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紫式部日記 舞夢訳  作者: 舞夢
53/178

御輿迎へたてまつる船楽いとおもしろし。

(原文)

御輿迎へたてまつる船楽いとおもしろし。

寄するを見れば、駕輿丁のさる身のほどながら、階より昇りて、いと苦しげにうつぶし伏せる、なにのことごとなる、高きまじらひも、身のほどかぎりあるに、いと安げなしかしと見る。


※御輿:天皇が乗る鳳輦ほうれん

※迎へたてまつる船楽:龍頭鷁首れうとうげきしゅの船の中から演奏される奉迎の音楽。天皇の鳳輦ほうれんが土御門殿西中門から南庭に入り、演奏を開始。

駕輿丁かよちょう鳳輦ほうれんの担ぎ手。朝廷の下級官僚。12人で隊列を組み、肩の上に担ぐ。

※階より昇りて:御輿を担いで、寝殿の南側の階段を昇って。



(舞夢訳)

帝の御輿をお迎え申し上げる船楽は、実に素晴らしく晴れがましい。

御輿を階段に担ぎ寄せる様子を見ていると、駕輿丁かよちょうたちが、情けない程に賤しい身分でありながら、寝殿南側の階段を担ぎ昇り、かなり苦しそうに這いつくばっています。

その苦し気な様子は、私自身が感じていることと、どれほど違っているのだろうか。

高い身分の方々にまじっての宮仕えをしてはいるけれど、そもそもの自分の身分をわきまえなければならない。

それを冷静に考えれば、こんな生活がいつまで続くとも限らず、安心などできない。

そんな思いを抱きながら、様子を見させていただいております。



一条天皇は、土御門殿の寝殿簀子に、鳳輦ほうれんを乗り付けて、出御した。

駕輿丁かよちょうは、鳳輦ほうれんの轅を肩にして、階段を昇ると、身体を屈して、轅を寝殿の簀子に置き、天皇出御の間はその体勢を崩すことなく、待機しなければならない。特に、前方の担ぎ手は、ほぼ這いつくばりの状態で、かなり苦しい。


ついに一条天皇の御到着。

この日のために、新造された絢爛豪華な龍頭鷁首れうとうげきしゅの船の中からは、華やかな奉迎の音楽が響き、道長を中心とした土御門殿の晴れがましさは、頂点に昇り詰める。

しかし、紫式部の視点は、そこにはない。

苦しそうに這いつくばる駕輿丁かよちょうを見て、「どれほど自分と違うのか」と、考える。

紫式部としても、中宮付の女房であるから、駕輿丁かよちょうよりは、はるかに身分が上になるけれど。

ただ、紫式部自身が、女房の中では、実家の格が低い。

そもそも、実家の格と言うよりは、才女、として召し抱えられたのだから。

おそらく、女房仲間の会話の中で、「紫式部への身分差別」も、かなりあったのだと思う。

だから、「才女」とは言え、うかつに言葉を口に出せず、他の女房たちに頭を下げ続ける生活なのである。

「なにのことごとなる」あの這いつくばる駕輿丁かよちょうたちと、自分がどれほど違うのか。

「身のほどかぎりある」のだから、常に自分の実家の格をわきまえなければならない。だから自らの言動には細心の注意を払い、余計なことを言ったり、行ってはならないの意味を込める。



ここまで考えて来ると、源氏物語で桐壺更衣の不幸に、つながる部分がある。

身分が低い桐壺更衣は、桐壺帝に愛され過ぎて、他の女房たちの強い反感を買った。

紫式部も、道長に話し込まれるたびに、同僚女房たちの反感を買っていたのではないかと思う。


※紫式部は、才人として知られ、また「源氏物語(当時は書きかけだったらしい)」の作者として知られていたけれど、道長がスカウトした本来の意図は、息子頼道と具平親王家の婚儀(具平親王家は、紫式部の実感と関係が深かった)への影響力を期待していたのかもしれない。

そのため、道長は、紫式部に何度も相談をかけていた。



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