御帳の東面二間ばかりに、
(原文)
御帳の東面二間ばかりに、三十余人ゐなみたりし人びとのけはひこそ見ものなりしか。
威儀の御膳は、采女どもまゐる。
戸口のかたに、御湯殿の隔ての御屏風にかさねて、また南向きに立てて、白き御厨子一よろひにまゐりすゑたり。
夜更くるままに、月のくまなきに、采女、水司、御髪上げども、殿司、掃司の女官、顔も見知らぬをり。
みかど司などやうの者にやあらむ、おろそかにさうぞきけさうじつつ、おどろの髪ざし、おほやけおほやけしきさまして、寝殿の東の廊、渡殿の戸口まで、ひまもなくおしこみてゐたれば、人もえ通りかよはず。
※威儀の御膳:儀式を盛り上げる飾り御膳。菓子、干物、餅などを白木の膳に盛る。
※采女:後宮の下級女官。御膳運びや雑役を担当する。
※水司:水や粥担当の下級女官。
※御髪上げ:理髪担当の下級女官。
※殿司:火燭や油担当の下級女官。
※掃司:掃除や敷物担当の下級女官。
※みかど司:宮中緒門の鍵管理担当の下級女官。
(舞夢訳)
御帳台の東側で、柱の間二間ほどの場所に、三十人くらいの女房たちが座っておりまして、それは実に見事なものでした。
威儀の御膳は、采女たちがお運びします。
会場の戸口あたりには、御湯殿の仕切りの屏風に重ねて、さらに屏風を南向きに立て、そこに据えた白い棚一対にお運びして置いてあります。
夜が更けるにつれて、月の光が、くまなく照らすようになりました。
采女や水司、御髪上げたち、殿司、掃司の女官などがおりますが、顔を知らない人もいます。
みかど司なのでしょうか、身なりは貧相なのですが、精いっぱいお化粧をして、簪を大仰にさして、いかにも正装風に整えています。
とにかく、寝殿の東側の縁や、渡り廊下の妻戸口まで、隙間がないくらいに詰めて座っているので、人が歩くことも出来ないほどなのです。




