上達部、座を立ちて、
(原文)
上達部、座を立ちて、御橋の上にまゐりたまふ。
殿をはじめたてまつりて、攤うちたまふ。
上の争ひ、いとまさなし。
歌どもあり。
「女房、盃」
などある折、いかがはいふべきなど、口ぐち思ひ心みる。
めづらしき光 さしそふさかづきは もちながらこそ 千代もめぐらめ
※御橋:渡り廊下の橋。
※攤:遊戯双六の一種。二個の賽を筒に入れて振り出し、出た目を競う遊びで賞品をかける。
※上の争ひ:攤の賞品は紙。それと身分の高い上をかけている。
※「女房、盃」:「女房たちは、盃を受けて歌を詠みなさい」の略。
(舞夢訳)
上達部は席をお立ちになり、渡り廊下の橋の上に、お移りになりました。
道長様をはじめとして、双六の遊びをなされるようです。
それにしても、「お上」が「紙」を掛けての勝負など、いかがなものでしょうか。
和歌の趣向もあります。
「女房たちは、盃を」(女房たちは、盃を受けて歌を詠みなさい)と言われるかもしれないので、それぞれが考えて口ずさんでいます。
私(紫式部)としては、
見事な月の光に加え、皇子様という新しい光が加えられた、晴れがましい盃でありますので、今宵の素晴らしい満月さながらに、欠けることなく、永遠にめぐり続けることでありましょう。
皇子誕生を祝う道長主催の宴会が進み、双六遊びや、和歌の趣向など、打ち解けた雰囲気を記述する。
尚、紫式部の歌は、文才に優れた彼女なので、おそらく事前に準備していたと思われるが、実際には披露はされなかったようだ。




