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その夜の御前のありさま、いと人に見せまほしければ、
(原文)
その夜の御前のありさま、いと人に見せまほしければ、夜居の僧のさぶらふ御屏風を押し開けて、
「この世には、かういとめでたきこと、まだ見たまはじ。」
と、言ひはべりしかば、
「あなかしこ、あなかしこ。」
と本尊をばおきて、手を押しすりてぞ喜びはべりし。
(舞夢訳)
その夜の中宮様の御前の様子につきましては、実に素晴らしく思えたので、私は誰かに見せたくて仕方なくなってしまいました。
それで、夜居の僧侶が控えている屏風を押し開けて、
「この現世では、これほどのおめでたくすばらしい様子など、二度とはご覧になることはないでしょう」
と、申してしまいました。
すると、夜居の僧侶は、
「ああ、おそれおおい、おそれおおいことで」
と、自ら拝むご本尊などはさておいて、手をすり合わせて、喜んでおりました。




