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紫式部日記 舞夢訳  作者: 舞夢
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八月二十余日のほどよりは、

(原文)

 八月二十余日のほどよりは、上達部、殿上人ども、さるべきはみな宿直がちにて、橋の上、対の簀子などに、みなうたた寝をしつつ、はかなう遊び明かす。

琴、笛の音などには、たどたどしき若人たちの、読経あらそひ、今様歌どもも、所につけてはをかしかりけり。

 宮の大夫斉信、左の宰相中将経房、兵衛の督、美濃の少将済政などして、遊びたまふ夜もあり。

 わざとの御遊びは、殿おぼすやうやあらむ、せさせたまはず。

 年ごろ里居したる人びとの、中絶えを思ひ起こしつつ、參り集ふけはひ騒がしうて、そのころはしめやかなることなし。


※上達部:三位以上の人。大臣、大・中納言・参議など。

※殿上人:清涼殿の殿上の間に昇ることを許された人。四位、五位の一部と六位の蔵人。

※宮の大夫斉信:中宮職の長官。藤原斉信。太政大臣為光の息男。従二位権中納言右衛門督。

※左の宰相中将経房:源経房。従三位参議兼近衛中将。左大臣高明の息男。宰相は参議の唐名。

※兵衛の督:右兵衛督源憲定。この時点は非参議の従三位。

※美濃の少将済政:源済政:道長の妻源倫子の兄弟源時中の子。管弦の名手。従四位下で美濃守を兼ねていた。

※わざとの御遊び:管弦の正式な集い。

※中越え:里下がりの期間。


(舞夢訳)

8月20日過ぎより、上達部や殿上人たちの中で、近い関係の方々は、ほとんど泊まり込みになられました。

渡殿の上、対の簀子などで、皆、うたた寝をしていたり、手持ちぶさたで楽器などを奏でて、夜を明かします。

その中で、琴や笛の音は、まだまだ未熟な若い人たちではあるけれど、読経比べや今様の歌なども、このような場所が場所だけに、素敵なものでした。

宮の大夫様や左の宰相の中将様、兵衛の督様、美濃の少将様などの面々も、ご一緒に演奏なされる夜もあります。

ただし、正式な管弦の集いなどは、道長様には、お考えがあり、開かせることはありません。

しばらく、お暇をいただいて、里下がりをしていた女房達も、次々に御無沙汰から気を取り直して参集する様子は、なかなか騒がしい。

そんな折には、落ち着いた雰囲気などは、消え去ってしまう。


中宮彰子のご出産予定日が近くなり、道長と関係の深い人々は屋敷に宿直するようになる。

そうかといって、自分が出産するのではないので、暇なのである。

その手持ちぶさたに、楽器やら歌で遊ぶ。

管弦の名手たちが、合奏する場合もある。

しかし、道長は「正式に」は認めない。

やはり「万が一の不幸」を心配するし、その「不幸」は、天皇家の不幸であり、道長家の不幸と失墜につながるのだから。

下手に「正式な」管弦の集いをして、「不幸」となれば、末代までの物笑いの原因になる、それを考えていたのだろう。


里下がりをしていた女房達が、この時とばかりに戻って来るのは、ご出産の手伝い、その後に予定済み、手配済みの豪華な饗宴の仕事で、人手が必要になるため。

それと、道長からの、ご出産に伴う「仕事へのご褒美」を期待してのことである。

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