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月の隈なきに、いみじのわざやと思ひつつ足をそらなり。
月の隈なきに、いみじのわざやと思ひつつ足をそらなり。馬の中将の君を先に立てたれば、行方も知らずたとたどしきさまこそ、わが後ろを見る人、恥づかしくも思ひ知らるれ。
(内裏に入り)月は全く曇ることなく、とにかく恥ずかしい思いなので、足もフラフラになる。馬の中将を先に歩かせれば、どこへ向かうのやら足取りもたどたどしい。
そんな様子を見ていると、私を後ろから見る人も同じように見ているだろうと思われ、実に恥ずかしい思いを味わったのです。
この時代、女性が顔を夫や家族以外の他人に見せるなど、恥ずかしいとされる時代だった。紫式部も他人の目を気にして、恥ずかしがっている。




