した人は侍従の中納言(行成)、延幹と、それぞれ冊子一つに歌集の四巻を割り当てて書かせています。表紙は羅、紐も同じ。唐風の組紐にして、懸け子の上の段に入れてあります。
下の段には能宣や元輔のような昔や現代の歌人の歌集を書写させて入れてあります。
延幹と近澄の君が書写したものは、当然ながら立派なものであり、中宮様が普通に身近に置いて使われるものは無名の人に書かせた御本で、なかなか現代風で雰囲気も変わっている。
道長から娘である中宮彰子に献上した贈り物を説明している。
紫式部も中宮付き女房として、その贈り物を拝見する栄誉を得る。




