暁に少将の君参りたまへり。
(原文)
暁に少将の君参りたまへり。
もろともに頭けづりなどす。
例の、さいふとも日たけなむと、たゆき心どもはたゆたひて、扇のいとなほなほしきを、また人にいひたる、持て来なむと待ちゐたるに、鼓の音を聞きつけて急ぎ参る、さま悪しき。
※少将の君:紫式部が心を許せる数少ない同僚女房。里下がり(自分の家にいた)けれど、出勤して来た。
※例の:いつもの通り(行事が遅延する)のことを言う。この日の天皇の出発も午前11時と、事実遅延。
※扇のいとなほなほしき:扇が平凡なものであったので。
(舞夢訳)
夜明け前に、少将の君が出勤して来ました。
私たちは、一緒に髪の毛を梳いたりします。
行事や儀式は遅れることが常なので、今回もそうなるだろうと思っていました。
それで、辰の刻と言っても、お昼近くになると思い込み、宮仕えが面倒な私たちは、のんびりっと過ごしておりました。
また、「扇がいかにも平凡なので、他の扇を持って来るようにと、人に頼んであるけれど、早く持って来てくれないかしら」などと、のん気にしていたら鼓の音が聞こえて来ました。
それで帝の行列と察して、慌てて中宮様の御前に参上するので、実に恥ずかしいことでした。
紫式部が語る、自身の珍しい失敗である。
のん気に構えていたら、帝が来てしまった。
それで、大慌てで、中宮様の御前に参上する始末。
恥ずかしくさのあまり赤面する紫式部も、見てみたいと思う。




