今宵、少輔の乳母、色聴さる。
今宵、少輔の乳母、色聴さる。ここしきさまうちしたり。宮抱きたてまつり、御帳の内にて、殿の上抱き移したてまつりたまひて、ゐざり出でさせたまへる火影の御さま、けはひことにめでたし。赤色の唐の御衣、地摺の御裳、麗しくさうぞきたまへるも、かたじけなくもあはれにも見ゆ。大宮は葡萄染めの五重の御衣、蘇芳の御小袿たてまつれり。殿、餅はまゐりたまふ。
※少輔の乳母、色聴さる;若宮の乳母。乳母は四六時中若宮と接することもあり、、他の女房とは別格に重んじられた。
※餅:祝餅。五十日、百日の誕生の祝宴で父(または祖父)が赤子の口に含ませる慣習があった。
この日の夜、少輔の乳母が禁色を許されました。そのため、作法に基づいた正式な衣装を身に付けています。若宮をお抱き申し上げています。
御帳台の中では、道長様の北の方様が若宮をお抱き取り申され、にじり出て来られる、そのお姿が灯火に浮かび、実に素晴らしいご様子と思います。
赤色の御唐衣で、地摺の御裳を麗しくお召しになられておられるのを拝見するのも見に余る光栄でもあり、感激の至りでもあります。
大宮(中宮)様は葡萄染めの五重の御衣に蘇芳の御小袿をお召しになれています。
殿(道長)が、若宮へお餅を差し上げなさります。




